30 甘味
ぼちぼち主人公に影が差してきます。
それは、内面的なもの。
甘味
塩については岩塩という物が主流だ。
なので大きな変化はない。
しかし、甘味は場所によって大きく変化していた。
どこでも共通しているのは蜂蜜だった。
この世界にも養蜂業者がいることを知って驚いたぐらいだ。
ただ、業者の数が少ない。
そのため、俺達は出会ったことがない。
ただその業者が残した『蜂蜜』という高級食材は存在する。
それは思った以上の『高値』で取引されていた。
一般の人たちは甘い果物をつぶして使う。
この世界にも、砂糖黍という植物はある。
しかし、育てられる環境が少ない。
そのため、限られた地方の特産品だ。
俺は、この世界の人たちが甘味を求めて苦労しているのを知った。
砂糖黍から砂糖をつくるのでも簡単ではない。
砂糖黍を水に浸して甘味を抽出する。
それを煮込んで固めた物が、俺の見た黒砂糖だ。
業者によっては砂糖黍を細かく裁断する。
そして『効率よく?』不純物込みで甘味を固めた粗悪品もある。
砂糖黍の繊維がそのまま入ったものだ。
さすがにお城では使われなかった。
しかし、一般ではそんな物が結構出回っている。
『甘味』という点では遙かに安価だった。
多少の繊維分は使用の段階で濾せば済むことから使われている。
実は、下し金の一番普及した理由はこれだ。
刃も立たない黒砂糖を細かくする最適の方法だった。
砂糖を作るには、砂糖黍だけではない。
それ以外、日本では北海道で使われている『てんさい』という大根もあった。
使い方は薄く斬って水に浸し、そこからにじみ出た液を煮詰めるものだ。
ただ、現代と違い結晶化の技術が無い。
蜂蜜同様に瓶に入っていた。
これは、北方での作物だ。
ここで実は方位がわからないので寒い方を北としている。
当然、太陽は南側で東から昇るという前提だった。
『煮詰める』という技術そのものは秘伝だったらしい。
俺が見本を見て製法を見抜いたら感心していた。
このように、この世界の人たちは甘味を求めて奔走している。
それが現状だった。
俺達が城を出てから四ヶ月経過した。
俺たちは柿の産地に顔を出している。
柿は糖度の高い食物だ。
俺は、当然『その糖度を使っているもの』と思っていた。
道路に面した所に柿の実がおいしそうになっている。
例によってアリサが手にする。
見た目はおいしそうな柿だ。
それで、俺も何も言わなかった。
アリサにすれば、初めて目にする食べ物だ。
俺に『毒かどうかだけ』を確認した。
俺は念のために柿の実に手を当てる。
当然、毒は入っていない。
俺は了解を出した。
アリサは一口齧って、なんともいえない顔で顔をしかめた。
俺は、直後に盛んに文句を言われる。
けれども、これは俺の責任ではない。
俺自身、産まれてから『渋柿』という物を口にしたことはない。
だから、柿が『渋い物』とは知らなかった。
一応、知識では知っている。
けれども、俺は『柿は甘い物』という固定概念を持っていた。
俺がアリサに警告を出さなかったのは、知らなかったからだ。
アリサから散々文句を言われたが、不本意な事だった。
俺達は、甘い柿を求めて村に立ち寄った。
柿の本来のおいしい物をアリサに食べさせてやろうとした。
俺は、村長の所に顔を出して話をする。
そして、驚くべき返事を聞いた。
この世界には『甘い柿』という物は存在していないという。
すべての柿は『渋柿』というのだ。
お菓子の知識の中に『柿渋』というのが『水溶性』という知識はある。
渋みを扱う菓子もあるから得ていた知識だ。
柿の渋は舌先で溶けて舌に渋みを感じさせる。
この渋を感じさせないように加工する。
それが、『渋抜き』という工程だ。
渋を水に溶けない形に変えてやる方法だった。
けれども俺の持つ知識は知れている。
俺の知っているのは、甘くない柿の食べ方に関するものだ。
それは、干し柿に関する知識だった。
干し柿は、お菓子の中でかなりの糖度を持つ。
それは、『渋みを持つ特殊な柿を加工する物』と誤解していた。
俺は、甘い柿がこの世界では『特殊』と知った。
俺の知識では『接木をすれば良い』としか知らない。
しかし、それには甘い柿を付ける木が必要になる。
その木が存在していないこの世界では、『不可能』なことだった。
残った手段は今の渋柿をそのまま甘い柿にする方法だ。
残念なことに俺の知識では干し柿しか知らない。
これでは、アリサにおいしい柿を食わせることは夢となった。
俺は、村長に干し柿の作り方を教える。
作り方は簡単だ。
色が付いた柿の実の枝を少し残して切る。
皮を剥いて残していた枝を縛って軒に吊るすだけだ。
雨さえなければ十日程で出来るはず。
その様子が暖簾を彷彿する。
そのことから季語になっていた。
信州の方だと思ったが、『柿のれん』という。
雑談だが、同じようでも『柿暖簾』は柿色の暖簾のことだ。
俺は作り方を教え、後日送ってもらうように手配する。
そして、村を後にした。
後日、村長は干し柿をおくってくれた。
『勇者様に』と三十個の詰め合わせだ。
俺は、それを口にした。
その甘さに涙が出るほどだった。
久しぶりに食べる『日本の味』という想いだ。
そして俺は、なんとかして日本の現代に戻る決意を固めた。
アリサの方は送られた干し柿のうまさに微笑んだ。
そして、俺は干し柿を一つ食べて感激に浸っていた。
アリサはその間に残り二十九個を食べ終えていたぐらいだ。
俺の怒りは当然だ。
しかし、アリサのうまさを思い出して微笑む姿に俺の怒りは消えた。
どんな形にしろ人がおいしい物を食べてうっとりする姿はいいものだった。
ちなみに干し柿は日持ちのする食材だ。
すぐに、この世界にすぐに定着することになる。
それと、干し柿をつぶして作られる『柿糖』という物が出来た。
かなりの中級食材だ。
そんな物も市場に出回り始めたのは干し柿同様だった。




