Ep11. 選ぶという行為
選択とは、責任を伴う行為だ。
何かを選ぶということは。
何かを選ばないということでもある。
その結果に対して。
言い訳ができなくなる。
——だから俺は、選ばなかった。
◇ ◇ ◇
泣いた後。
体は妙に疲れていた。
赤子の身体は単純だ。
エネルギーを使えば、その分だけ消耗する。
合理的だ。
だが。
思考は、止まらなかった。
◇ ◇ ◇
さっきの会話。
外の声。
バーバラの態度。
すべてが、頭の中で繰り返される。
◇ ◇ ◇
——正しい。
——だが、気に入らない。
◇ ◇ ◇
この矛盾。
この不快感。
処理できない。
◇ ◇ ◇
前世の俺なら。
簡単に処理した。
正しい側に立つ。
それで終わりだ。
合理的で、効率的で、無駄がない。
◇ ◇ ◇
だが。
今回は。
それができない。
◇ ◇ ◇
理由は、明確だ。
◇ ◇ ◇
俺は。
それを“見てしまった”からだ。
◇ ◇ ◇
パンの分け方。
寒さの中の体温。
何も言わずに、優先される自分。
◇ ◇ ◇
それを知った上で。
同じように切り捨てることは。
◇ ◇ ◇
——できない。
◇ ◇ ◇
面倒だ。
実に面倒だ。
◇ ◇ ◇
ならば。
どうする。
◇ ◇ ◇
正しい側に立つか。
気に入らない側に立つか。
◇ ◇ ◇
どちらも選ばない、という選択もある。
無視する。
考えない。
関わらない。
◇ ◇ ◇
楽だ。
非常に楽だ。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
それを選んだ結果が。
◇ ◇ ◇
——あの死だ。
◇ ◇ ◇
誰にも関わらず。
誰も関わらず。
何も残らない。
◇ ◇ ◇
それは。
もう一度、繰り返す価値のある結末か?
◇ ◇ ◇
……否。
◇ ◇ ◇
ならば。
◇ ◇ ◇
選ぶしかない。
◇ ◇ ◇
問題は。
何を選ぶかだ。
◇ ◇ ◇
「ルーク」
バーバラの声。
すぐ近く。
◇ ◇ ◇
俺は目を開ける。
視界はぼやけている。
だが。
その顔は、わかる。
◇ ◇ ◇
疲れている。
それは明らかだ。
隠しきれていない。
◇ ◇ ◇
だが。
笑っている。
◇ ◇ ◇
なぜだ。
◇ ◇ ◇
理由は、わかっている。
——俺のためだ。
◇ ◇ ◇
非効率。
非合理。
だが。
◇ ◇ ◇
無視できない。
◇ ◇ ◇
俺は手を動かす。
ゆっくりと。
意図的に。
◇ ◇ ◇
バーバラの服を掴む。
◇ ◇ ◇
「……え?」
彼女が止まる。
予想外の反応。
◇ ◇ ◇
当然だ。
これまでの俺は。
こういう行動を取らなかった。
◇ ◇ ◇
観測ではない。
検証でもない。
◇ ◇ ◇
——選択だ。
◇ ◇ ◇
「ルーク……?」
声が変わる。
少しだけ。
◇ ◇ ◇
俺はそのまま、手を離さなかった。
◇ ◇ ◇
意味はない。
合理性もない。
説明もできない。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
これが、今の俺の答えだ。
◇ ◇ ◇
正しいかどうかは、知らない。
間違っているかもしれない。
◇ ◇ ◇
それでも。
◇ ◇ ◇
選んだ。
◇ ◇ ◇
初めて。
自分の意思で。
◇ ◇ ◇
「……ふふ」
バーバラが笑う。
小さく。
静かに。
◇ ◇ ◇
その笑いは。
今までで一番、軽かった。
◇ ◇ ◇
作ったものではない。
無理をしたものでもない。
◇ ◇ ◇
ただ。
そこにあったもの。
◇ ◇ ◇
俺は目を閉じる。
◇ ◇ ◇
選択は終わった。
結果は、まだ出ていない。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
少なくとも。
◇ ◇ ◇
何も選ばなかった前世よりは。
◇ ◇ ◇
少しだけ。
◇ ◇ ◇
マシな気がした。




