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優しい世界で彼女は微笑んで

※義兄視点

琥珀色の髪も浅黄色の瞳も特に秀でていたものではなかった義妹は、そう際立って美しいと思う少女ではなかった。

少しふっくらした平凡な少女といったところか。


だが、三ヶ月ぶりにあった彼女はどうしたことだろうか。


甘い蜜のような艶のある琥珀色の髪は肩先まで波打っており、笑うと糸のように細くなる目は柔らかな浅黄色が美しい。

少しふっくらしていた体系も、スッキリとして華奢な体系になっている。

少し日に焼け、快活な少女のように晴れやかな笑顔を浮かべる彼女は、両親から言われた事を素直に頷いていた頃からは想像できない表情だ。


「お義兄様?」

「いや、すまない。その、君がだいぶ変ったような気がするんだが」

「あぁ、こちらがとても過ごしやすく性にあったようです。体調も今までと比べてとてもよくて…そんなに変わりましたか?」


挨拶もそこそこに呆然としていた私を気にしたのか、戸惑ったようにおずおずと聞いてきたエマに謝る。

そうすればほっとしたように肩の力を抜いた。


…人の表情を読んで、相手を気にしながら行動するところは変わってないようだ。


────────

──────

────


家督を継ぐ長男の予備だった私が、跡取りとして伯爵家の養子となったのが十歳の時だ。

いずれは家を出ていかないといけなかったので爵位が上の伯爵家に入れたのは良かったが、伯爵家の家族仲は冷めきっており、いつもピリついた雰囲気だった。


お金にしか興味がない義父に贅沢が好きな義母はお互いに興味がないのか、社交界では二人して笑顔を振りまくのに、家で話をしているのを見たのは数回しかないし、それ以上に娘のエマに話掛ける事はほとんどなかった。

エマはエマでそれが当たり前だったのか、特に気にした様子もない。実家の仲は良くもなかったが悪くもなかったので、初めは驚いた。


慣れれば特に邪険に扱われることもなかったので問題は無かったが、距離が近づくこともなかった。

ただ、当然のように両親の言われた通りに行動する義妹は少し心配だった。いつかいっぱいいっぱいになるんじゃないかと。


婚約者を選別しているからもう少し待てと言われた私よりも先に婚約者が出来た義妹は、やはり素直に婚約者の言うことを聞き、婚約者と同じ学園に通い始め、そうして友人を作った。


特に問題のある行動ではないが、友人となった者が問題だった。


癒しの力が強い聖魔法が使えるフォーサイス侯爵の庶子だった。

権力争いに巻き込まれそうなにおいがぷんぷんする。


それとなくエマに近づかないようにと忠告はしてみたが、どうやら相手の方から親友だと絡んできて振り切れないようだ。

思ったよりも図々しく面倒な人間だな。


ある程度は対策を練っていたが──やはりエマは争いに巻き込まれた。


「…お味はどうですか?」

「ん?あぁ、甘すぎず食べやすい」


一時期はもう目を覚まさないかと思った。

だからこうして笑うことが出来ている彼女を見ると安心する。


彼女から貰った手紙は今回の事件に関する情報があった。

推測の域を出なかったが、これが切っ掛けになり解決した情報もあった。それについて詳しく聞きたかったが彼女の様子からして秘密にしたいようだったので、無理に聞くのは気が引けた。


彼女が王都から去った後に起こったことを話せば、ふんふんと頷くがもうそれ以上に興味がない様子だったのもそれに拍車をかけた。


思い出したい内容でもないだろうし。


彼女がこちらで雇ったという侍女は伯爵家にいる侍女に引けを取らない、いや、もしかしたらそれ以上に技量を持ってるかもしれない手際の良さでお茶を入れた。

一緒に出されたケーキを食べれば、ふわっと甘い香りが口の中に広がるが、しつこくは残らない。

うん、美味い。


「本当ですか?甘さ控えめに作ってみたんです!」

「…君が作ったのか?」

「えっ、あっ、あの……はい」


ハッとして慌てだした義妹に思わず笑ってしまう。

どうやらのびのびと好きな事をしているらしい。料理が好きだったとは思わなかった。


「二人には内緒にしておく」

「あっ、ありがとうございます」


嬉しそうに笑う彼女はやはり今まで見たことがない表情だ。本当に王都よりもこちらの方が性に合っているらしい。


「──楽しそう何よりだ」


そうしてやはり思い出すのは王都にいる彼女の友人だった侯爵令嬢とその取り巻きと化した上位貴族の令息たち。

その中にこの子の元婚約者もいるから困りものだ。


彼らは力を貸してもらえるのが当たり前だとでもいうようにこちらを頼ってくる。

今回の事件にはこの子が被害にあったから力を貸しただけで、もともと伯爵家は中立という立場にいる。力を貸す理由もない。


義妹との婚約時には伯爵家にとって有益だからと繋がりをもった侯爵家も、最近では特に利益もなく逆に邪魔だと思っていた義父にとっては婚約解消をして縁を切るのは渡りに船だった。

理由もなく婚約解消など出来ないからな。


義妹と友人だという関係だけで伯爵家に訪れることのないように、彼女も療養という名目で領地に向かわせた。


最近では事件以外に関しては、申し訳ないが立場上力になれないと断っている。

金儲けは好きだが引き際を心得ている義父はそういうところが流石だ。


エマを一瞥すると、美味しそうに紅茶を飲んでいる。


こんなにも幸せそうだし、見てる限り彼らとは義妹も関わる気はないようだ。

それならば私としても、過ごしやすいように彼女を支援するだけだなと改めて思った。

以上で完結となります。

拙作を読んでくださいまして、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく拝見しました。 義兄とハッピーエンドかなーと思っていたのでもう少し続きが見たかったです。 素敵なお話しをありがとうございました。
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