Ep130. 目で学ぶ
人は教えられて育つとは限らない。見て育つこともある。前世の俺は、それを軽く考えていた。
技術は言葉で教えるもの。知識は本で学ぶもの。そう思っていた。
だが、目の前の母は違う。誰にも講義などしない。難しい理屈も話さない。それでも俺は毎日学んでいた。
数日後。朝からバーバラは薬草を摘みに出かける準備をしていた。背負い籠、小さな鎌、布袋。
「ルークも行く?」
俺を見る。もちろんだ。
「う!」
「今日は私も行く!」
オリヴィアが元気よく手を挙げた。君はいつもいるな。
「じゃあ三人で行きましょう」
村を出ると、春の風が草を揺らしていた。畑の向こうに小さな丘があり、その先に雑木林がある。
「ここから先は足元に気をつけてね」
バーバラが言う。俺は頷いた。
歩きながら周囲を見る。植物、木々、湿った土。この世界は前世とは違う。同じように見えて、少しずつ違う。
「これが熱冷まし」
バーバラが葉を摘む。
「こっちは傷薬」
一つ一つ説明する。俺は真剣に聞いた。いや、聞くだけではない。形、葉脈、匂い、生えている場所。全部覚える。前世の知識を当てはめるのではなく、この世界の薬草として。
「ルーク」
バーバラが笑う。
「そんなに真剣に見なくても逃げないわよ」
逃げない。確かに、薬草は逃げない。しかし、見落とせば患者を救えない。
その時だった。
「バーバラさん!」
遠くから男が駆けてきた。息を切らしている。
「どうしたの?」
「父さんが倒れた!畑で急に!」
空気が変わった。バーバラの表情から笑みが消える。
「意識は?」
「ある!でも立てない!」
バーバラは即座に籠を背負い直した。
「案内して」
迷いがない。オリヴィアが俺の手を握る。
「ルーク、急ごう!」
俺も走り出した。胸が高鳴る。これは、この世界へ来て初めて遭遇する、命に関わるかもしれない患者だった。




