14 会話
会話
「借りは返したから」
怪物は、それだけ言うと引き上げようとする。
『借り?』
俺は彼らになにかしたのかと思う。
「借りとはなんだ!」
「お前が火を放って、追い払ってくれたからな。お陰で子供が助かった」
「ちょっと待て!、お前達に知性があるのか?」
「当たり前だろう」
「あの時、鶏を咥えていたからな。驚いただけだ」
「手で持てないから口で咥えていただけだ」
「あの鶏は子供のためか?」
「そうだ、こいつ等が獲物を全部狩り尽くしたから食べる物がなくなったんだ」
「獲物?」
「こいつ等の周辺に放し飼いにしていた野豚だ」
「それは・・・・」
俺は言葉を詰まらせた。
マイケル卿の話では『最近、人間側の被害が増えてきた』という。
俺は、人間が『魔物の管理する土地に踏み込んだから』と察していた。
それが、現実だったことを目の当たりにした。
「どうかな、人間を相手に商売をする気にならないか?」
「お前たちが信用できるのか?」
「ああ、一応俺も勇者の連れだ」
「良かろう、考えて見る」
怪物たちは見事な統制の元に引き上げていく。
その様子はまるで『軍隊?』を思わせる物だった。
俺は、アリサに怪物との交渉の話を告げる。
「アリサ!、魔王というのは戦う必要があるの?」
「知らないわ、魔物と会話できるのも初めて知ったのだから」
「でもなんで、今まで会話を試みなかったの?」
「あなた!気付いてないの?今の会話人語ではなかったわよ」
「え?」
俺はアリサの言う意味が良く判らなかった。
「私はあなたと魔物がやり取りしていたから会話だと気付いたの」
「それでは!」
「傍目にはモンスターのうなり声の応酬よ」
「それでは、モンスターが会話をしているのは!」
「今、初めて知らされたわ。モンスターが言葉を持っていることも知らないもの」
「それでは、モンスターと解り合えることは」
「出来るわけ無いでしょう。あんな恐ろしい顔の怪物と」
「そうか・・・・」
俺はがっかりした。
「と、今までならそう答えけど」
アリサはにっこり笑う。
「何かあるの?」
「旦那様の頼みならというより、会話が存在するなら出来るわよ」
「???」
「会話を成立させるマジックアイテムがあるから」
「どういう意味」
「この世界は、統一言語ではないの。いろいろな種族がいるから。それらを仲介す
るマジックアイテムがあるのよ」
「それでは、なぜ今まで?」
「当たり前でしょう。誰も会話できると考えてもいないから魔法も発動しないわ」
俺はアリサの言う事が正しいのを知った。
そもそも、怪物と蔑んで対話の可能性さえ探さなかった。
それが、真相ではないか。
俺と魔物が会話できた。
それは俺が部外者だからだ。
それと『自動的に会話が翻訳されていた』と知った。
そして、ようやく思い至る。
それは、『すべてひらがな翻訳』ということだ。
だから、同じ発音が複数の意味で伝えられる事が多かった。
俺は馬車を王城に帰す事にする。
この場合、頼りになりそうな人物に心当たりがあった。
盗賊たちの屍骸はそのままに王城の門番に知らせる。
どうやら、彼らはお尋ね者だったらしい。
門番は、すぐに引き取りの者を送った。
俺は、王城に入ると真っ直ぐに厨房に向かう。
予想通り、そこには料理長が居た。
俺は、料理長と怪物との取引の件を相談する。
すると、料理長は『野豚を飼っていた』という怪物の話に興味を持つ。
料理長は、俺への報酬を兼ねて「子牛二頭と豚を二十頭預ける」という。
失敗すれば、みすみす牛と豚は取られる。
しかし、怪物が牧場のようなことをする。
それなら、広大な空白地が牧場になる。
料理長はそう判断して、俺のアイデアに賭けた。
当面、このことは人間社会には秘密だ。
そして、全ての裁量は俺に預けてくれた。
牛と豚の引渡しと共に当面の食料として小麦三十㌔を渡される。
俺たちは、近所の牧場に寄って豚と牛を引き取ることにした。
俺達は、料理長に言われた牧場に顔を出す。
そこは、偶然にも最初に出現した牧場だ。
料理長の指示書は確かな物で、牧場の人は馬車まで都合を付けてくれる。
アリサはその積み込みの間に牧場主と話をしていた。
運ぶ場所の、具体的な指示等だ。
俺は、その間に出現した日のことを牧童達から聞く。
あの時、俺があの場に居た事を覚えている人間はいない。
そして、牧場と魔物の話になる。
魔物が鶏を盗んだのは確かだ。
だが、牧場の人間には不思議だった事がある。
魔物は、単に逃げれば良いものを、奥まで入ってきたことだ。
魔物が騒いだから、結果的に火事が早期に発見できた。
火事の原因は見張りの男が煙草を捨てたのが原因だ。
それは、後から火事原因を検証して判る。
火災現場に、煙草の痕跡が見つかったからだ。
あの時は『魔物が火を付けた』と思ったから、必要以上に殺気立った。
結果的には、魔物は火事を教えてくれた存在だ。
『今は気にしていない』ということだった。
話が終わった時、アリサが牧場主を連れてきた。
「みんな、今から言う事は勇者としての命令だからね」
そう言って王から渡された勇者印を見せる。
みんなは『何事か』と息を呑む。
「先日ここに来た魔物といわれる一族と取引することにしたの」
その言葉にそこに居るメンバーはみんな息を呑む。
あきらかに、その言葉に疑いを持っているからだ。
勇者の言葉に牧場のものはざわついていた。
「静かに!牧場主とも話したけど、先日の鶏の件は火事の報告と相殺でなかったこ
とにしたから。これから行なうのは魔物との対等の取引になるわ」
「そんな馬鹿な! 魔物と会話など出来るわけが無い」
「静かに! だからこれから行なうのはまだ極秘の試みなのよ」
「極秘?」
「こちらに居るのは、黒い使者よ」
そう言って、アリサは俺を紹介した。
その言葉にみんなが一斉に俺を見る。
どうやら『黒い使者』というのは大層な肩書きらしかった。




