05 添い寝
添い寝
部屋の照明は古風にろうそくの明かりを使っている。
俺が部屋に入ると、先に侍女が一人待って居た。
姿は最初のカリンと同じ服だ。
まあこの城の制服のようなものなのだろう。
アーサーの方は部屋の外で誰かを待っている。
結局、俺の見張りが侍女に替わったような物だ。
俺は相変わらず、しっかり見はられていた。
俺が少し待つと城の主らしき男が現れる。
扉を開けた向こうで、アーサーが頭を下げているシーンが目に入った。
こちらでも、侍女が頭を下げている。
その様子から、主の登場だろう。
俺は、同様に頭を下げて迎えた。
もっとも、現代風で『名前を名乗るなら自分から』という考えを持つ。
俺は簡単に頭を上げて、名前を名乗りを行う。
「志郎 岸田と申します」
少し違和感を感じたらしくアランと侍女の様子がおかしい。
けれども、主人の方は動じなかった。
「娘の恩人に頭を下げさせるわけには」
そう言って、手を取ってくれた。
そして、言葉を続ける。
「マイケル・グランバニーという、娘を助けてくれてありがとうございます」
どうやら、娘にベタ甘の親らしい。
それに、礼儀に対してもうるさい事は言わなかった。
俺に、事件の背景と事情を簡単に説明する。
基本的にはアリサの言う通りだった。
主人は俺に対して簡単に礼を言うと下がっていく。
あからさまになにかを警戒していた。
どうやら、思いっきり警戒されているようだ。
部屋に来る前にアーサーと話をしていた。
その所為かもしれない。
確かに、偽装誘拐と言われれば、疑いをかけられても仕方が無いところだ。
暗闇とはいえ、作戦がうまく行き過ぎた。
俺は、明日の朝には追い出されるのだろう。
まあ、これで縁が切れるならその方が気楽でよかった。
物語ではない。
一般庶民が貴族と付き合っても碌な目に遭わないのが普通だ。
格式・礼儀・常識等のハードルが高い。
まともに付き合えば、トラブルが続出するのが目に見えた。
俺は侍女に「風呂は無いのか」と確認する。
「風呂?」
アーサーと侍女は共に首を傾げていた。
どうやら、この世界には風呂なる物は存在していないようだ。
早くも、常識の乖離が出てしまう。
俺は、知っている知識で近い物を言う。
「湯浴みをしたいけど」
「ああ!、湯ならすぐに用意する」
アランは、そう言うと呼び鈴を鳴らす。
侍女がもう一人すぐに駆けつけてきた。
「部屋に案内して、湯を用意してやってくれ」
二人の侍女はかしこまって行動を開始する。
そのうちの一人が俺を案内してくれた。
どうやら、俺を一人にする気はないらしい。
これは、当然のことかもしれない。
侍女は俺を連れ出して廊下に出て行く。
その後、廊下を歩いて部屋に案内された。
明かりの数は多くない。
それでも、歩くには支障ない程度の間隔だ。
案内された部屋は、割と小さな部屋だった。
俺には、こちらの方が馴染み深い大きさだ。
俺は用意されていた椅子に腰掛ける。
明かりは、テーブルの上の蝋燭台だけだ。
蝋燭の慣れない俺には、少し不気味な印象は否定できなかった。
侍女は部屋の入り口で俺を見張っていた。
やがて、先程のもう一人の侍女が桶を持って部屋に入る。
二人は、扉を締めると俺に近づいてきた。
俺は、服を脱いで身体を拭きたい。
しかし、女性の二人が睨んでいる。
俺には、その状態で服を脱ぐような度胸は無かった。
「あのー、身体を拭きたいので外に出ていただけませんか」
すると、侍女たちは平然と答える。
「申し訳ございません。主より目を離すなと申し付かっていますので」
どうやら、融通がきかないらしい。
俺は肌を洗う事を諦めて、服を脱いだ。
俺は、露出している部分の全身を拭く。
顔や手足だ。
そして、濡れた布で服の汚れをふき取った。
俺が着ているのは形状記憶学生服だ。
あれだけ乱暴に扱っていても軽く濡れた布で拭けば綺麗になる。
与えられた布で服をこすっていけば汚れだけが落ちてきれいになった。
それを見て、侍女たちは目を丸くする。
よれよれだった服がみるみる元に戻っていくのだ。
当然か。
しかし、俺はその視線には、なんとなくそれ以外の含みを感じた。
