Ep12. 選んだ分だけ、失うものがある
選択には、代償がある。
何かを選ぶということは。
別の何かを捨てるということだ。
それは理屈として、理解していた。
前世の俺も。
何度も選んできた。
人を切り捨てることを。
関係を断つことを。
孤独を選ぶことを。
——その代償が、何も残らないことだとしても。
◇ ◇ ◇
朝。
目を覚ますと。
バーバラの姿がなかった。
◇ ◇ ◇
違和感。
いつもなら。
すぐ近くにいるはずだ。
少なくとも。
目の届く範囲には。
◇ ◇ ◇
「……ぁ」
声を出す。
反応はない。
◇ ◇ ◇
静かだ。
妙に静かだ。
外の音も少ない。
◇ ◇ ◇
嫌な予感。
理由はない。
だが。
こういう感覚は、無視しない方がいい。
◇ ◇ ◇
時間が経つ。
どれくらいかは、わからない。
だが。
わかることがある。
◇ ◇ ◇
——戻ってこない。
◇ ◇ ◇
昨日の言葉。
——すぐ戻る。
◇ ◇ ◇
信用していなかったはずだ。
前世の俺なら。
当然のように疑っていた。
◇ ◇ ◇
なのに。
◇ ◇ ◇
待っている自分がいた。
◇ ◇ ◇
……愚かだ。
◇ ◇ ◇
合理的ではない。
期待する理由がない。
保証もない。
◇ ◇ ◇
それでも。
◇ ◇ ◇
待っている。
◇ ◇ ◇
——選んだからだ。
◇ ◇ ◇
関わると決めた。
切り捨てないと決めた。
◇ ◇ ◇
その結果が。
◇ ◇ ◇
これだ。
◇ ◇ ◇
不確定。
不安定。
制御不能。
◇ ◇ ◇
——面倒だ。
◇ ◇ ◇
だが。
もう、前には戻れない。
◇ ◇ ◇
「……ぁ」
声が出る。
弱い。
だが。
止められない。
◇ ◇ ◇
泣く。
理由は明確だ。
◇ ◇ ◇
不安。
◇ ◇ ◇
前世では。
一度も感じなかった種類のもの。
◇ ◇ ◇
確実な裏切りではない。
確定した損失でもない。
◇ ◇ ◇
ただ。
戻ってこないかもしれない、という可能性。
◇ ◇ ◇
それだけで。
◇ ◇ ◇
これほどまでに。
◇ ◇ ◇
不快なのか。
◇ ◇ ◇
理解できない。
だが。
否定もできない。
◇ ◇ ◇
——失敗だ。
◇ ◇ ◇
選択は、失敗だった。
◇ ◇ ◇
関わらなければ。
こんな感情は生まれなかった。
期待しなければ。
裏切られることもなかった。
◇ ◇ ◇
だから。
◇ ◇ ◇
やはり。
◇ ◇ ◇
切り捨てるべきだった。
◇ ◇ ◇
そう結論づけようとした。
◇ ◇ ◇
そのとき。
◇ ◇ ◇
扉が開いた。
◇ ◇ ◇
「ルーク!」
◇ ◇ ◇
バーバラの声。
息が荒い。
走ってきたのだろう。
◇ ◇ ◇
俺は泣き続けていた。
止まらなかった。
◇ ◇ ◇
「ごめん、ごめんね……!」
抱き上げられる。
強く。
いつもより、少しだけ強く。
◇ ◇ ◇
温かい。
◇ ◇ ◇
……戻ってきた。
◇ ◇ ◇
それだけの事実が。
◇ ◇ ◇
妙に重い。
◇ ◇ ◇
さっきまでの結論が。
崩れる。
◇ ◇ ◇
失敗だったはずの選択が。
◇ ◇ ◇
完全には、否定できなくなる。
◇ ◇ ◇
……面倒だ。
◇ ◇ ◇
本当に。
◇ ◇ ◇
面倒だ。
◇ ◇ ◇
「大丈夫、大丈夫……ここにいるから」
◇ ◇ ◇
その言葉。
◇ ◇ ◇
信用していなかった。
◇ ◇ ◇
今も。
◇ ◇ ◇
完全には、信用していない。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
完全に否定も、できなかった。
◇ ◇ ◇
俺は泣きながら。
◇ ◇ ◇
ほんの少しだけ。
◇ ◇ ◇
安心している自分を。
◇ ◇ ◇
認めてしまった。




