2の2 魔術舞踏会・前編
お待たせしました!
今回は溜め回
「魔術舞踏会?」
ある日の授業終わり、場所は講義室。目の前で青いドレスに青いベレー帽。全身を青に固めた女性、フィオレがふんぞり返り小ぶりな胸を張った。
「ええ、そうよ」
魔術舞踏会 この魔術学園ラ・ピュセルで年に一度、学年毎の生徒達にて行われるバトルロイヤル形式の魔術大会である。
「参加資格はこのラ・ピュセルの生徒でかつ、冒険者の者に限定される。つまりは、この大会中は対戦相手の殺傷も許可されているってこと!」
気持ちよさそうに声を張り上げ、その身体を使って身振り手振りに演説しているフィオレの目の前で、マールは大きなイビキをかいて眠っていた。
「マール、起きてください」
カイトはマールの肩を揺らすと、マールはパチリと目を覚ました。
「ふがっ…フィオレちゃんのお話しもう終わった?」
「教卓の前にいるときは先生と呼ぶっ!あと授業中に寝るなー!!」
フィオレは掲げた杖から水を放水し、寝ぼけ眼のマールの顔にぶっかけた。
「うわぷ!!!」
これは【ウォーターシュート】と呼ばれ水魔術で、作り出した水を指先や杖の先から放水する魔術である。寝ぼけ眼のマールは回避できずにモロに顔面にくらい、ずぶ濡れにされているが威力は特に無い様子だ、マールは気持ちよさそうにしている。カイトは素早くノートと共に水を浴び続けるマールから離れ、二次被害で濡れる事を防いだ。
「その大会に出場するのは良いですが、なにか我々にメリットはあるんですか?」
カイトの問いかけに、フィオレは屈託のない笑顔をむけてきた。
「よくぞ聞いてくれました!」
そしてフィオレは語り出す。
「この魔術舞踏会は、本来、開発した新しい魔術を見せ合いお披露目をして学び合う発表会的なものだったの。でも魔術師だって冒険者の端くれ、当然力比べがしたくなる…そんなこんなで形式が変わり、学年毎に最後の1人になるまで争う物騒なお祭りになったわけ」
フィオレはマールへの放水を止めると再び語り出す。
「メリットはもちろんあるわ!他の属性のクラスと戦うわけだから様々な属性の魔術が実戦で使われるところが見れる、これは指揮者であるカイトには充分なメリットじゃないかしら?」
確かに、カイトは納得して腕を組み真面目に参加を考える一方で、フィオレは語る。
「あなた達2人は私が教えた初めての生徒になるの。つまり、わたしが魔術舞踏会に参加するのは今回が初めてになるって事よ!だから、是が非でも2人には活躍して貰って!水魔術の凄さを多くの魔術師に示す必要があるのよ!!そう!私の為に!」
最後の言葉がなければ綺麗に同情を誘えたと思うが、それがこのフィオレという女教師らしさなのかもしれない。
「…カイト、どうする?」
マールは素直にカイトへ指示を仰いできた、その顔は実に嫌そうな表情を見せていた。それもそうだろう、ここ数日、マールはフィオレから水魔術を学んできたのだが…今まで学んだ水の魔術は三つ、先程フィオレがマールに食らわせた水を放水するウォーターシュート、何も無い地面から水を湧き上がらせるアクアザッパー、そして、彼女曰く、最強の威力を誇ると自慢げに教えた真の初級魔術のバブルショット…はっきり言おう、現状の水魔術はどれも実戦で使い物にはならないものだらけなのである。そんな水魔術を携え、命の取り合いを行う戦場へ身を投じるというのは無謀も良いところである。
「参加しましょう」
しかし、カイトは意外にも意欲的であった。
「…えぇ!?」
カイトなら拒否してくれるだろうと考えていたが、想像していなかった発言が返ってきて、マールは嫌そうな顔をしていた。
「彼女が言った通り、魔術が実戦でどの様に使われるのかは是非とも観ておきたい…と、私は考えています。それに…我々は今後、魔手のオーレウスというこの世界で最高峰の魔術師と闘うんですよ?ならば、今のうちに様々な種類の魔術師達との戦闘経験は積んでおくべきではないですか?」
