第38話:紛争地帯のセンター(推し)を、自家製ヘリで強奪しに来ました
「……湊さん、防弾チョッキなんて着せられて……ここ、本当にどこなんですか!?」
パーティー会場のドバイから数時間。私たちが降り立ったのは、砂塵の舞う中東の未開発地帯――軍事独裁政権が支配する『暗黒の聖域』だった。
KYLO様が、極秘のミュージックビデオ撮影中に、現地の反乱軍に拘束されたという。
「案ずるな、花音。……神宮寺のネットワークに不可能はない。……あそこだ」
湊さんは、砂漠迷彩のタクティカルジャケットを完璧に着こなし、片手に通信機を握っていた。……供給。……戦場を支配する「冷徹な指揮官としての推し顔」の供給。
彼が指を鳴らすと、夜空から神宮寺重工製のステルスヘリが三機、轟音と共に現れた。
「……湊さん! 爆発音がしてますよ! 帰りましょう! 私、怖いです……っ!」
「……逃がさん。……俺の横が、世界で一番安全な場所だと教えてやっただろう」
湊さんは私の腰をぐいと引き寄せ、自分と密着させた。
……天然。彼は「警護」をしているつもりだろうが、その腕の力は、銃弾よりも熱い独占欲に満ちていた。
反乱軍の拠点を、湊さんが手配した私設特殊部隊が一瞬で制圧する。
地下牢の扉を、湊さんが自ら蹴破った。
「……遅いよ、兄さん。……ファンに見られたら、僕の『無敵キャラ』が崩れちゃうところだった」
鎖に繋がれ、ボロボロになりながらも不敵に微笑むKYLO(本物)。
湊さんは弟を一瞥すると、鎖を素手で引きちぎらんばかりの勢いで破壊した。
「……ふん。……情けない姿だな。……花音が泣いているぞ。……その落とし前は、たっぷり付けてもらう」
湊さんはKYLOを片手で立たせると、もう片方の腕で私を軽々と抱き上げ、燃え盛る拠点の中を悠然と歩き出した。
……絶景。……爆発を背景に、傷だらけのアイドル(弟)を連れ、最愛の女性(妻)を抱く「真の支配者」。
「……いいか、花音。……たとえ地の果てだろうが、地獄の底だろうが、俺が君を離すことはない。……君を脅かす火の粉は、俺がすべて払い除けてやる」
(……ひ、ひいいいっ! 救出劇が、ハリウッド映画を越えた『重すぎる愛のデモンストレーション』になっちゃってるぅぅぅ!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「国家間の紛争」さえも、自分の一途さを証明するステージに変えてしまった。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『戦場を駆け抜ける覇者の腕の中で、推し(本物)の救出に立ち会う』という、全オタクが前世で一つの銀河を守り抜いたとしても体験できない「伝説の戦記」へと突入したのだった。




