31 アリサの顔
アリサの顔
木の実が果実を付けるシーズンになる。
俺達は甘みを求めて、動き回った。
柿の他に俺の記憶にあるのは梨だ。
柿の時と同様に梨の産地に足を運んだ。
この世界には冷蔵庫という概念はない。
だから、旬の実は一年に一回しか取れないはず。
しかし、お城では苺も梨も存在していた。
アリサに確認するとお城の場合は特殊事情だった。
『魔法の保管庫がある』という。
そこには常時三人の魔法使いが毎日交代で魔力を注ぎ込んでいる。
その魔力で『時間停止を掛けている』というからすごい。
王様にいつも新鮮な物を食べさせようとする執念だ。
そのような物を感じる。
この世界の人たちの食に対する物に通じていた。
その割りに物を加工しておいしくする知識に欠けている。
それが、不思議だった。
逆に言えば、金持ちはおいしい物をその状態で保存しておける。
だから、自然な食材を最高の状態で食べられた。
そのため、加工技術を軽視していたようだ。
それと、調味料の数が少ない。
そのことが、試行の機会を奪っていたのだろう。
加工開発には結構ロスも多い。
俺は結果を知っている。
なので、効率よく結果を出せた。
しかし、初めて挑戦するものには失敗の山が待っている。
だから、新しい試みに手を出せない。
それが、現状ではないかと思う。
現に俺が方針を決めて指示を出す。
すると、その改良するアイデアや技術の貪欲さは一目を置くほどだ。
カレーの実の時などにそれを痛感していた。
この世界では、失敗しない工夫には積極的だ。
それに置いては努力を惜しまない貪欲さを持っていた。
俺はいかに現代の物が豊富にある世界にいたのかを、痛節に感じていた。
砂糖をとっても白い砂糖、グラニュー糖、かえで糖など豊富に使える環境だ。
調味料にしても、味噌、醤油を初めとして鰹節がある。
果ては『化学調味料』という物もあるほどだ。
俺は、このように何もない世界に飛ばされた。
そして、現代のありがたみを痛感する。
俺の元気がないのを見てアリサがなぐさめてくれる。
初めて会ってから二年の月日が流れていた。
俺はホームシックにかかっている。
アリサは、そのことを知っているからだ。
だから、盛んに甘えて俺の気を紛らわせてくれる。
俺はそのアリサの優しさに甘えていた一面があった。
そして、ある日アリサの表の顔を見てしまった。
俺は料理が完成した。
そこで、一緒に食べようとアリサの元に運んだ。
いつもなら、部屋にいるアリサに聞こえるようにノックしてから入る。
そんな俺をアリサはいつも無邪気に歓迎してくれた。
しかし、その日の泊められた部屋は結構豪華な部屋だ。
そして、扉の作りも良く出来ていて音がしない。
ノックしたけど、中で話をしている二人には聞こえなかった。
俺は何も考えずに部屋に入る。
二人は、俺が部屋に入っても気づかなかった。
アリサは町長と話をしていた。
その真剣な顔は俺の知らないアリサだ。
真剣に話をしているアリサの顔は、俺と話をしている小娘ではない。
その顔は俺に甘えている時の顔ではなかった。
村長も中央から送られてきた官吏と話をするように真剣な顔をしていた。
俺と雑談をしているときの柔和な顔は存在していない。
そして、アリサからの命令に近い指示を真剣に聞いて対策を話しあっていた。
さしずめ、俺の目の前には三十近い大人が話をしている。
そんなときに高校生の俺が近付いたような雰囲気に感じる。
アリサは俺より年下のはず。
それなのに、そこにいたのは別人のようなアリサと村長だった。
大臣が『第二の側近を嫌った』という。
あれは、俺の存在を避けたのではなかった。
俺とは比較にならないほど優秀なアリサの存在を恐れた。
そして、そのアリサの力を地方巡回で生かそうとした大臣の思惑だ。
俺は、アリサの素顔を見てしまった。
俺はようやくその真実に気付いた。
俺の存在に気付いたアリサはあわてて場を取り繕う。
村長もその態度の豹変に柔軟に対応している。
まるで、今までの姿が無かった様にしていた。
しかし、その一瞬で俺は自分が本当に置いてきぼりのような寂しさを感じる。
ここには、俺の居場所が無い事を思い知らされた。
俺とアリサは、身体の関係こそ持たない。
けれども、二人は『夫婦』と思っていた。
しかし、アリサにとって俺はあくまで命の恩人でしかない。
そう痛感したときだ。
この世界に対する知識も、持ている技術も今は単なる一高校生でしかない。
たまたま、アリサの命を助けた。
そのために、『運命を共にしているだけの存在』と気付いた。
アリサにとって『俺』という存在は曖昧だ。
人を説得するのに都合がいい道具として役目がある。
それは、俺が『異世界の使者でしかないのか』と思わされた時だった。
その後、アリサが取り繕ってくれようとした。
俺がアリサの素顔を見てしまった。
そのことに気付いたからだ。
アリサは俺がいつから見ていたのかを聞きもしない。
しかし、真実を知ってしまった。
そのとき、二人の関係は急速に冷え始めた。
アリサが無邪気に甘えてくれる姿は、俺に気を使ってくれるのがよくわかる。
それだけに俺の気持ちをより苛立たせることになった。
二人の共に過ごす時間が急に少なくなっていく。
俺たちの訪問を期待している街や村での時間が虚ろなものに変わりつつあった。
勇者のコンビの不和が世間に伝わっていく。
それは、時間の問題だった。
訪れる街や村での俺たちの扱いが、微妙に変化していたからだ。
アリサの扱いは、中央の官吏を迎えるような態度だ。
俺はその従者という形だった。
最初の頃の『夫婦』という形ではなくなっている。
村長や町長は、俺を無視する形でアリサと話をする。
気付けば、周りがそのようになっていた。
無視と言うより、避けているような感じだ。
俺自身の存在が急に希薄に感じるようになった時だった。
勇者の二人の不和が広まった。
そのとき、それまで雌伏していた男たちが動き出す。
追放されていた元領主の五人は復讐に乗り出した。