「あー…そっか…それは…確かに…なら、いいのかも?」
カイトの説得に、マールは納得した様子で頷いた。
「ようし!決まり!じゃーあエントリーするからね!」
フィオレは空中で手を泳がせ、参加書類を生み出すとそこにマールの名前を書き記した。その瞬間書類は燃え上がりどこかへ飛んでいった。
「これで参加は決定!本番は三日後!場所は後で伝えるわ!」
フィオレはそれだけ言うと、教室を後にしようとするが、何かを思い出したように振り返る。
「あ、言い忘れたけどこの大会、物理的な攻撃は失格になるから、当然、その剣も使用禁止よっ!!」
フィオレは手早くマールの身体を濡らした水を操ると、腰の剣へ纏わせるなり自らの手元に転移させてしまう。
「へ!?ボクの剣!!?」
マールは素早く剣を取り返そうとしたが、すでに剣はフィオレの手の中にあった。
「当たり前でしょ?魔術舞踏会は本来、新しい魔術の試験が目的の大会なのだから、魔術以外を使うのは禁止よ、殴る蹴るはもちろん、締め殺したりとか組み技ももちろん禁止!攻撃は全て、魔術であるのが条件!だから試合が終わるまであなたのこの剣は没収!魔術師学校の生徒らしく杖を使いなさい、杖を」
フィオレは没収した刺突剣に再び水を纏わせるとどこかへ消してしまう。
「で、でもボク、杖なんて持ってないよ?」
マールの意見に、フィオレは小さくため息を吐いた。
「購買に売ってるわ、大した値段じゃ無いのだからこれを機にちゃんと買いなさい。良いわね!じゃあ今日はここまで!ちゃんと晩御飯は食べるのよ!またね!」
フィオレは言いたいことだけ言うと、身体に水を纏わせ、次の瞬間にはフィオレの姿が消える。フィオレが教室を去ると、フィオレの魔力によって変質していた講義室は何の変哲もない元の講義室へと姿が戻る。
「カイト、どうしよう!ボクさっき購買で貰ったお金、全部使っちゃった…!」
慌てふためくマールだが、カイトは特に気にせずに金貨袋を取り出し、中を確認する。
「大丈夫ですよ。資金には少し余裕があるので」
学園に来て数日間、毎日余った金貨を律儀に貯金していたためその中には割と金貨が残っている。カイトは毎日金貨五枚を与えられるギフトはあるが、現在ゼノリコによって貯金は許されておらず、ある程度の資金が貯まると国の設備投資に使われてしまうため。ゼノリコの側から離れた現在ならば、ある程度の資金を貯金することができる。もっとも、マールの為に使うのならば、貧乏性でドケチなゼノリコも口うるさい事は言わないだろうが…。
「では、とりあえず夕食後に杖を見に行きましょうか」
「ごめん、カイトありがとう!」
カイトはマールを連れ一先ず夕食へ向かう。いつも思うが、質素な朝、昼に比べてバカみたいに豪勢なビュッフェ形式の夕食は目を見張るものがある。夕食の料理は大半が肉料理であり、しかも手掴みで食べる中世(野生児)スタイルなこともあり、基本手掴みで食べるマールは大喜びである。
「はー…朝や昼もこれだけ豪華ならいいのに」
巨大な魔獣のローストをペロリと平らげたマールは、満足そうにぽっこり膨らんだお腹を摩っていた。
そうして2人はラ・ピュセル内で唯一設けられた大きな購買へと向かう。購買は貴族などが多いラ・ピュセル内と言うこともあり、何でも割高に設定されている。先程、マールは二枚の金貨を使い果たしていたが、それはこの為である。
ただ、そんな高額な購買の中でも、魔術師が使う杖だけは比較的安価で取引されていた。安価なら質が悪いのか?というとそんなわけもなく、さすがは魔術師の学校という事もあり、広いフロアの一区画を丸々杖専用のスペースとして使っていた。壁際の大きな棚にはありとあらゆるさまざまな杖が並んでいる。
