きとうのセクハラ
決勝戦。
アタシ達1組Aチームと鬼頭達8組Bチームで決勝は争われることとなった。
運動場で野球やサッカーに参加してた子たちも、決勝戦ということで観戦にきて、体育館の人数は膨れ上がり、熱気が溢れかえっている。
そして、きーちゃんの秘策は成功した。
鬼頭にボールが渡る、と
「せーーくはらーー!せーーくはらーー!!」
「鬼頭のスケベーー!!」
「わーー、鬼頭くんやらしーー」
面白がったみんなから野次が飛ぶ。
「う、うう………」
ゴールを背にボールを持った鬼頭が、動くに動けない。
194センチの鬼頭にマッチアップしているのは檜山さんだ。
知らない人の為に解説しておくと、バスケでは背中や腰を相手にぶつけるのは合法である。
なので、ゴール下でのプレイでは相手に背中を当てて、ボールを保持するポストプレイや、腰と背中でぶつかってディフェンスをこじ開けるパワープレイがセンターの主なプレイになる。
さて、今鬼頭さんにマッチアップしているのは檜山さんだ。
鬼頭がポストプレイをすると、マッチアップしている檜山さんは、ぴったりと鬼頭につくことになる。
その際、檜山さんの胸が、鬼頭に当たるのだ。
もう一度言おうか?
檜山さんの胸が!当たるのだ!!
効果はバツグンだ!
「鬼頭のスケベーー!!」
「檜山さんがセクハラされてるーー!!」
「きゃーー!!オマワリサーーん!!痴漢が!チカンがいますよーー!!」
ノリノリで野次を飛ばすみんなに、きーちゃんがウィンクして親指を立てる。
もちろん、みんなきーちゃんの悪巧みに乗っているのだ。
顔を紅くした檜山さんが健気に鬼頭の攻撃を防ぐ。
ここまで多くの対戦相手を吹っ飛ばしてきた鬼頭も、流石に女の子を相手に容赦の無いパワープレイをすることはできない。
鬼頭が攻めあぐねているところを――――
バチィンと、高い音が響く。
鬼頭の手からボールが奪い取られた。
死角から近づいた宮瀬が、鬼頭の手からボールを叩き落とした。
おおお!!と観衆が沸きあがる頃には、アタシときーちゃんは逆のリングに全速力!
宮瀬の手から放たれた矢のような高速パスは、
(宮瀬、パスウマい!?)
全速力のアタシが取りやすいところに、ドンピシャで飛んできた。
(これなら――――!!)
ボールを受け取り、リングへ。でも――――
(ウソ!?これでも――――!?)
全速力のアタシ達を嘲笑うかのように、更に上回る速さで後田と前橋がとっくに守備を固めていた。
速攻を諦めて、味方の上がりを待つ。
悔しくて歯噛みする。
(せっかく、宮瀬がいいパスくれたのに)
鬼頭のパワープレイは無力化された。
でも、アタシときーちゃんもまた、後田と前橋に完全に押さえ込まれていた。
スピードで負けているせいで、効果的な速攻にいけない。
残り時間3分。
0 − 4
アタシ達は全然点が取れない。
8組は、鬼頭が止められても、後田と前橋が得点を重ねていく。