第36話:白無垢かドレスか。……二人の「神」が私の着せ替え人形(対象)を奪い合っています
凱旋帰国から数日。新居となる都内超高層マンションの最上階。
広大なリビングには、世界中から集められた最高級の衣装が所狭しと並べられていた。
「……あの、湊さん。結婚式の打ち合わせ、まだ衣装の段階ですよね? なんでこんなに数があるんですか?」
「……足りないくらいだ。……花音、神宮寺の正妻として、伝統ある『白無垢』を着てほしい。……一針ずつ純金で刺繍を施した特注品だ」
湊さんは、漆黒の羽織袴を試着し、腕を組んで立っていた。……供給。……現代の若殿様のような「和装の推し顔」の供給。
「……兄さん、センスが古いよ。……花音は僕がプロデュースする『オートクチュールのドレス』を着るべきだ。……パリの職人が彼女のためだけに織った、ダイヤモンドを散りばめた純白の一着だよ」
横から口を出したのは、SOLARISの活動を一時休止してまで「義姉」のプロデューサーを買って出たKYLO(カイロ)様だ。……絶景。……「和の支配者」と「洋の王子様」による、眼福すぎる衣装対決。
「……断る。……彼女のうなじは、俺だけが愛でる特権だ。……ドレスなどという露出の多い服は許さない」
「……へえ、独占欲が重いね。……花音、僕が選んだドレスなら、世界中のファンが君を『本物の女神』として認めるよ。……僕の隣で、一緒にランウェイを歩くような結婚式にしようよ」
(……ランウェイ!? 結婚式がコンサート会場になっちゃう!!)
二人の「神」が、私の左右から迫ってくる。
湊さんは私の腰を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「……花音。……俺の横で、神宮寺の赤に染まってくれ。……君を、誰にも渡したくないんだ」
KYLO様は私の手を取り、指先にキスをしながら見つめてくる。
「……花音。……僕が君を、世界一輝くスターにしてあげる。……僕のプロデュースを信じて?」
(……無理。……「和の推し」も「洋の推し」も尊すぎて、選べるわけがない……!)
私は、交互に詰め寄る二人の「神ビジュアル」に挟まれ、知恵熱が出そうになった。
……天然。湊さんは「伝統」を守るつもりだろうが、その瞳は、和服でしとやかになった私を、一秒でも早く寝室へ連れ去りたいという執着に満ちていた。
「……湊さん、KYLO様。……あの、両方着るっていうのは……」
「「……全部だ(よ)」」
二人の声が重なった。
湊さんは私の顎をクイと持ち上げ、不敵に微笑んだ。
「……そうか。……ならば、一週間かけて結婚式を行おう。……毎日衣装を変え、毎日君を世界一の幸せで上書きしてやる」
(……一週間!? 結婚披露宴のギネス記録、更新しちゃうんですけどぉぉぉ!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「結婚式の概念」さえも書き換えてしまった。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『二人の神(似)に、一週間かけて世界一の美しさを競い合われる』という、全オタクが前世で徳を積みすぎて宇宙の真理に到達したとしても体験できない「贅沢な拷問」へと突入したのだった。




