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13 旅立ち

旅立ち



いよいよ俺達が勇者として冒険に出る事になる。


俺自身は、剣が仕える。


けれども、魔法が使えるのかどうかは判らない。


それに対して、アリサははっきりと治療魔法が使える。


魔法に関しては、俺はアリサに完全に出遅れていた。


旅の仲間は、旅の間に集めていく予定だ。


『本当に魔王を俺が倒すのか?』


この世界に来る前は、一介の高校生でしかない。


それも、空手とか剣道など格闘とは縁の無い料理好きの高校生だ。


それを思うと、俺は未だに信じられなかった。




俺とアリサの旅立ちだ。


たった二人で、その手には何も持たない。


知らなければ、町へ買い物に行くような格好だ。


現代では信じられない事に『荷物の圧縮』という技術があった。


大きなリュックに相当する荷物が、腕輪の一つに収まる優れものだ。


ただ、親父さんの冒険者時代の貴重品で、一個しかなかった。


当然、アリサが使う。


そのため、俺への恩恵はないはずだった。




俺はアリサに頼んで調味料や食材・道具などを持ってもらう。


アリサは「本来は武器や宝を収納するものよ」と盛んに文句を言う。


しかし、「おいしい物が食べれるよ」という言葉の前に折れた。


そもそも、そのような物が収納できるとは考えても居なかったようだ。


俺が、腕輪の新たなる使い方を開発した事になった。




俺は、マイケル卿から、魔物との戦い方を教わった。


意外な事に、魔物達はあまり好戦的ではない。


そのため、苦しければ『逃げ回る事も可能』ということだ。


ただ、最近魔物側も人間との境みたいな物を意識している。


縄張りに入らなければ、魔物たちは『大人しい』という事だった。


その辺に、秩序みたいなものが出来てきて手ごわくなっている


そう教えてくれた。


今回、討伐に至った理由は大規模な開発に魔物の抵抗が強くなってきたからだ。


現地の方から魔物討伐の依頼が上がってきたことが理由だった。




俺は、その内容になんとなく釈然としないものを感じる。


この世界の住人は『魔物』という物に対して何か偏見のような物を持っていた。


『魔物は知性を持っていない』


そのため、魔物の行動を理性的に見ずに感情で判断している。


マイケル卿の話では、魔物は『縄張り意識のような物を持っている』という。


現代日本の野生動物のように追い詰められて人間社会に侵入してくる。


それとは少し違うような感じだ。


俺は、なんとなく『そこに高度な知性』を感じた。


でも、この考え方はこの世界では受け入れられない考え方のようだ。


人間は、人口の増加に伴い少しづつ生活の場を拡げていかないといけない。


魔物は、縄張りを侵されて必死に抵抗する。


このまま、進めば魔物との全面戦争が起きるだろう。


マイケル卿の話は、そんな気配さえ見えてきそうな気配だ。


そして、そんなときに『俺の出現!』は、ある意味なにかの『啓示』ではないか。


『魔物にも人間にも偏見を持たない存在』


俺は自分を過大評価しているわけではないが、そう思った。




今では、この国における俺の立場は結構有名だ。


『王の側近の粛清』は、この国の生活を劇的にかえつつあった。


事実上、側近達は王を囲い込んで好き勝手にやっていた。


それを片付けたのだから、王の権力が復活して物事は上手く行くようになる。


なのに、俺は一時的に王から恨まれてしまった。


王の遊び友達の粛清は『王』本来の仕事の増加を促がした。


まだ十歳の王は仕事よりお菓子と遊びが好きな年頃だ。


俺のやった事で、王は遊ぶ暇が無くなった。


『腹いせ?』に、王から盛んに新しいお菓子の要求が出されている。


俺は、作らなければ『死刑』と脅される。


実際には『俺の顔を見たい』という、王からの催促だ。


俺自身は、今では、王の身の回りを見る人にも好意的に受け入れられていた。


そこで、大きく権力を握っている人物も絡んでいる。


彼は、俺が顔を出せば大歓迎してくれた。


その人は、厨房の責任者でヘンリー卿という内務関係の超大物貴族だった。






