第44話:数千億の家宝か、最新の芸術か。……私の「中身」より「外装」が国家予算を超えています
日本への凱旋。新居の広大なドレッシングルーム(という名のホール)には、二人の男が火花を散らして立っていた。
「……湊さん。この、目が潰れそうなほど光っている着物は何ですか……?」
「……神宮寺家が江戸時代から受け継いできた、伝説の『極光』だ。……糸の一本一本に砕いた真珠を練り込み、100年前の職人が生涯を賭けて織り上げた。……価値をつけるなら、数千億は下らない」
湊さんは、腕を組んでその家宝を見つめている。……供給。……一族の歴史を背負う、若き当主としての「厳格な推し顔」の供給。
「……兄さん、重すぎるよ。……そんな博物館の展示品みたいな服、花音が疲れちゃうだろ? ……僕が用意したのは、現代の最高傑作。……これを見て?」
KYLO(カイロ)様が指を鳴らすと、特製ケースから「光り輝くドレス」が姿を現した。……絶景。……「伝統の重み」か「現代の極致」か。
「……これ、布じゃなくて……全部、マイクロダイヤモンドを編み込んだんですか!?」
「……正解。……光を浴びるたびに、花音が虹色に輝くように計算してあるんだ。……僕の隣で、世界一のプリマドンナになってよ」
(……プリマドンナ!? 結婚式が世界配信のランウェイになっちゃう!!)
二人の「神」が、私の左右から詰め寄る。
湊さんは私の腰をぐいと引き寄せ、耳元で低く囁いた。
「……花音。……神宮寺の歴史を君に纏わせ、俺の正妻として全社員に跪かせたいんだ。……君の重みは、俺がすべて支えてやる」
KYLO様は私の手を取り、指先に熱い吐息を吹きかける。
「……花音。……歴史なんて古いよ。……今、この瞬間、僕の選んだドレスで世界中を嫉妬させて。……僕が君を、永遠の伝説にしてあげる」
(……無理。……「和の伝説」も「洋の神話」も、どちらも『推し顔』が勧めてくるから断れない……!)
湊さんは不機嫌そうに目を細めると、KYLOのドレスを一瞥して言い放った。
「……ならば、披露宴の第一部は『和』、第二部は『洋』だ。……さらに第三部として、俺がデザインした『プライベート用』の衣装も着てもらう」
(……第三部!? 一日に何回着替えさせるつもりですかぁぁ!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「披露宴の時間軸」さえも自分の独占欲で埋め尽くしてしまった。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『二人の神(似)に、一分一秒を惜しんで着せ替えられ、一瞬たりとも目が離せない美の暴力』という、全オタクが前世で並行世界の平和を永久に確定させたとしても体験できない「贅沢な審判」へと突入したのだった。




