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03 接触

接触



俺は焚き火に当たって服を乾かしながら、なけなしの食料を調理?していた。


そんなとき、背後が突然騒がしくなる。


川の音で気付くのが遅れた。


草を掻き分けて、人の走る音がする。


獣とは違う二本足のリズムだ。


俺は、立ち上がってその方向を見ると点々と松明の光が見えた。


炎独特の揺らぎが感じられる。


俺が川岸の少し低いところに居た為気づかなかった。


『灯りではなく松明?』


現代では考えられないことだ。


背後のトカゲの気配はそれらの音で掻き消えていた。


怪物の存在といい、灯の事といい、この夢の中では先進の文明は存在していないよ

うだ。


俺は足音の方向を見ながら様子を覗った。


そんな俺の耳に誰かが急速に近付いている足音が聞こえた。


ススキのような草が俺の視界をさえぎっている。


そのため、姿は見えない。




突然、白い物が目の前に現れた。


俺のいたところは川岸の一段低くなっていたところだ。


そのため、相手は気付かなかったのだろう。


そして、逃げるそのままの勢いで俺にぶつかった。


ぶつかる寸前に焚き火の明かりで見たのは『少女』ということだ。


俺は、焚き火に飛び込まないように抱き上げて彼女を支えた。


「危ないよ」


「放して!」


暴れる彼女を落ち着かせるために、俺は手を放した。


一段高いところにいる状態の女の子だ。


その状態で、俺が手を放したら結果は見えている。


「キャッ!」


足場をなくした彼女は軽く悲鳴を上げて、結局俺に抱きついてきた。


俺は女の子を正面から抱えることになった。


手で受け止める以上の形ゆえに、俺は顔面で受け止めざるを得ない。


焦ったのは俺の方だ。


異性の女の子をこれほど間近で抱いたことは『初めて』といっても良い。


胸の膨らみが顔にまともに当たって恥ずかしかった。




女の子は、放された事をびっくりするような感じだ。


『放して』は、捕まった時の条件反射の言葉だったらしい。


そして現在、彼女は俺を見ている。


「妖しい物じゃない。ここで休んでいただけだ」


「追っ手じゃないの?」


「追われているのかい?」


「ええ、山賊に」


「弱ったね。武器もないし地図も無いから助けにならないよ」


「この臭いはなに?」


「クッキーだけど」


「なにか、食べさせて」


どうやら逃げ回っているうちにお腹をすかせているようだ。


逃げるより食べる事を優先する。


そんなところがなんとも言えない。


俺は焼きかけのクッキーを彼女に渡す。


彼女は、貪るように食べていた。


「おいしい」


その顔は花が咲いたような笑顔だ。


俺はその顔が好きで、食べる事が好きだった。


彼女は最高の笑顔を見せてくれた。


俺は『俺の出来る事をやってやろう』と考えた。




周りを見ると、草も枯れかけている。


かなり、燃えやすい。


だから、追う方の男たちは松明を高く掲げていた。


周りに火が移らないように注意しているからだ。


そのため、女の足でも離す事が出来たのだろう。


もっとも、彼女はへたばり気味だ。


脚がもつれているから捕まるのは時間の問題だった。




俺が居た位置で、川は大きくうねっている。


ここで火をつけても大事には至らないだろう。


そう感じた俺は、彼女が飛び込んできた方向の草に火をつけた。


そして、残ったクッキーを小枝に乗せると焚き火に入れる。


火が広がるまでの時間潰しだ。


のんびりクッキーを焼いて間を潰す。




火は瞬く間に燃え広がっていく。


彼女を探していたと思われる男たちの怒号が聞こえる。


俺は、しばらく隠れて様子見だ。


盛んに「野火だ」と騒ぐ声が聞こえる。


俺達は、その間にクッキーが焼けるのを待つ。


彼女は不安そうに声の方向を見ているが、視線がちらちらとクッキーに注がれてい

た。


俺は、クッキーが焼き上がるとそれを彼女に渡した。


