3の7 エピローグ
三章エピローグです
朝、夜明けと共に空気を叩くような喧しい音でカイトは目を覚ます。
何の音だ?ヘリコプター…?
「ヘリコプター??」
カイトは飛び起き、隣でしがみついて眠るマールに触れて揺らす。
「マール、起きてください!敵襲です!」
カイトの思考には中国領海に入っていると言うこと、となれば今、このヘリの羽音は間違いなく中国共産党の人民解放軍で間違いない。窓の外を見る、外には大きな巡洋艦がいた。
「んー…」
そんな緊急事態に於いてもマールは無警戒に横になったまま匂いを嗅ぐ。
「マール?」
「大丈夫だよ、カイト」
マールは目を閉じる。
「ホンダの匂いがする」
「…えっ?」
カイトは改めて横付けされた巡洋艦に目を向ける、脇腹に海上保安庁と桜のマークが描かれていた。
そこから…カイトとマールは迎えに来た本田達により回収され、被災地で待つ魔法少女部隊と合流した。
カイトが合流した魔法少女隊による災害支援は一週間で復旧支援へと切り替わり。これに伴って人命救助の役割が無くなった魔法少女隊は、惜しまれつつも被災地から離れる事となった。この度神奈川を襲った未曾有の大災害における最終的な犠牲者数は1000人を超え、災害は被災者達に大きな爪痕を残す結果となる。もっとも、この度の被害に負傷者数や行方不明者が存在しないのは、一重にマールと霧香の存在による事が大きいとされた。
余談だが、この度の大活躍を受け、日本政府は魔法少女隊を官邸に招こうと画策していたようだがカイトがこれを拒否したとされている。
ただ、これだけ目立つ活動をしてしまった弊害はちゃんと存在する、魔法少女隊には国民の注目が常に集まり、篠崎に至っては連日メディアに引っ張りだこにされるようになりシワが増えたと嘆いている。
「たまにはカイト君にも変わってほしいわ」
そんな愚痴をもらされたカイトは苦笑する。
「冗談を…私は目立つ気なんてないですよ」
カイトは実質のパソコンの前でタブレットに映された篠崎にそっけない反応を見せる。
「それより、中国の工作員達には何もせず解放で良かったの?」
マールの勇者の剣に斬られて加護の光へ変えられた工作員達は、カイトの一存で元の姿へと戻され、何の罪も問われる事なく無事に本国へと強制送還された。これにはマールや他の魔法少女達からも批判を受けたが、ただ、カイトは彼らを許して返還した訳ではなく一つの約束をしたのだ。
その約束とは、もしも中国で新たな魔法少女が見つかった際には必ず魔法少女保護対策課へ真っ先に伝えるというものである。最初は難色を示した工作員の面々だったが、カイトがマールを呼んだ途端に態度を一変させた…もしかしたら勇者の剣には斬った相手を服従させる効果があるのかもしれない。
あの災害をきっかけに、魔法少女の存在が世間に広く認知されたことで魔法少女保護対策課の活動に以前のような制限もなくなり、武器や医療品、そして何より冒険者体質のデメリットである、食糧の確保にも困らなくなった。ただ、それに伴い弊害もある。
魔法少女というように隊員の全てが年若い少女達である事から、マスメディアはこれを営業に利用しようとまるで芸能人のように扱うようになった事だ。特に災害支援で目立つ活躍をしていた霧香やマールには常に多くの目に追いかけられあることとなる。亜人討伐作戦の時は勿論、朝のランニングや訓練中など普段の生活、プライバシーに関するところまでも多くの人に見られる事となる。幸い、篠崎のおかげでカイト達の住む自宅周囲には近づかないように警告を出し近隣に保護対策課の職員が住み込んだおかげで家の中まで覗かれるようなことにはなっていないのが幸いである。
「ねえカイト…」
その日、朝の訓練を終えてシャワーを浴びたカイトは、ラフな下着姿のままリビングで寛いでいると、マールが神妙な面持ちでやって来た。
「?…どうしました?」
カイトはマールにしては珍しいと考えソファの隣を開けると、マールは隣に腰掛けた。その日は両親は朝から居らず、自宅にはマールとカイトの二人きりである。
「……」
静寂の時が流れる…マールは言いづらそうに俯いている。
「……あのね、見てほしいものがあるんだ」
なんだろうか…マールの反応的にあまりカイトには見せたくないものなのだろう。
「いいですよ?見せてください」
素直に気になった。そんな即答のカイトに、マールは少しだけ顔を顰めながらも右手の腕輪になった勇者の剣へ触れる。
「ん?」
腕輪から青銀の加護の光が水のようにテーブルへこぼれ落ちゴトリと重い音を立てて何かがテーブルの上に落ちる。
「……」
それは腕だった…不思議な色の結晶に覆われた男性のものと思われる両腕。
「こうさくいんの人達を出した時になんか奥の方に引っかかっててさ…それで、気になって…さっき振り回してたの…そしたらこれがでて来たんだ…」
マール曰く、勇者の剣はマールの体の一部のようになっていて剣の中に何かが入っていると歯の間に挟まったトウモロコシの皮のような、すごく嫌な気持ちになるのだという。
「なんです…?これ…」
こんなものは見たことがない、カイトはマールに問いかけるとマールは身を寄せて来てはだが触れる。
「結晶化した加護だと思う、グンヒルドと戦った時に失った腕を加護の光を結晶化させて武器にしてた…」
「…そんな事が可能なのですか?」
つまり、この腕は魔王軍の幹部が一人【黄昏のグンヒルド】ということになる、カイトは息を呑み腕に触れようと手を伸ばす。
「っ!!」
しかし、迂闊に触れようとしたカイトの手をマールが掴んだ。
「マール?離してください、それでは調べられません…?」
その小さな手は震えていた、見ればマールは俯いたまま怯えるよう小刻みに震えている。
「大丈夫です、貴女が隣にいるんですから」
そう伝えると、震えていたマールの体がピタリととまりゆっくりと頷く。
「うん…」
抱きしめてやりたくなるほど健気に名残惜しそうにカイトの手を離すのだもの。そんな健気さを見せられたらカイトとしてマールを抱き寄せないわけにはいかない。
「わ!」
唐突に抱き寄せられたマールは小さく声を漏らし顔を上げる。
「では、ふれますね?」
カイトのお伺いに、マールはゆっくりと頷いた。そしてそのまま流れるような動作で、結晶に覆われたグンヒルドの腕へ手を伸ばす。まずは指先で結晶化した表面に触れ、叩き、引っ掻く。結晶はとても硬く、叩くとコツコツと中が詰まったような鈍い音がする。思えばあの時、カイトはグンヒルドに殴り飛ばされ、瀕死の状態で水の中に沈んでいた。そのためマールとグンヒルドの戦闘を見れてはいなかったのだ。故に、加護の光が結晶化するなんて事象は初耳だった。
「…カイト?大丈夫?」
ショックを受けているカイトにマールが心配そうに問いかけて来た。
「大丈夫です、貴女があのグンヒルドと戦う姿が見られなかったのが悔しくて…」
「そ!そうなの!?…そうなんだっ…」
マールは照れくさそうに顔を逸らし、カイトはがしりと結晶を掴む。この結晶化された加護には質量がしっかりとありとても重たい、水晶にも見えるが…これはどういった原理なのだろうか?
「ふむ…マール」
「ん?…」
マールは顔を向ける、その顔はとても嫌そうだった。カイトが言い出す言葉に概ね予想がついているからだろう。
「…復活、させてみませんか?」
次章が現代編の最後になる予定です




