【第26話】二つの可能性
「奇跡…… 奇跡としか言いようがありません。」
病室でヘッドセットをかぶりながら、江波ツキ子は言った。
その場にいるのは、先ほど試合を終えたばかりの岩田ウミと、
ベッドで寝ている岩田リク。
(はは…… 自分が寝てるのを見るなんて、変な感じですね。)
ツキ子がかぶっているヘッドセットの中にリクの声が響く。
事故以来、リクは眠り続けているにも関わらずだ。
「世界初!リクくんが世界初ですよ!」
機械を通してとはいえ、久しぶりのリクとの会話。
ツキ子がはしゃいでいると、ウミがヘッドセットを取り上げた。
「ツキ子姉、いい加減に替わってよ!」
ヘッドセットをつけ直す。
「で…… どういうことなの?」
(どういうことって?)
「この状況よ!どうしてそこで寝てるのに、この機械でお兄と話せるの!?」
(わからん。そんな難しいこと俺に聞くなよ。)
論弩との試合の途中からだ。
いつの間にかヘッドセットを通して兄が自分に話しかけてきた。
そしてアドバイスはおろか、途中から自分の体を操作して、
試合に勝利までしたのだ。
ウミには試合途中からの記憶がない。
「可能性は二つですね。」
ツキ子は言った。
「一つは、ツキカゲのAIがリクくんの学習データと自動音声を使い、
あたかもリクくんであるかのように振舞っている可能性。
ぎりぎり科学で説明がつかないこともないパターンです。」
「もう一つは?」
「完全なオカルト。
眠っているリクくんが生霊みたいになって、
ツキカゲに乗り移った可能性です。」
それならオカルトのほうがいい。
曲がりなりにも、兄と話せていることになるのだから。
(うーん…… どちらのパターンもきついなあ。
俺、元に戻れるのか?)
不安をこぼすリクに、ツキ子は眼鏡を片手でくいと持ち上げながら言った。
「大丈夫!
医療は専門外ですが、機械なら得意です。
リクくんがもしこのままだったら、私がずっとヘッドセットを付けて
一緒に暮らします!」
(ええっ!?)
ツキ子の衝撃的な宣言にウミも負けじと応じる。
「何言ってるのよ!
家族と一緒に暮らすのに決まってるでしょ!
お兄のヘッドセットはあたしが付けるの!」
「ふふん…… ウミちゃんにできるんですか?
ヘッドセットのメンテナンス。
調子が悪くなったらどうするんです?
リクくん、壊れちゃいますよ?」
(怖いこと言わないでください。)
「私ならメンテナンスだけじゃなく、バージョンアップだってできます。
いつかはリクくんの体も作ってあげます!」
「やめてよヘンタイ!マッドサイエンティスト!」
「ふっ…… これは誉め言葉をどうも。」
ヘッドセットのままの前提で話を進めないで欲しい。
リクは思った。




