12 結婚式
結婚式
王城から研修を兼ねてこの城に二人の料理人が来るようになった。
そのお陰で、俺は王城の料理人達と仲良くなっていく。
アランなどから見れば、王城の料理人は雲の上の人だった。
身分的には相手は貴族の子弟になる。
アラン達は、彼等を迎えて対応に困っていたぐらいだ。
そんな料理人が頭を下げてアランに教えを請う。
アランは、兄弟子で教える立場なのに敬語を使う事態に混乱する。
俺は料理技術を一通りアランには教えておいた。
身分は別で、技術的にはアランは兄弟子に当たる。
それで、慣れないながらアランは一人前に彼等を指導していく。
俺の料理よりさすがに研究熱心なアランの方が指導がうまい。
俺は、そんなところが少しだけ悔しい。
アランは俺の料理の腕とは別に尊敬し崇拝してくれた。
それは、『知識をもたらした者』という形だった。
この世界では、いまだにベーキングパウダーは見つからなかった。
しかし、替わりに重曹を見つけた。
俺は、それを代用させていた。
そのため、クッキーなどは最初の物が嘘のようにうまく出来るようになる。
ただ、アリサの様子に少しだけ不満そうな顔が見られた。
そういえば、お城の兵士の携帯食料に納豆を教えておいた。
すると、次に街へ行ったときの事だ。
そこには街の食堂で『納豆』が大きな看板で出ていた。
この国の食文化は、この城を中心として急速な発展をしていた。
それと、この城に来た料理人の口からお風呂がお城に伝わる。
それが、爆発的に流行していた。
俺とアリサとの関係は仲良くなってはいる。
けれども、一線はまだ越えていない。
夜は同じ部屋をあてがわれている。
俺は、彼女の『幼さ』ともいうべき物を感じてしまう。
それが手を出すのを控えさせる。
それに、アリサはどう見ても今は色気より食い気の方だった。
両親の二人は俺が彼女に手を出していない事は承知だ。
結婚式は『魔王討伐が済んでから落ち着いて行なう』と言っていた。
しかし、夫婦である証の誓いだけを行う。
それは近所の教会で身内の三人の立会いの許行なわれた。
現代なら市役所で入籍の手続きをするようなものだ。
俺の名前は「志郎・岸田・グランバニー」ということになった。
普通なら、岸田を改姓する。
けれども、『異界』ということで残す事になった。
こうして、高校生の俺がいきなり妻を持つ身になってしまった。
俺とアリサは、結婚して身内になった。
といっても、俺の立場は大きく変わらない。
相変わらず厨房に入り浸ってお菓子作りの毎日だった。
剣術?
俺は、最初の日にいきなり合格をもらった。
俺の目には、相手がゆっくり動く。
それをかわすのは簡単だ。
そして、相手は俺の打ち込み速度に付いて来れない。
指南役の先生より強くては話にならないからだ。
魔法は?
