表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
131/149

Ep131. 倒れた老人

医療において最も危険なのは、病気そのものではない。思い込みだ。

前世で何度も見てきた。熱だから風邪。胸が痛いから筋肉痛。立てないから疲労。決めつけは人を殺す。

だからまず見る。聞く。考える。それが基本だった。

◇ ◇ ◇

畑は村の南側にあった。男に案内されるまま、バーバラは迷わず走る。俺も必死についていく。短い足では追いつくのも大変だ。

「こっちです!」

男が叫ぶ。

畑の真ん中に、一人の老人が地面に腰を下ろしていた。周囲には数人の村人。皆、不安そうな顔をしている。

「バーバラ! 来てくれたか!」

老人は意識がある。返事もできている。まず一つ安心だ。

「急に立てなくなったんだ。鍬を持ったまま座り込んで……」

バーバラは老人の前へ膝をついた。

「おじいさん、話せる?」

「……ああ」

声はしっかりしている。

「胸は苦しい?」

「いや」

「息は?」

「大丈夫だ」

「手は動く?」

老人は両手を動かす。問題ない。

「足は?」

「力が入らん……」

◇ ◇ ◇

俺は老人を観察する。顔色、呼吸、汗、瞳。大量の汗。息はやや速い。だが苦しそうではない。

空を見上げる。春とはいえ、今日は暖かい。日差しも強い。畑仕事をずっと続けていたなら、脱水、疲労、その可能性もある。

しかし、決めつけるな。前世の自分が何度も戒めたことだ。

「今日は何も食べてないの?」とバーバラが尋ねる。

「朝……少しだけだ」

「水は飲んだ?」

老人は少し考えて、「……そういや、あんまり飲んでなかった」と答えた。

バーバラは村人を見る。「まず水を。冷たすぎないものを持ってきて」

「分かった!」一人が走る。

続いてバーバラは老人の肩に手を添えた。「すぐに立たなくていいわ。少し休みましょう」

焦らせない。安心させる。見事だった。

◇ ◇ ◇

その時、俺の視界にあるものが映る。鍬。掘り返された土。そして、畑の隅に積まれた収穫籠。

……多い。一人で運んだのか。

老人の手を見る。掌は赤く擦れていた。働き過ぎだ。

病だけではない。生活そのものが原因かもしれない。医者は病気だけを診てはいけない。患者の暮らしも診なければならない。それもまた、前世で学んだことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