彼女は、それをおいしそうに食べる。


俺の落ち着きをどうやら見習ったようだ。




そちらから逃げてきたのだから、そちらに活路があるはずなのだ。


ただ単に逃げれば、迷うだけだからだ。


とりあえず、道に出なくては話にもならない。


だから、火をかけた。


それと、相手をできるだけ近くに引き寄せることだ。


出し抜くためには、追跡者を固める必要があった。




案の定、火を迂回して松明が動き回っている。


しかし、ここに来るのは時間の問題だ。


俺は、彼女が食べ終わるのを待つ。


そして、彼女が食べ終わった事を確認して俺は行動を開始した。


まず彼女の服の袖を水に浸す。


それから、彼女を抱き上げる。


俺は、燃えている草原に飛び込んでいった。




俺の予想通り、火が敵を追い払っている。


それと煙がこちらの身を隠す。


彼女の服の袖を濡らして口に当てさせておいた。


少しなら大丈夫だ。


俺の学生服が黒いのも幸いだ。


松明の光から彼女を隠すように動いて発見を少しでも遅らせる。


やがて、俺達は炎と煙の中に身を隠した。




俺の服は、まだ少し濡れている。


俺は、それを幸いと考えて、燃えているところを突き抜けた。


そして、川のすぐ脇を煙に紛れて抜けていく。


息が苦しい。


けれども、ここが我慢のしどころだ。


追っ手を引き付けているだけに、人を抱えては逃げられない。


火中突破は、追っ手を完全に出し抜くための抜け道だった。


彼女の服が一部焦げた。


この際しかたがないところだ。


案の定、煙を嫌った追跡者達は川から大きく離れていた。


俺達は炎と煙を抜けた。


少し走ると、草がなぎ倒されているところがある。


背後の煙の輻射光でどうにか見る事が出来た。


彼女が逃げてそれを追いかけてきた者達の跡だ。


俺は彼女を抱いたまま、その跡を遡った。




少し走ると、背後で松明が揺らめいている。


どうやら、野火を突き抜けたことがばれたようだ。


やはり、彼女の白い服が目立ちすぎだ。


俺は道を見失わないように注意しながら足を速めた。


彼らと違いこちらは人を抱えている。


有利なことは少ない。


こちらは自由に逃げられる事と疲れが少ないことぐらいなものだ。


何しろ、この先の地形を知らない。


そのため、ある程度先を確認しながら走る。


全力で走ることはできなかった。




突然道に飛び出す格好になる。


どうやら、彼女が道から外れたところについたようだ。


この辺は、『広い草原』と言う感じだ。


見通しが良い。


この状態では、隠れても無駄だ。


俺は道をいくことにした。


俺は彼女に『どちらからきたのか』を聞く。


「どちらから来た?」


彼女は右手の方向に指を指した。


俺はそちらをめがけて走った。




深い考えがあったわけではない。


なんとなくだ。


少し走ると、前方に馬車が路肩から大きく外れているのを見かけた。


真っ暗の中、それが見えたのは灯りの所為だ。


その馬車を検分している松明があった。


その向こう側に別の馬車が見える。


そちらは、ランタンだ。


追っ手以外の敵の存在を検討していなかったのは迂闊だった。




いまさら、回れ右は不可能だ。


俺は奴らの馬車を奪うつもりで近付いていく。


逃げ切るためにはそれしかないからだ。


俺もそろそろ限界だ。


ぐずぐずしていれば、背後からおそわれる。


暗闇を利用して接近を謀る。


俺は、彼女を背後に背負い直して馬車に近付く。


俺の身体と服で少しでも発見を遅らせるためだった。




俺がその男たちに近付く。


彼らの顔がみえるくらいまで近づいた。


すると、背負っている彼女が声をかけた。


「カリン!」


男たちの中に一人女性がいた。


その女性に向かって、背中の少女が声を掛けた。


どうやら、味方だったようだ。



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