Ep115. 初めての散歩
人間は歩けるようになると調子に乗る。これは真理だ。赤子も例外ではない。むしろ、赤子の方が酷い。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺は歩いていた。家の中を、堂々と。
一歩。二歩。三歩。
まだ少しふらつく。だが確実に前進している。
「ルークが歩いてる……」
バーバラが呟く。なぜそんなに感動する。
「昨日より上手!」
オリヴィアまでいる。最近毎日のように来ているな。
◇ ◇ ◇
まあいい。それより重要なことがある。
外だ。
歩けるようになった以上、次は当然外である。
「外行きたいの?」
バーバラが聞く。俺は全力で頷いた。
「うーん……」
悩む。非常に悩む。まるで危険な魔獣の檻を開けるか考えているようだ。
「私がついてる!」
オリヴィアが胸を張る。不安しかない。
「……家の前だけよ?」
許可が下りた。勝利である。
◇ ◇ ◇
外へ出る。今度は抱っこではない。自分の足だ。
地面。柔らかい土。小石。草。
歩きにくい。非常に歩きにくい。
家の床は偉大だった。平坦だった。文明だった。
「頑張れー!」
オリヴィアが応援している。うるさい。集中させろ。
それでも、一歩ずつ進む。
風が気持ちいい。鳥の声が聞こえる。土の匂いがする。
生きている。そんな感覚があった。
◇ ◇ ◇
「おー」
声がした。振り向く。ガルドだった。
「歩けるようになったのか」
右肩が、前より少し動いている。まだ完全ではない。だが改善している。薬草だけではない、多少休んだのかもしれない。良かった。少しだけ。
「ほら、こっち来い」
ガルドがしゃがむ。挑戦か。いいだろう。
俺は歩く。一歩。二歩。三歩。ふらつく。だが止まらない。四歩。五歩。六歩。そして、ガルドの前まで到達した。
「すごいな」
大きな手が頭を撫でる。少し照れ臭い。
「やったー!」
なぜかオリヴィアが飛び跳ねる。だから、なぜ君が喜ぶ。
だが、悪くない。
◇ ◇ ◇
周囲を見る。村がある。人がいる。笑い声がある。
前世の俺が最後まで手に入れられなかったもの。それがここにはあった。
そして、その輪の中に、いつの間にか俺も立っていた。
まだ小さい。まだ何もできない。だが、確かに一歩踏み出した。
人生を変えるのは、いつだって最初の一歩なのだから。