大きな荷物はアリサに粗方持ってもらった。


俺は自分の装備と細かい手荷物だけだ。


旅立ちに当たって最後に食料などを都合する。


その関係で商都に向かう。


そこまでは、アランが買出しの都合で送ってくれることになる。


別れを惜しむ侍女のカリンも一緒だ。


俺達は、途中アリサが誘拐されかけたところを通ることになった。


目的の街は王都のように防衛をメインにしていない。


囲まれた市街では発展の余地が無い為、近くに作られた商業街だ。


その途中に、このように拓けてないのは魔物が支配する不可侵の森がある所為だっ

た。




不可侵の森は、例の俺が迷った森の事だ。


俺が入ったのは道路とは反対側の牧場の方からだった。


それと、俺が迷ったのは気の所為ではなく誰もが迷うらしい。


森の中では感覚を狂うらしく、行方不明も出る。


それで、開発も思うように出来ない。


その結果、王都の近くなのに『空白地』としていつまでも残っていた。


その上、魔物が森を縄張りにしている。


最近、山賊まで住み込んで悪さをしているらしい。


それを知ったのは、俺たちが再び山賊に取り囲まれていたからだ。




俺達は、あの時同様でカリンと一緒に馬車に乗っている。


そして、御者はアーサーだ。


見送りの『最後』と言う事で街まで送ってくれるという展開だった。


しかし俺はなんとなく、この展開に不審な物を感じる。


山賊達は、まるで待ち受けている様に展開していた。


馬車は、それを承知のように止まる。


別に道路を塞がれている気配はなかった。


俺の勘は、アランの言葉が正しい事を証明していた。




「せっかく、セッティングしてやったのに逃がすから」


アランが、親しげに山賊たちに声を掛けた。


「すまねえ、ボス。でもどちらにしても一緒ではないんですかい」


「馬鹿言うな。お陰で財産全部横取りの計画がパーだよ」


馬車の外では物騒な会話をしていた。


あまりの展開に、アリサは震えている。


そして、俺にしがみ付いているだけだ。


アリサにとってはあまりに意外だったのかもしれない。


子供の頃から、信頼していたアーサーの裏切りが、信じられないようだった。




「おい!、お客さん方。ここが終点だよ。降りてもらえるかい」


俺達は、大人しく馬車から降りるしかない。


少なくとも、しっかりした足場でないと戦う事も出来ず串刺しだ。


盗賊たちの下品な笑いが出迎えた。


「裏切り者!」


カリンが叫ぶ。


「うるさい女だ!」


男の一人がカリンを殴ろうとする。


俺は無意識に手を掴んでいた。




「貴様、殺してやるよ」


そう言うと、俺の抵抗に対してアーサーが剣を抜いた。


俺は女達を背後に庇うとゆっくりと剣を抜く。


アリサはカリンを守るのが精一杯だ。


王の側近の時と違い全員百戦錬磨の強者もさだ。


俺がいくら時間を使って有利でも、勝てるかどうかは判らない。


あれは、どう頑張っても三倍の敵に当たる程度の技だった。




俺とアランによる一対九の戦いが始まる。


しかし、俺に意外な援軍が居た。


別の集団が我々全部を囲っている。


盗賊たちのさらに外側だ。


意外にも、そのリーダーはあの時のトカゲの怪物だった。


明らかに合図を出しているので判る。


アランの攻撃合図に盗賊たちはもはや俺達など見向きもしない。


怪物に囲まれているのだから当然かもしれない。


そして、怪物達と山賊の戦いは始まった。




所詮、人間の力がいくら強くても数の戦いの前にはかなうわけが無い。


数で囲っていたはずの盗賊たちは、より多くの数の囲まれて次々と殺されていく。


その点は、アーサーも同様だった。


なまじ怪物に対する認識がある。


それで、抵抗したからだ。


そして、いよいよ俺達の番と思われた。


俺は最初から戦う気はない。


剣を捨てて、戦う意思が無い事をはっきりと示す。


もっとも抵抗しても無駄な事は、山賊達の末路が教えてくれた。


生き延びるには戦わない事で、それしか残されてなかった。


俺の態度を確認すると、例のトカゲ頭が近付いてきた。



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