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Ep119. 宝物の価値

価値とは何だろう。

前世の俺なら即答した。希少性。有用性。再現性。市場価値。極めて合理的だ。間違ってはいない。市場というものは、結局のところそうした指標の積み重ねでできている。需要と供給、希少さと再現性、そのバランスの上にすべての値段が成り立っている。前世の俺は、そうした計算を寸分の狂いもなくこなすことに、ある種の誇りすら持っていた。

だが。

子供たちの秘密基地には、そんなものは存在しなかった。

「見ろ!」

トムが得意げに木箱を開く。古びた木箱は、蝶番が錆びて軋んだ音を立てた。中をのぞき込む俺たちの前で、トムは胸を張っている。

「これな。川で拾ったんだ」

中には石が入っていた。ただの石だ。少し丸い。それだけだ。市場に出せば一文の価値もない、どこにでも転がっている河原の石にすぎない。

「魚みたいな形だろ!」

言われてみれば、少しだけ魚に見える。丸みを帯びた輪郭の片側が、心持ち尖っている。それを尾びれに見立てれば、確かに泳いでいるようにも見えなくはなかった。

「私はこれ!」

別の少女が見せる。鳥の羽だった。少し青みがかっていて、付け根のあたりだけ陽の光を受けて艶やかに光っている。

「すごく綺麗だったの! 森の入り口に落ちてて、拾ったときすごく嬉しかったんだから」

確かに綺麗だった。だが、金になるわけではない。何かの役に立つわけでもない。前世の基準で言えば、評価のしようがないものだ。

それなのに、みんな大事そうにしている。まるで本物の宝石でも扱うかのように、両手でそっと包み込み、誰かに見せるときも壊れ物を扱うような手つきになる。

理解できない。

……いや、少しだけ分かる気がした。

その羽を見つけた時、きっと嬉しかったのだろう。石を拾った時、きっと楽しかったのだろう。だから宝物なのだ。価値があるから大切なのではない。大切だから価値がある。そんな考え方を、前世の俺は持っていなかった。持つ必要もなかったし、持とうとも思わなかった。すべてを数字に置き換えて、効率よく判断することこそが正しいのだと、疑いもなく信じていたからだ。

「ルークのは?」

オリヴィアが聞いた。期待に満ちた目で俺を見ている。

俺の石は、透明な小石だった。川底で見つけたもので、光にかざすとほんの少しだけ虹色に揺らぐ。大きさは親指の先ほどしかない。

「これ綺麗だよね。宝石みたい」

宝石。その言葉に、なぜか少し笑ってしまった。

前世なら、本物の宝石を何度も見た。高価な魔石も扱った。鑑定書付きの逸品も、競りにかけられる稀少な原石も、数えきれないほど目にしてきた。けれど今の俺にとっては、この何の変哲もない透明な小石の方が、よほど価値があるように思えた。初めて友達と共有した宝物だからだ。

その時だった。基地の外で物音がした。

ガサッ。

子供たちが一斉に振り向く。木箱の蓋を閉じる手も止まり、誰もが息を潜めた。

「ん?」

トムが立ち上がり、出入り口の布をそっとめくった。

再び音がする。ガサガサ、と低い茂みを何かが掻き分ける音だ。林の奥、まだ陽の届かない暗がりの方角から聞こえてくる。

動物か。鳥か。

そう思った瞬間、小さな影が茂みから飛び出した。

「うわっ!」

子供たちが驚いて後ずさる。誰かがオリヴィアの服の裾を掴み、誰かが木箱を抱え込んだ。

飛び出してきたのは、一匹の犬だった。

痩せている。肋骨の形がうっすらと毛皮の上から浮き出るほどだ。首輪はない。毛並みも荒れていて、ところどころ泥で固まっている。

野犬か。あるいは捨て犬か。

犬は子供たちを見る。耳を伏せ、尻尾を低く下げ、明らかに警戒している。だが同時に、怯えてもいた。今にも逃げ出しそうな腰の引け方をしながら、それでもその場から動こうとしない。何かに迷っているような、そんな様子だった。

そして、俺の目は別のものを捉えていた。

左前脚。

地面に着けず、少し浮かせている。体重をかけまいとしているのは明らかだった。歩き方も不自然で、三本脚だけでぎこちなく重心を移しながら、こちらの様子をうかがっている。

怪我だ。しかも、それなりに悪い。腫れているのか、それとも骨そのものに異常があるのか、ここからでは判断がつかない。ただ、放っておいていい状態でないことだけは確かだった。

犬と子供たちは、互いに固まったまま動かない。沈黙が基地の中を満たし、誰も口を開こうとしなかった。トムは石の入った木箱を抱えたまま立ち尽くし、オリヴィアは俺の袖をそっと掴んでいる。

そして俺は、久しぶりに胸の奥がざわつくのを感じた。

また患者だ。

しかも今度は、言葉の通じない患者だった。

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