Ep133. 小さな助手
医者は一人では仕事ができない。
前世でもそうだった。薬を準備する者、患者を案内する者、器具を整える者。皆がいて、初めて診療は成り立つ。
翌朝、家の中は薬草の香りに包まれていた。バーバラは昨日摘んできた薬草を乾燥棚へ並べている。俺はその横に座っていた。ただ見ているだけではない。最近は、簡単な手伝いを任されるようになった。
「ルーク、この葉っぱをこっちのお皿に入れてくれる?」
頷く。両手で薬草を持つ。一枚、また一枚、慎重に皿へ移す。
「上手」
バーバラが笑った。褒められる。悪くない。いや、かなり嬉しい。前世では成果は評価された。論文も、研究も。だがこんな些細なことで褒められた記憶はない。
その時、扉が開いた。
「バーバラさん!」
入ってきたのはトムだった。息を弾ませている。
「イッキが!イッキがすごいんだ!」
何だ、また怪我か。少し緊張する。
「どうしたの?」
「走れるようになった!」
……それだけか。いや、それだけではない。治ったという報告だ。
「見に来て!」
バーバラは笑って立ち上がる。「じゃあ少しだけ行きましょう」
秘密基地へ向かうと、子供たちが集まっていた。
「イッキ!」
オリヴィアが呼ぶ。犬が走る。速い。そして四本の脚を均等に使っている。跛行なし。前脚をかばう様子もない。完治だ。
「すごいでしょ!」
トムが胸を張る。いや、胸を張るのは母だろう。俺はバーバラを見る。母は嬉しそうに笑っていた。
「良かったね」
それだけ。自分の手柄だとは言わない。恩を着せもしない。ただ、回復を喜んでいる。
イッキは走ってきて、俺の前で止まった。そして口に何かをくわえている。小枝だった。
「ルークに?」
オリヴィアが笑う。イッキは小枝を俺の足元へ置いた。遊ぼう、そう言っているらしい。思わず笑ってしまう。患者だった犬は、もう患者ではない。友達になっていた。
そして俺も、ただ見守られるだけの子供ではない。薬草を運び、患者を観察し、母の仕事を少しだけ手伝う。まだ小さな助手。それでも、昨日よりは確かに前へ進んでいた。




