第32話:推しの手を取るか、彼(似)の腕に溺れるか。……答えは最初から決まっていました
吹雪が止んだ翌朝。古城の地下室で見つかった先祖の日記には、震えるような文字でこう記されていた。
『二人の王が並び立つ時、選ばれし乙女の接吻こそが、呪われた血の争いを止める唯一の鍵となる』
朝日が差し込む大広間。
私の前には、全く同じ顔をした二人の男が、左右から手を差し伸べていた。
「……花音。……俺を選べ。……君を一生、俺の檻から出さない。……俺のすべてを君に捧げる」
湊さんは、氷のような瞳に執着の炎を宿し、低い声で私を支配しようとする。……供給。……朝日を浴びて、独占欲を隠さない「支配者の推し顔」の供給。
「……花音。……僕を選んで。……世界中の光を君に見せてあげる。……君の推しとして、永遠に君の心に居座り続けてあげるよ」
KYLO様は、あの「全人類を跪かせるファンサ・スマイル」で私を誘惑する。……絶景。……「現実の愛」か「理想の偶像」か。
(……待って。……二人の『神』に、今、私は人生最大の二択を迫られてる……!)
私はゆっくりと、一歩前へ踏み出した。
KYLO様の手を、そっと押し戻す。
「……KYLO様。……あなたは私の『光』です。……でも、私は――」
私は、迷わず湊さんの胸に飛び込んだ。
彼のジャケットをぎゅっと握りしめ、驚きに目を見開く湊さんの唇に、自分から背伸びをして、深く、深く口づけた。
……逆転。……ヒロインからの、初めての「上書き」。
「……湊さん。……あなたが『闇』なら、私はその闇の中で、あなただけを『推し』続けます。……画面の中の誰かじゃなくて、今、私を抱きしめている、あなたがいいんです」
(……ひ、ひいいいっ! 自分で言ってて、顔から火が出そう!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「ヒロインからの自発的な愛」という、最強の武器を手に入れた。
KYLO様は一瞬絶句したが、やがて「……完敗だね。……兄さん、彼女を泣かせたら、次こそは奪いにいくから」と、清々しく笑って背を向けた。
「……花音。……今、何と言った。……もう一度言え」
湊さんは私の腰を骨が軋むほど強く抱き寄せ、耳元で熱っぽく囁いた。
……天然。彼は「確認」をしているつもりだろうが、その瞳は、私の言葉一つで世界を焼き尽くしそうなほどの歓喜に満ちていた。
「……好きです、湊さん。……あなたが、世界で一番の『推し』です」
「……当たり前だ。……これからは、俺が君の人生のすべてを『独占プロデュース』してやる。……覚悟しろ」
神宮寺湊の「異常な全肯定」は、ついに「推しからの完全な卒業」と「リアルな溺愛の完成」へと到達したのだった。




