【第25話】県大会2回戦 その5
油断した。
無防備のわき腹にパンチの直撃は効いた。
だが、敵が近づいてくる。
すぐに立ち上がって構えなおさなければ。
「げほっ!」
むせる。
(痛いか、ウミ?でも泣き言を言っている場合じゃないぜ。)
そうだ。わかっている。
(空手の試合でもこの程度のピンチはあっただろ?
息をゆっくり吸え。
敵が来るまで一呼吸分ぐらいの時間はある。)
「わかったよ、お兄……。」
ウミは立ち上がりながらゆっくり息を吸った。
酸素が体に染み渡る。
「ウミちゃん、何を言ってるの?」
ヘッドセットのスピーカーからツキ子の声。
「何って、今お兄の声が…… え?」
ツキ子に返事をして気が付いた。
さっきのは何だ?
(ウミ、論弩の選手が来る。構えろ。)
今もだ。間違いない。
ヘッドセットのスピーカーから、兄の声が聞こえてくる。
「お兄なのっ!?」
(落ち着け。
いいか、ロボコンは空手の発想に縛られてたらダメだ。
体を楽にして。)
構えは維持しながら、体の余計なチカラを抜く。
敵のロボットが目前に迫り、残った右手をこちらに伸ばしてくる。
ツキカゲは軽く後方にステップして相手の攻撃をかわすやいなや、
そのまま床を蹴って前に飛ぶと、相手の右手に飛び乗り駆け上がった。
「ウミちゃん!?いえ、あれはまるで……。」
「岩田リク二年生の動きだな。」
ツキ子と真黒の驚嘆。
ツキカゲは論弩のロボット、ロンダートの肩に乗っている。
こうなるともうコアは目の前だ。
(ウミ、コアを壊せ。これで勝ちだ。)
機堂の生徒も、井出たち論弩の生徒も、
試合の終わりを予感していた。
「うわあああっ!」
だが、叫び声が予感を切り裂く。
ただ一人、論弩のパイロット、根緒だけが敗北を全力で拒否した。
ロンダートが自ら右肩から床に倒れ込む。
ツキカゲは床にぶつかる前に飛び降り、一歩距離を取った。
「おいおい、そんな動きしたら壊れるぞ。」
「井出くん、ごめん。でも勝ちたいんだ。
2年間負け続けて、狭くて暑いの我慢して、やっとここまで来たんだ。
まだ終わらせたくないっ!」
左手のロケットパンチはロンダートの唯一の武器だった。
そして今、残った右手も制御を失い、肩からぶら下がっているだけになった。
でもまだ二本の足が残っている。
「どうだ、この圧倒的な体格差!
頭のコアを壊せるものなら壊してみろ!」
根緒はロンダートを立ち上がらせた。
(根緒さん…… あんたの気持ち、強いね。
でも終わりにしよう。)
仁王立ちするロンダートの前でツキカゲ大きく飛び上がった。
いつの間に拾ったのか、ロンダートの左手を両手で振り上げている。
そして、それをそのままロンダートのコアに叩きつける。
「コア破壊を検出しました。」
「あ……。」
館内放送が試合終了を告げると、根緒の顔が悔しさににじんだ。
「試合終了。機堂高校の勝利です。」




