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04 恩人

恩人



「カリン!」


背中に背負っている娘が、一団の中の女性に声をかけた。


「お嬢様!」


女性は、俺の背後の娘を確認したのか返事がくる。


連れの騎士らしい男も声を掛けてきた。


「おお!無事だったのか」


どうやら、彼女の連れだったようだ。


俺はようやく走るのを止めて彼女を降ろした。


背後の松明はもう近付いてこなかった。


俺としてはとりあえず、窮地を脱したらしい。


これで、『一安心』というところだ。




「きさま、お嬢様になんてことを!」


数人が殺気立てて俺に剣を向ける。


「待って、この方はた・・・・・」


誰も彼女の言う事は聞いていない。


俺はたちまち囲まれていた。


拳銃ではなくサーベルというところがなんとも古風だった。




「いい加減にしなさい!」


彼女が怒鳴る。


周りは一瞬に静まった。


「命の恩人に向かってなんてことをするの」


彼女の言葉が理解されるにつれて剣が引かれて行く。


「お嬢様、こいつもグルに違いありません。騙されてはいけません」


最初に声を掛けてきた騎士で、アーサーといわれた男だ。


集団のリーダー格に見えた存在だ。


どうやら、俺を疑っているらしい。




「どうして?」


「カリンの話では賊は六人ほどいたはず。それらを振り切れるはずはない。だから

 お嬢様に取り入るためのグルですよ」


「一味でも構わないわよ。少なくともそれだけのことはしてくれたのだから」


「え?」


「あなたなら、出来る?追いかけてくる一団を無傷で突破する荒業なんて」


「そんなのは不可能です」


「それを、彼はやってくれたのよ」


そう言うと彼女は俺を招いて用意されていた馬車に乗り込む。


俺の後にカリンという侍女とアーサーという騎士が乗り込んで扉が閉まった。




アーサーはまだ俺をしっかり警戒しているのがわかる。


俺への警戒は緩めないまま馬車は暗い夜道を灯一つで慎重に進んでいく。


どうやら、走りなれた道のようだ。


「私の名前はまだ名乗ってなかったわね。アリサ・グランバニーよ」


「俺の名前は、きし・・・志郎 岸田という」


するとアーサーという男が文句を言う。


「騎士だ」というのか?


「ちがう!『きしだ』という苗字だ」


どうやら、この世界では音が被るようだ。


「アーサーも名乗りなさい!」


アリサは未だに警戒を解かないアーサーに不満のようだった。




「アーサー・イーグル」


男はぶっきらぼうに名前だけ名乗った。


外観は二十五歳ほどの騎士といったところだ。


「カリン・ラスカルと申します。お嬢様を助けていただいてありがとうございま

 す」


カリンという侍女はアリサの言う事を全面的に信用したようだ。


十八歳ぐらいの普通の娘に見える。


カリンは『典型的な侍女』と言う雰囲気だった。




「一体、何が起きたのだ?」


俺は、カリンに向かって問いかけた。


「それは・・・・」


「私が言うわ。お父様を失脚させようと画策している組織があるの」


アリサが事情を説明しようとする。


「待った、聞きたいのは事情ではない。どこに向かっているのかだ?」


俺としてはどこへ連れて行かれるのか。


それが、一番の問題だ。


俺の質問にアリサは憮然とする。


カリンは申し訳なさそうな顔で、俺の質問に答えた。


「グランバニア城に向かっています。恩人に謝礼を渡すため」


俺はその申し出に唖然とする。


彼女を渡して『解放』と思っていた。


それだけに予想外の答えだ。


自分で言ってはなんだけど、素性の知れないものを城に入れる事が信じられない。


金を少し渡して開放を予測していたからだ。


その後、ようやくアリサの話を聞くことになる。


アリサの話を聞く時間はたっぷりあった。


俺は、馬車が予想以上に遅い事を嫌というほど知る。


お尻の痛みと共に・・・




街にいるとき、『アーサーからの使いの者』という男がアリサを捜していた。


『母親危篤』という連絡。


その内容に相手の正体も確認せずに馬車に乗った。


そして、帰宅の途中に突然馬車が傾く。


道路から外れて走ろうとしたからだ。


アリサは瞬時に『罠』と判断した。


そして、走行中の馬車から飛び降りて逃げ出した。


カリンを残す形になる。


けれども、『本命が逃げ出せば安全だろう』という考えだ。


逆にアリサが捕まればカリンの運命は悲惨だ。


男達にどのように扱われるかは想像したくない。


結果的には馬車にいた二人はその場から追いかけてきた。


カリンは無視されたので、その考えは正しかった。




アリサは道を街の方に向かって走る。


すると、前方から人が来た。


『アーサー』と期待する。


しかし、真っ暗なので用心する。


馬車の灯りが眩しくて御者の顔が見れなかったからだ。


背後の男が「女が逃げた」と声を掛けた。


明らかに、前方の馬車に掛ける声。


それで、『やはり一味』と判断して草むらに飛び込んだ。


後は草原を『思いっきり、逃げ切ろうとして走った』という。


そして、川に突き当たった。


なんとなく川沿いを逃げていく。


そのうちに『俺に突き当たった』というわけだ。




川に沿っていく途中、『香ばしい匂いに誘われた』という。


なんともいえないおいしそうな匂い。


俺が一つ目のクッキーを焼いた香りだ。


トカゲの怪物に食わせてやったクッキーの匂いを嗅ぎつけた。


その香りは、女の子を引き寄せる餌の役目をしていた。


三つ目以後をアリサに食べられたのだからなんともいえないところだった。




俺には、右も左もわからない世界だ。


それだけに一人のんびりと世界を調べたかった。


言葉は通じるようなので、もう焦ってはいない。


それが、いきなり招待の話だ。


俺は『城』といわれるところに連れ込まれてしまうことになった。


それこそ、異界人とばれて逃れられなくなりそうだ。


ここまで、リアルな展開はもう夢とは思えなかった。


それと、気になるのは草原に放った火のことだ。


『大事に至らなければ』とそのことを考えていた。




馬車に揺られるお尻の痛さが『現実』と教える。


道からそれて傾いた馬車を見て思ったのはクッションが無い事だ。


城持ちの貴族の馬車なのにクッションが付いていない事に驚いた。


そして、乗っている人たちは平気な顔をしている。


だから、『これが当たり前』ということなのだろう。




城に着いた俺は痛いお尻をさすって馬車から降りた。


俺の格好を見てアリサは笑いを噛み締める。


淑女のたしなみは人前で笑わない事らしい。


召使らしい男も現れて、身の回りを世話する。


そして、居間と思われるところに案内された。


俺は、アーサーと一緒に待たされる。


どちらかと言えば『見張られる』と言った方が正しいのか。


俺の格好は煤まみれの学生服だ。


明るいところで見られれば人の家に入れる格好ではない。


同じ事はアリサにも言える。


けれどもこちらは馬車を降りると早々にカリンを伴って城の中に入った。


俺はアーサーに案内されて客室と思われる部屋に案内された。


どうやら、館の主と謁見だった。



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