独眼竜 ナオキ
最後。
いや、最後になるかもしれない1組の攻撃は、
「おりゃーーーーーーーーーー!!」
やけっぱちになったアタシの3ポイントが失敗して終わった。
「美夏、さすがにそれは無理だって!!」
撃った直後にきーちゃんが無理というぐらい狙いが荒いシュートは、やっぱりリングに蹴られて、ボールは鬼頭の手に。
ラスト。
いや、ラストになるかもしれない8組のオフェンス。
後田からボールは前橋に。
前橋がシュート――――
「この!」
きーちゃんがブロックに跳ぼうとして、
前橋は、きーちゃんの横をドリブルで駆け抜ける。
焦ったきーちゃんが、あっさりと前橋のシュートフェイクに引っかかった。
前橋がリングへ向かう。
逆側に居た檜山さんが、前橋を止めようとカバーに入った。 でも、それは――――
(ヤバ)
猛獣の檻を開けることになる!!
前橋の手からボールが離れ、
「おっしゃあ!!」
無人のゴール下でボールを受け取った鬼頭が、ケダモノの笑みを浮かべる。
終わった!!
誰もがそう思った。
アタシもそう思った。
この位置でボールを手にした鬼頭がやることは一つだけ。
百発百中のダンクをリングにお見舞いするだけでゲームセットだ。
鬼頭がリングに向かって飛ぶ。
一瞬遅れて、宮瀬がカバーに入る。
でも、カバーに来た宮瀬ごと粉砕するかのように鬼頭は金棒のような太い腕を振り回し――――
「邪魔だぁ!!」
「!?」
――――モロに、宮瀬の顔にヒジが入った。
バランスを崩した宮瀬が、背中からコートに落ちる。
床が揺れる。重苦しい音を立てて、床が揺れる。
「ナオキ!?」
アタシは数年ぶりに、宮瀬の名前を呼んで倒れた彼に走り寄った。
ピーーーーーーー、と高い笛の警告音。
強引過ぎるダンクに、審判がオフェンスファウルを鬼頭に宣告する。
「ち、邪魔しやがって」
不快気に、宮瀬を見下ろして、鬼頭は唾を吐いた。
「だ、だいじょうぶ」
コートには、宮瀬のメガネ。
歪んでる、宮瀬のメガネのフレーム。
外れてる、宮瀬のメガネのレンズ。
左目の周りに、大きなアザ。
「うわ、こりゃ、ひどい」
折田が参上を見て呻く。
「ちょっと、いくらなんでも今のはひどいんじゃない!」
きーちゃんが鬼頭に噛み付く。
――――ワザと、殴った。それを、きーちゃんは非難しているのだ。
試合が思い道理に行かなくなると、途端にプレーがラフになる鬼頭の悪い癖がここで出てしまった。
「しらねーよ、こいつが勝手に俺の前に来るのが行けねーんだろ!?」
鬼頭はシラを切る、どころか――――
「大体、宮瀬の癖に俺を止めに来るのが生意気なんだよ。
NBAオタクはコートにこねぇで、部屋でDVDでも見てろってんだ」
宮瀬をバカにする言葉を吐く。
こういう風に人を見下す性根の悪さが、アタシがコイツを嫌う理由。
「と、ナ・ナオキ大丈夫?」
ゆらり、と宮瀬が立ち上がった。
が、ふらついて、すぐに倒れそうになる。
ふらつく宮瀬が、アタシの身体を支えにする。
「………アイバ」
「な、何?」
さん、をつけずに、宮瀬がアタシの名を呼んでくる。
宮瀬の声のトーンが、いつもより数段低い。
流石の宮瀬も殴られたうえに、バカにされては頭に血が上ったようだ。
「ここから、ボールを――――」
耳元でささやく声には、怒気。
「全部、俺にくれ」
独眼には、覇気が篭もる。
「これから――――勝ちに行くから」