けれども、今は話を出来るほど彼女達とは打ち解けていなかった。
俺が服を手入れすると、もうやる事は無い。
それより空腹だった。
こちらに来てから食べたのはクッキー一つだけだ。
俺は、食事を頼んだ。
それを聞いて侍女の一人が離れていく。
どうやら、食事は出してくれるようだ。
俺はそれを見てホッとする。
出された食事を見て、俺は『唖然』としてしまう。
貴族のお城で、客人に出すような食事に見えなかったからだ。
主食は、一見パンのように見えた。
しかし、小麦粉を捏ねて焼いただけの物だ。
簡単に言えば、ふくらみのないホットケーキを思い浮かべる。
又は『具の無いお好み焼き』という感じだ。
その様子から、小麦粉のような物は存在している事が判った。
ただ現代と違い、味わいが複雑だ。
食感から、製粉が荒い事がわかる。
けれども、逆に粉自身の旨味が濃かった。
肉はさすがにバターで焼いてある。
風味の影にバターが感じられた。
塩味も適当で、おいしかった。
なんとなく、牛肉のような雰囲気だ。
この世界にはバターがある。
それと、牛乳が付いていた事もあり乳製品の存在がありそう。
でも、パンが無い事にはあきれてしまう。
とりあえず俺は腹が膨れた。
周りが暗いのと、蝋燭の明かり代も馬鹿にならない。
この世界の夜は、本当に何もやる事がなさそうだった。
そこで、俺は眠りに入ろうとした。
おれが侍女に寝ることを宣言する。
すると、その様子に侍女の一人は引き上げていく。
どうやら、もう用事が無いと察したようだ。
何しろ、俺はトイレまで二人を伴って行かされた。
あからさまな囚人という感じだった。
トイレは完全な落とし穴方式だ。
さすがに中にまで入ってこない。
その点は、少し安心した。
俺は、監視の目を逃れて一息を入れたところだ。
備え付けに紙が用意されていたから安心だ。
紙は荒い繊維で、とても書き物に出来そうも無い粗悪品だ。
それでも、俺には十分だった。
もし、『縄』とかだったらどうしようかと真剣に悩んでいたからだ。
一応、使い方は知ってはいたけど、使いたい物ではなかった。
俺はやることもなく、夜も遅い(九時か十時ぐらい)。
それで、寝る事にする。
僅か一日とは思えない行動をしてきた。
俺自身その活動的なことに驚いている。
それと、ひょっとすると寝る事によって目覚めるのではないか。
そんな、一縷の望みにかけていた。
ここまでの経験を『未だに夢の中のこと』と思っていたいからだ。
俺は練る時には寝巻きなど着ない。
普段から下着の上下一枚だ。
もう見られるのを覚悟で、俺は服を脱いでいった。
俺の格好を見た侍女が、覚悟を決めたような感じだ。
そして、彼女も服を脱ぎ始めた。
侍女服を脱いで、下着だけになる。
その上に、その下着も脱ごうとしていた。
「何をするの?」
俺は慌てて、それを止めて事情を聞く。
「当然、一緒に寝ますけど」
俺はその言葉に唖然とする。
そして、俺は昔の風習を思い出す。
その中に『添い寝』という風習がある。
それを思い出した。
お客を歓迎する風習だ。
少なくとも、俺を歓迎はしてくれていた事を知る。
添い寝用の侍女をつけるくらい客人として扱っていた。
そして、侍女を付けてくれたのは監視というものではない。
俺に不自由させないための当たり前の事と知った。
「ごめん、俺の住む所ではそういうのは無いんだ。だからベッドは君が使って、
僕はこちらの椅子で眠るから」
俺はここで、彼女を追い出す事は検討しない。
なぜなら、それは彼女の職務怠慢を意味するからだ。
それでは彼女に申し訳ない。
だから、同じ部屋で過ごすことにした。
彼女は俺の申し出を信じられない顔で受ける。
しかし、その奥に『ホッ』としたような顔があることを俺は見抜いた。
どうやら、『貞操観念』というものはあるようだ。
そして、目の前の彼女は『まだ未経験』と察した。
もっとも、俺自身も未経験だ。
心の奥底に・・・
俺は、あわてて封印した。
彼女は、盛んにベッドを俺に使うように言う。
けれども、俺はそれこそ『客』としての『命令』で彼女にベッドを使わせた。




