第37話:世界のセレブが集まる夜、隣の男(似)は「俺の宇宙は、彼女一人だ」と宣いました
ドバイの洋上に浮かぶ、一晩の建設費だけで国家予算が飛ぶという巨大なメガヨット。
世界最大のSNSの王、マーク・ゴールドバーグ主催の極秘パーティーに、私たちは招かれていた。
(……あ、あわわ。周りを見渡せば、石油王にハリウッド女優に、ITの巨頭ばかり……。私、ここにいていいの!?)
借りてきた猫のように縮こまる私を、湊さんは力強く抱き寄せた。
今日の彼は、漆黒のタキシードに身を包み、胸元には神宮寺家の家紋を象ったダイヤモンドのラペルピン。……供給。……世界の中心で、冷徹な覇気を放つ「支配者の推し顔」の供給。
「……湊。……久しぶりね。……まさか、そんな『地味な小娘』を連れてくるとは思わなかったわ」
現れたのは、中東の王族であり、世界一の美女と謳われるサフィア王女。
彼女は私を一瞥し、扇子で口元を隠して優雅に笑った。
「その子、あなたの秘書? それとも、一晩の遊び相手かしら? ……私なら、あなたの隣に相応しい富と美貌を差し上げられるのに」
周囲のセレブたちが、クスクスと品定めの視線を送ってくる。
……格差。……世界の頂点に立つ美女からの、圧倒的なマウンティング。
私が思わず俯こうとした、その瞬間。
「――サフィア。……言葉を慎め」
湊さんの声が、ヨットのエンジン音さえもかき消すほどの冷酷さで響いた。
彼はサフィアの差し出した手を見向きもせず、私の腰をぐいと引き寄せ、全人類……いえ、全世界の支配者たちが見守る中で、私の手の甲に深く、独占欲に満ちたキスを落とした。
「……彼女は、俺の婚約者であり、俺の全財産の受取人だ。……君が差し出す富など、彼女が俺に向けてくれる微笑みの、一秒分の価値もない」
(……ぜ、全財産の受取人!? スケールが大きすぎて、法務局が爆発しちゃう!!)
湊さんはサフィアを氷のような瞳で射抜くと、私の耳元に顔を寄せ、マイクを通さずとも全員に聞こえるような甘い声で囁いた。
「……いいか、諸君。……俺にとっての世界とは、この瀬戸花音(わが妻)のことだ。……彼女を不快にさせる者は、今日この瞬間から、神宮寺グループおよびわがパートナーシップのすべてから永久に追放する」
会場が、水を打ったように静まり返る。
サフィア王女は顔を真っ赤にして絶句し、周囲のセレブたちは一斉に私に対して敬意の眼差しを向け始めた。……スカッと。……世界一の美女を「無価値」と断じる、圧倒的なまでの偏愛。
「……湊、さん。……やりすぎです……っ!」
「……足りないくらいだ。……花音。……君が望むなら、この海を埋め立てて、君だけの国を作ってやってもいいんだぞ?」
(……建国!? 天然でそんなこと言わないでくださいぃぃ!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「世界の社交界」を自分の惚気のステージに変えてしまった。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『世界の王たちに跪かれ、その顔を持つ男に一生飼い殺される』という、全宇宙のオタクが前世で並行世界を三つ救ったとしても体験できない「頂点への凱旋」を成し遂げたのだった。




