第26話:歴史ある本邸を「推し活の聖地」にリフォームされました
神宮寺本邸を掌握してから一週間。
かつて龍之介が「神聖な書斎」として使っていた、国宝級の障壁画が並ぶ大広間は、跡形もなくなっていた。
「……あの、湊さん。この、壁一面の4K巨大モニターはなんですか?」
「君が『SOLARIS』のダンスの細部まで確認できるように、NASAの技術を応用した最新鋭のディスプレイだ。……音響も、ドーム球場と同じシステムを組んでおいた」
湊さんは、エルメスのソファに深々と腰掛け、タブレットで何かを操作している。……供給。……歴史的建造物の中で、最新テクノロジーを駆使する「理系な推し顔」の供給。
(……待って。床が。畳だったはずの床が、全面大理石のダンスフロアになってる……!)
「花音。……これで、君は誰にも邪魔されず、24時間好きなだけあの虚像(KYLO)を拝める。……ただし、一曲見るごとに、俺の膝の上で一分間甘えることが条件だ」
湊さんは私の腰をぐいと引き寄せ、自分の膝の上にすとんと座らせた。
……天然。彼は「効率的な鑑賞環境」を整えたつもりだろうが、その瞳は、巨大モニターに映るKYLO様を、今にもシステムごとハッキングして消去しそうなほどの執着に満ちていた。
「……湊さん。こんなに贅沢をさせてもらって、私……バチが当たりそうです……っ」
「……バチ? ……笑わせるな。……俺が君に注ぐ愛は、神ですら干渉できない領域だ。……それに――」
湊さんの表情が、ふっと険しくなる。
彼はデスクの隅に置かれた、祖父・龍之介が残した古い家系図の巻物を一瞥した。
「……爺が言っていた『血筋の秘密』。……調査させたが、神宮寺家は代々、ある特定の『容姿』を持つ一族と密接な関わりを持っていたらしい」
(……特定の容姿? それって、湊さんやKYLO様みたいな……?)
湊さんは私の顎をクイと持ち上げ、至近距離で私を見つめた。
その瞳。KYLO様が最新のコンセプトフォト『DNA』で見せた、運命に抗うような力強い光と、完全に一致。
「……花音。……もし、俺とあの男(KYLO)が、単なる他人ではないとしたら。……君は、どちらを選ぶ?」
(……えっ、親戚!? それとも……っ!?)
湊さんは私の耳たぶを甘く噛み、逃がさないように抱きしめる力を強めた。
「……どちらにせよ、答えは決まっているな。……君を抱き、君を壊すのは、世界で俺一人だ。……わかったか?」
神宮寺湊の「天然な傲慢さ」は、ついに「血の因縁」さえも自分への独占欲のスパイスに変えてしまった。
私の『推し活OLライフ』は、ついに『歴史の闇と、推し(似)の執着に呑み込まれる』という、ミステリアスで甘美な新章へ突入したのだった。




