Ep117. 初めての友達
友達というものがよく分からなかった。
前世の俺には存在しなかったからだ。知人はいた。同僚もいた。患者もいた。だが、友達はいなかった。
必要ないと思っていた。研究に関係ない。成果にも関係ない。時間の無駄だと。
今思えば、随分と寂しい考え方だった。
◇ ◇ ◇
「ルーク!」
翌日、家の前に出るなり、子供たちが集まってきた。早い。どこで見ている。
「歩けるか?」とトムが聞く。
俺は胸を張った。一歳児なりに。
「う!」
「歩けるらしいぞ」
なぜ通訳した。しかし、子供たちは納得したらしい。
「じゃあ競争!」
待て。何故そうなる。
「無理だろ!」とトムが呆れる。「まだちっちゃいんだぞ」
その通りだ。もっと言ってやれ。
「でも歩けるじゃん」「歩けるなら競争できる」
子供理論だった。理解不能である。
結果、競争は始まった。
「よーい」「どん!」
全員走った。俺だけ歩いた。一歩。二歩。三歩。
振り返る。誰もいない。全員ゴールしていた。当然である。
「ルークがんばれー!」
遠くから応援が飛ぶ。何なんだこれは。意味があるのか。
しかし、全員待っていた。途中で帰らない。置いていかない。俺が辿り着くまで、ちゃんと待っている。
不思議だった。効率が悪い。合理的でもない。だが、誰もそれを気にしていない。
ようやくゴールに着く。
「一位!」と女の子が叫んだ。
「最後だっただろ」とトムが呆れる。
「でも頑張ったじゃん」
その言葉に、俺は少し黙る。
頑張った。前世では評価されなかった言葉だ。結果が全てだった。成功か失敗か。それだけ。
だが、この子たちは違う。転んだか。頑張ったか。泣かなかったか。そんなことを大事にしている。
「るー!」とオリヴィアが笑う。
「明日も遊ぼうね!」
明日も。その言葉を聞いて、少しだけ思う。
前世の俺は、明日誰と会うかなんて気にしたことがなかった。だが今は、少しだけ楽しみだった。
春の風が吹く。子供たちが笑う。俺も笑う。
もしかすると、友達というものは、気づかないうちにできるものなのかもしれなかった。




