【第29話】模擬戦 その3
ゲッコウに距離をつぶされて有効打が出せず、ウミは苦戦していた。
しかもゲッコウはヒト型ロボットではあるが人間ではないので、
空手ではありえない攻撃をしてくる。
「来る!」
ウミはゲッコウの足が付け根から後ろにスライドしたのを見て、距離を取った。
ゲッコウのローキックが宙を切る。
人間なら回し蹴りで威力を出すには間合いが必要だが、
ゲッコウは足だけを後ろにスライドして間合いを作り出している。
「器用な足ね!」
「岩田先輩の戦いかたを見て、江波先輩に入れてもらった機能なんだ。」
でも初見でそれをかわす君はバケモノだ。
航ジンは言葉の後半を飲み込む。
戦いの最中で相手を認めたくない。
俺は勝って大会に出たいんだ!
「岩田さん、危なくないですか?
ケガする前に止めたほうがいいんじゃ……。」
「愚かなことを言うな!
部内の模擬戦でここまでロボコンの醍醐味を味わえることなんてまれだぞ。」
心配する二年生部員を真黒が一喝する。
「それに、ツキカゲの性能と岩田ウミ一年生の体力なら問題なかろう。
なあ、江波ツキ子三年生?」
「ええ…… 確かに、ほとんどの場合は大丈夫だと思います。」
話を振られて、ツキ子も答えた。
実際、ゲッコウは攻撃を続けているが、いまだにウミをとらえられない。
だがウミもかわすばかりで反撃ができていない。
県大会2回戦のときと同じだった。
ウミはロボット相手の戦闘経験が圧倒的に不足している。
(どうしたらいいの……?)
ウミはどう攻撃したらよいか悩んでいた。
間合いのこともあるが、手足や胴に攻撃して意味があるのかわからなかった。
ロボットは痛みを感じないし、壊して動けなくするほどの攻撃は出せない。
この模擬戦のターゲットは後頭部に取り付けられたボタンだ。
なんとかあれを押さないと。
(押さないと…… どうなるんだっけ?)
模擬戦に負けたら、少なくとも次の試合は航が出ることになる。
そういう約束だ。
機堂高校ロボコン部が勝ち残れるなら、
兄、岩田リクの復活までつなぐ目的も果たされる。
航と自分、より強いほうが県大会に出るべきだ。
むしろ大会は航に任せて、自分は母の手伝いや兄の看病でもしていたほうがよいのではないか。
自分がどうしても県大会に出たほうがいい理由はなさそうだった。
(でも、あたし勝つ方法を考えてる…… 勝ちたいと思ってる!?)
ウミは自分の心に少し燃えるものを感じた。