俺には使い方が良く判らない。
使えるものは、何も考えずに使える様になるらしい。
そして、種類が決まればそれに合った修行法がある。
しかし、俺には魔法の才能がなさそうだ。
才能というより、魔法の概念が無い為使えないらしい。
魔法見の魔法使いに見てもらった。
その結果は『真っ黒』ということだ。
ただ、魔法が使えないなら、『真っ白』と答える。
それなのに『真っ黒』というのは『見た事も聞いた事もない』という。
何でも返ってくる反応が無い。
魔法見の人は、『判定しようがない』という結論だった。
明日は俺がこの国に来てから一月になる日だ。
そして、アランの結婚式だ。
この世界の普通の結婚式は披露宴もない。
普通は、そんな質素な結婚式だ。
昨日からアランとニーナはお休みを取っていた。
俺は残ったメンバーで秘密の企画を考えている。
この世界で『初めて』とも言える披露宴を企画した。
秘密のため、王城の厨房を借りる。
料理長もその内容に興味があるらしい。
それで全面的に協力してくれた。
俺が今まで入手困難だった物まで手に入れてくれる事になった。
それは、手間をかけて牛乳から脂肪分だけで作られる無塩バターだ。
関係者からは相当渋られた。
しかし、王城の料理長の声はたいしたものだ。
鶴の一声だった。
料理長は肩書きだけではない。
『結構な身分の人』と部下の料理人から教えられる。
だから、あの謁見のとき、あの場に居合わせた一人だ。
キャラメルのことを知っていたのはその所為だった。
その人の声で、材料は集められる。
卵等の材料はさすがに新鮮なものが供給された。
そして、料理人は俺の指示で動いてくれる。
俺が王城に頼んでいたのはケーキだった。
卵白だけを取り出して泡立てる。
その間に、黄身を別の容器でかき混ぜて砂糖を加えておく。
それをマヨネーズの柔らかさにしておく。
泡立てた卵白にこのマヨネーズ状の黄身を加えて大きくかき混ぜる。
ここで、かき混ぜ過ぎないのがこつだ。
そして、出来上がった物に小麦粉を入れる。
ここでも、練りすぎると失敗する。
大きく混ざる程度にかき混ぜるのがこつだ。
そして、出来上がった物にバターを加える。
ここでも溶かしたバターを必要以上練らないようにする。
型に入れたら表面を滑らかにする。
後はオーブンに入れれば完成だ。
口で教えてもなかなか要領が掴めない料理人達。
しかし、さすがに勘が鋭い。
三回目には綺麗なケーキ土台を焼き上げていた。
クリームはバターを溶かしてマヨネーズ状にする。
卵白をかき混ぜて泡立ち始めたところで砂糖を加えて一気に泡立てる。
そして、バターを混ぜていく。
当然、湯せんをしないとうまくいかない。
でもここまでやってきた料理人はもう手馴れたものだった。
焼きあがった土台を綺麗に整形する。
その頃には何をやろうとしているのか判っているようだ。
ケーキの表面を綺麗にコーティングしていた。
生憎チョコレートが無い。
替わりにブルーベリーのジャムと苺ジャムをクリームに混ぜ込んで色付けを行なう。
二色しかないが十分な飾りになった。
手製の絞り器を見せる。
すると、見ただけで使い方が判ったようだ。
その辺は『さすが』というところ。
そういえば、マヨネーズを教えて使わせていた。
絞り器は、その応用だ。
綺麗に飾り付け終わった。
この世界で初めてのデコレーションケーキの完成だ。
結婚式の教会に持ち込む手はずを整えて解散だった。
料理人たちはその後もせっせといろいろな物を作っていた。
しかし、それは志郎の知らないことだ。
そして、当日逆に志郎は驚く羽目になった。
結婚式は順調に行なわれた。
観客の多さに本人たちは勿論、その家族も驚いていた。
一般の結婚式の『三十倍の人数』という。
『王城の料理人に指導している』と言う話も伝わっている。
その事で街の食堂の人も興味本位で見に来ていたからだ。
そして、会場の庭におかれていたケーキが目立つ。
それは、この世界初とあって一際注目を浴びていた。
綺麗に飾ったデコレーションケーキは、二人が刃を入れるのをためらったぐらい
だ。
そして、会場のお祝いに来た料理人の驚き企画もある。
彼らには、あの後せっせと作られていたミニケーキが配られた。
あれだけのヒントからショートケーキを作った料理人たちだ。
その出来栄えには俺も驚かされた。
中にはその場で食べずに持ち帰る者も居るほどだ。
数日前から、結婚式の披露用に用意された立食パーティー形の料理もある。
勿論俺からの提案だ。
結婚式は、普通ならただの祝いだけで終わるところだ。
そこで俺は参加者に料理を振舞った。
会場にいた子供にはキャンディとキャラメルが配られて大盛況で終る。
その結果、この街で一番派手な結婚式となった。
この世界に、新婚旅行という物は無い。
二人は次の日には職場に復帰だ。
ニーナの顔の嬉しそうな様子は癒される。
あの日、『手を出さなくて良かった』と思う。
そして、俺とアリサは冒険への旅立ちだった。




