32 刺客1
二人を分けようと言う策略、
その陰謀に乗せられる人々、
主人公達に危機が迫る。
刺客1
最初は二人の勇者の夫婦による視察がメインだ。
俺達の旅は、そんな気楽な旅行だった。
俺の立場は『わがままなお嬢さんに振り回される召使』という雰囲気でいた。
二人の関係は、とても夫婦とはいえない。
けれども、俺なりに楽しい時間を過ごしてきた。
俺にとってアリサはまだまだ子供だ。
手を出す気にもなれない存在だった。
どこの町に行ってもすでに連絡が行っている。
なので俺たちは歓迎された。
そして、最高?の料理を出される。
素材の持ち味を生かした料理以外は事実上の壊滅状態だ。
この世界では、『料理』という概念はなく『腹を満たす物』らしい。
俺の簡単なアドバイスで見違えるような料理に変わっていく。
俺は、その様子を見るのが楽しかった。
俺達が町に入るときには、一応歓迎されてはいる。
けれども、『厄介なお客』という雰囲気もあった。
しかし、町から出る時には『もっと指導をして欲しい』という雰囲気に変わる。
後半の滞在では料理担当の者が十数人付く。
そして、俺に張り付いて『指導を願う』という形だ。
アリサはそれらの料理人が作る試作料理をおいしそうに食べていく。
そして、アリサが気に入った料理は街の名物として採用されていた。
アリサの人気は巡回するほどに有名になっていった。
そして、この世界で二年が過ぎていく。
俺たちの残した軌跡は確実に成長していた。
今ではどこの街に行っても『おいしい』と思われる食事が最初に出される。
アリサもうれしそうな表情だ。
その笑顔は俺の心臓を鷲掴みにしていた。
しかし、俺がアリサの素顔を見てから二人の関係はギクシャクし始めた。
別にアリサが悪い訳ではない。
俺が自分の存在価値を見出せなくなってきたからだ。
現代における食品加工技術の大半は、豊富な機械によって作られている。
砂糖一つでも『遠心分離機で結晶化を行っている』と聞いたことがある。
それがどういう原理なのか知らない。
お菓子の中に『和三盆』という砂糖が使われる。
『昔ながらの製法』という。
しかし、俺にはそれがどういうものなのか知らない。
けれども、注文一つでそれらは手に入った。
出来合いの原料を使ってお菓子を作ることを知っている。
けれども、この世界では役にたたないことが多かった。
天麩羅というものを知っている。
でも、いざ作ればそれは本職の料理人たちに抜かれていた。
どの料理も同じだ。
俺の求める味、それに対してこの世界に調味料が無い。
そのため俺の持ち味が出せなかった。
それでも、アリサは『俺の料理が好き』と言って笑ってくれた。
俺が、その笑顔を信じられなくなった。
そのとき、俺は自分の存在意義をなくした。
あたらしい街で町長に会いに行く。
その前に街の食堂で、その町の食べ物を二人で物色していた。
二人が居るのは、場末に近い食堂だった。
それが一番その町の食べ物を代表している。
そんなことが多いからだ。
二人で食事をしていると、役人らしい男と兵士が五人近寄ってきた。
「アリサ様ですね。町長の使いで来ました。補佐のバートと申します」
簡単な自己紹介で『町長が会いたい』という。
アリサは俺に視線を向ける。
しかし、今回の用事はアリサに用事のような雰囲気だ。
町長とのプライベートな話は『後日のこと』と思っている。
けれども、アリサの行動は知られていた。
そして、迎えが来たぐらいだった。
前なら必ず一緒に行動していた。
俺はアリサに合図送ると「宿屋で待っている」と返事をして目を伏せた。
その一瞬アリサが目を伏せたことに気付いた。
しかし、町長との会見は俺の行くべき場所ではない。
大人の世界の話に子供の介入は邪魔になるだけだ。
それより、市場が開いている。
俺は、そちらの方に興味があった。
前のアリサなら仕事よりそういうところを見る方を優先した。
俺は、そう思うのだ。
二人の関係がギクシャクしてから別れて仕事をすることが増えた。
そして、今回も『同様だ』とおもっていた。
アリサが席を離れたあと、そこに残る指輪があった。
いつも、アリサが嵌めている指輪だ。
アリサは、由来を聞いても教えてくれなかった。
なんとなく、子供の頃見た亜里沙の指輪と似ている。
しかし、二人は別世界の住人だ。
俺は『単なる偶然』と思った。
アリサの忘れ物ということで、俺はポケットにしまう。
アリサがいたとき注文した料理が差し出される。
アリサの分はキャンセルされて俺の分だけだ。
大きなテーブルに一人分の料理が並んぶ。
いつも一緒に食べていたアリサが居ない。
俺は一人寂しく料理を食べた。
改めて、アリサの不在が身にしみる。
料理の味もわからないぐらい落ち込んでいた。
俺は、食事を食べ終わって席を立つ。
これから、市場を見に行く予定だ。
俺が店を出た直後に、六人の客とすれ違う。
俺はその六人を『単なる旅の一行』と思っていた。
俺の進行に対して分かれて道を譲ってくれる。
俺はその間を通り抜けることにした。
すれ違いざまに刃物が光る。
それも、黒い刃だ。
いくら俺の反射神経が優れていても、おれ自身が完全に油断していた。
至近距離からの攻撃をかわせるわけがない。
周りには一般の人もいた。
まさか、そんなところで襲われる事は考えてもいない。
しかし、黒い刃は確実に三本が俺を取り囲むように迫っていた。
それと同時にその一団以外の人が崩れるように倒れていく。
俺は『何が起きているのか』と思った。
俺が周りを観察していると、道路の向こうが見えた。
そこには、アリサが全力で俺のほうへ走ってくるのが見える。
その顔には必死に何かを思う表情が浮かんでいた。
次回、アリサから見た主人公の危うさを説明します。




