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148/242

Ep148. 父を知る人

人は本だけでは分からない。どれほど細かな記録を残しても、その人が笑う時の顔までは書けない。怒る時の声も、照れた時の仕草も、文字には残らないのだ。

   ◇ ◇ ◇

村へ戻る途中、小川の近くで老人が薪を割っていた。白い髭を蓄えた、日に焼けた太い腕を持つ老人だった。年齢のわりに背筋は真っ直ぐ伸びている。

「あれ? バーバラじゃないか」

バーバラが笑顔で会釈した。

「ロイドさん」

「薬草採りかい?」

「ええ」

老人の視線が俺へ向く。

「おお、ルークか。大きくなったなぁ」

まだ五歳にも満たない。それでも村では十分に成長した部類なのだろう。

「……そうだ」

老人がふと思い出したように笑った。

「その子、エドワードにそっくりだ」

父のことだ。

「目が特にな。何でも見逃さない目をしてる」

俺は思わず顔を上げた。

「エドワードは昔から変わり者だった」

ロイドは懐かしそうに笑う。

「薬草を摘みに行ってもな、帰ってくるのは夕方だ」

「迷ったの?」

オリヴィアが尋ねる。

「いや。虫を見たり、鳥を眺めたり、木をスケッチしたりしてるからだ」

皆が笑う。

「薬草を採るだけなら一時間もあれば終わるのにな。夕暮れまで帰ってこん」

研究者だ。完全に。前世の俺も、一つ気になることがあると時間を忘れた。

「でもな」

老人の表情が柔らかくなる。

「村の誰かが熱を出したと聞けば、その日の研究なんて全部やめて駆けつける男だった」

「研究より患者。いつもそう言ってた」

胸が少し熱くなる。前世の俺なら、研究を優先したかもしれない。新しい魔法、新しい治療法。未来の患者を救うためだと自分に言い聞かせて。

父は違った。未来も大事。だが、目の前で苦しむ人はもっと大事。

「ルーク」

ロイドがしゃがみ込み、俺の頭へ大きな手を置いた。

「焦らなくていい。お前さんは、お前さんの薬師になればいい」

父と同じにならなくてもいい。そう言われた気がした。父のような優しさ、母のような温かさ、そして前世で積み重ねた医魔術の知識。そのすべてを合わせても、きっと俺は父にはなれない。だからこそ、ルーク・E・オリバーという、新しい医魔術師になればいい。

その言葉は、父を知らない老人から贈られた。いや――父をよく知る老人だからこそ贈ることのできた、何より温かな励ましだった。

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