Ep124. 初めての往診
医者の仕事は診察室だけではない。患者が来られないなら、こちらから行く。往診というやつだ。
もちろん、今の俺は医者ではない。ただの子供だ。しかし、患者は目の前にいる。
イッキだ。
秘密基地の入口、いつもの場所で寝ている。食事のおかげか、目つきはかなり良くなった。だが、脚はまだ治っていない。
俺は近づく。イッキが目を開ける。以前なら逃げていた。だが今は逃げない。じっと見ている。
「ルーク?」
オリヴィアが首を傾げた。俺は犬の前脚を指差す。
「う?」
そして自分の足を叩く。前脚。足。前脚。足。
「脚?」
オリヴィアが言った。頷く。
「イッキの脚?」
さらに頷く。
「まだ痛いのかな」
その通りだ。オリヴィアがしゃがむ。慎重に。本当に慎重に。
「イッキ、見せて?」
犬は警戒する。だが、逃げない。良い傾向だ。少しずつ信頼している。オリヴィアが前脚を見る。そして目を丸くした。
「トム! これ見て!」
トムも来る。
「うわ」
何か見つけたらしい。俺は背伸びする。見えない。身長が足りない。この身体、本当に不便だ。
「棘だ」とトムが言った。「大きい。折れて残ってる」
なるほど。それでか。数日どころではない。もっと前から刺さっていたのだろう。炎症も起きているはずだ。
「取れるかな」オリヴィアが不安そうに言う。「暴れそうだぞ」
その可能性は高い。痛いからな。だが、放置も良くない。
俺はイッキを見る。イッキもこちらを見る。不思議な目だった。警戒、不安、そして少しだけ期待。前世で何度も見た目だ。助けてほしい。でも怖い。そんな患者の目。
「バーバラさん呼んでくる!」
オリヴィアが立ち上がった。おお。珍しく正解だ。今の村で一番医療知識があるのは母だ。俺ではない。まだ。
オリヴィアが駆け出す。トムがイッキを見守る。俺は犬の隣に座る。イッキは逃げなかった。その温かい身体が少しだけ触れる。
そして俺は思った。今度こそ、この患者を治せるかもしれない。たとえ直接手を動かすのが、まだ俺でなくても。




