【第20話】A案
「岩田ウミ一年生、ツキカゲで2回戦に出るのだ。」
お兄の寝ている個室に乗り込んでくるなり、
ロボコン部の部長は訳のわからないことを言った。
だから、あたしは遠慮なくぶん殴って、部屋から閉め出した。
「殴られて当たり前です。何を考えているんですか?」
ドアの外からツキ子姉の声が聞こえる。
「決まっている。県大会のことだ。」
「今、それどころではないでしょう!特にウミちゃんは……。」
「県大会を勝ち進むために全力を尽くす。
そのために岩田ウミ一年生にツキカゲで出てもらうのがベストだ。
これがA案なのだ。」
「勝手なこと言わないで!」
部長の言葉にカッとなり、あたしはドアを開いて怒鳴っていた。
「何がベストよ。何がロボコンよ!自分のことばっかり……。」
悔しかった。
お兄はこんな自分勝手な奴に利用されて、ロボットで戦わせられていたのだ。
「我輩だけではない。これがベストなのだ。
岩田リク二年生にとっても、貴様にとってもな。」
「意味わかんない!」
顔面を蹴り飛ばしてやろうと思って右足を上げたが、
部長は素早く距離を詰めると、あたしの右足のひざ上に手を当てて、蹴りを止める。
「ふはは…… 驚いたか?
なにも貴様や岩田リク二年生だけが格闘技経験者というわけではないのだぞ?」
部長はあたしの右足を下ろさせると、
額が触れそうなくらいあたしの顔に自分の顔を近づけて言った。
「意味がわからんのは貴様らのほうだ。
岩田リク二年生は死んだわけではない。
奴が目覚めたとき、機堂が負けていたら残念がるとは思わんか?
そのときまで、負けずに勝ち進むのが今の我らにできるベストだ。」
「自分の都合を正論っぽく押し付けるのはやめてよ!」
あたしはすぐ目の前にあった部長の鼻づらに頭突きを食らわせた。
部長は鼻を押さえながらよろめく。
「ぐおっ……!油断した。」
「空手の技だけだと思わないで。」
「ウミちゃん……!」
ツキ子姉が部長とあたしの間に割り込む。
「別に…… とことんやり合おうとか思っているわけじゃないよ。
でも帰って。
あたしはロボットなんか興味ないし、お兄がこんなになったらなおさら……。」
言いながら背を向けてドアを閉めようとすると、
ツキ子姉がいつになく真剣な声で言った。
「ウミちゃんの言っていることは正しいと思います。
ただ…… 私は、今の真黒くんのお話を信じたいと思いました。
勝手かもしれません。
でも、私は、この夏の県大会を、
リクくんがまた目を覚ましてくれるという希望を、
あきらめたくありません。」
ツキ子姉まで何を言っているんだ。
あたしは無言でドアを閉める。
「ウミちゃん、私たち、ギリギリまでがんばります。
準備して、県大会の会場で待ってます。
次の土曜日です。」




