第29話:深夜の遊園地を買い占めて、推しの顔をした婚約者が「俺だけを推せ」と迫ってきます
婚約会見の喧騒から一夜。私は、湊さんの個人所有するプライベートジェットの座席に深く沈み込んでいた。
「……湊さん、スイスに行くって……急すぎませんか? それに、この飛行機、広すぎて落ち着かない……っ!」
「気にするな。君が会見で疲れているようだったから、少し羽を伸ばしに行くだけだ。……まずは、中継地点のドバイで夜遊びといこうか」
湊さんは、機内のバーカウンターでシャンパングラスを傾けていた。……供給。……雲の上で、月光を浴びながら微笑む「大富豪な推し顔」の供給。
彼が指を鳴らすと、窓の外に信じられない光景が広がった。
眼下に広がる、ドバイの巨大なテーマパーク。そのすべての明かりが、私たちの到着に合わせて一斉に灯ったのだ。
「……えっ、開園時間、もう過ぎてますよね?」
「ああ。今夜、ここには俺と君以外、誰もいない。……スタッフもすべて、君を喜ばせるためだけに配置した」
(……貸し切り!? 規模が大きすぎて、推しのコンサート会場の買い占めよりヤバいんですけどぉぉぉ!!)
私たちは誰もいない夜の遊園地に降り立った。
湊さんは私の手を引き、巨大な観覧車の前で足を止めた。……天然。彼は「静かな環境でのデート」を提供しているつもりだろうが、その瞳は、世界中から私を隠し、自分だけの檻に閉じ込めようとする執着に満ちていた。
「……花音。……会見の時のKYLO(アイツ)の目を見たか? ……あんな未練がましい虚像に、二度と君を触れさせたくない」
観覧車が頂上に達した瞬間、湊さんは私を背後の窓に押し付け、逃げ場のない距離で私を閉じ込めた。
窓の外にはドバイの絶景。……けれど、私の視界は彼の「美しすぎる顔」で埋め尽くされる。
「……いいか。スイスに行けば、俺たちの『血の秘密』がわかる。……だが、どんな真実があろうと、君の所有権は揺るがない。……俺がそう決めたからな」
湊さんは私の指を甘く噛み、そのまま深い、深い「契約」のような口づけを落とした。
その仕草。KYLO様が最新のMV『Golden Trap』で見せた、宝物を独占する孤独な王様の、1000兆倍強引でリアルな体温。
「……湊、さん……っ、……愛して、ます……っ」
「……知っている。……だから、一生俺の隣で、俺だけを『推し』続けていろ。……わかったな?」
(……ひ、ひいいいっ! 告白がもはや『終身刑』の宣告にしか聞こえないぃぃ!!)
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「国家レベルの贅沢」を尽くして私を精神的に追い詰め……いえ、溺愛し始めた。
私たちの『推し活OLライフ』は、ついに『スイスの古城に眠る家系の真実』という、ミステリアスな最終決戦の舞台へと向かうことになった。