「うーん、僕、なんでもいいや。カイトが選んで?」
マールは杖に全く興味はないらしい、実に退屈そうに大きな欠伸をしていた。
「うーん、君が鈍器として使わないものか…そうしたら…」
「カイト!あれ見て!エルフの木で作った剣型の杖だって!」
マールの目を引いたのは無骨な大剣を模った木剣の杖を指差した。
「成る程、確かにエルフの国ではあの木を弓矢にも使っていましたね…木でありながら鋼の様に硬く錆びつかない…それでいて軽い…ふむふむ…は!だめですよ??」
思わず我を忘れかけたカイトは自分の頬を張り飛ばして意識を保った。こんなものを買い与えたりしたら、彼女は間違いなくこの杖を振り回し、参加者の生徒達を撲殺しかねない。
「ちぇー…」
「ですが、いい案ですね…」
「ほえ?」
カイトは唐突にメモを取り出し何かを書く殴ると、メモを背中のポーチに投げ入れ、ぶつぶつ呟きながらも、片手で扱う細長く短いステッキの棚へ向かった。
「これなんかどうかな?」
カイトが選んだのは、シンプルに小さく20センチ程度の細長い黒塗りの棒だった。持ち手にはしっかりとした握りやすいグリップがついている。
「これなら、大剣を振り回しながらでも開いた手で使えそうじゃないですか?」
「実戦でこんなもの。邪魔なだけだよ、使えない」
辛辣である、マールはそう言いながらもカイトから渡されたステッキを握りしめる。
「お、おもったより馴染む…」
おそらく勇者の神託による効果だろう、手に握ったその瞬間、武器として認識されたのだろう。
「では、それで」
カイトは不服そうにしているマールからステッキを受け取ると、受付へ向かう。
「何だ坊主!彼女にプレゼントかい?」
受付には魔術師らしからぬ筋骨隆々な身体に程よく焼けた褐色にタンクトップと言った装いの男が立っており。きらりと白い歯がよく目立つ笑顔をみせながらそんな煽りを入れてきた。幸いマールはさっさと外に行った為、彼の煽りは聞こえていなかったようだ。
「ははは、冗談でも言っていい事と悪いことがありますよ?」
理不尽に殴られる私の気にもなれ、カイトはそう思いながらも店主を制した。
「がはは!すまんなっ!その制服見るに、おめえは付人か?と言うとあのチビはどこぞの貴族のお嬢様ってとこか!?金の使い方が荒いもんな!?」
勇者印、天然100%の野生児です…とは言わず、カイトは取り敢えず無視することにした。金貨を一枚差し出すと、褐色の男は面倒そうに顔を顰めた。
「杖一本に金貨一枚は釣り銭がめんどうだ。一緒に果実のソーダなんかどうだ?甘くて美味いぞ!」
果実ソーダ?この魔術学園には炭酸飲料が存在するのか?カイトは内心驚きながらも、平静は崩さずに頷く。
「ではそれを二つ下さい」
「あいよ!」
男はいい返事と共に金貨を握りしめると背後の厨房のある個室の奥へ行き、しばらくすると果実のソーダとやらが並々に入った大きな木のジョッキを持ってきた。カイトは購入した杖をポーチに仕舞い込み、ジョッキを手に取ると購買の外へ向かう。外ではマールが退屈そうに購買の仕切り壁を背もたれにゆらゆらと揺れていた。
「お待たせしました」
退屈そうにしていたマールに声をかけると、マールは表情に怒りを滲ませる。
「遅い!!待ちくたびれた!……よっ?」
よく通る声で怒鳴ろうとしていたが、カイトが持っていた木のジョッキを見て目を丸くし、首を傾げた。
「それ果実のソーダ!?僕が飲みたかった奴!?」
さっきまで怒りに満ちていた表情がパッと明るくなる。
「そうなんですか?お釣りの代わりに渡されまして…」
その代わり様にカイトは苦笑していると、マールはジョッキを欲しそうにウズウズとしている。
「はい、こっちはマールの分です」
「うわい!やったあ!ありがとうカイト!!」
マールは大喜びで甘い果実のソーダが入ったジョッキを受け取ると、小躍りしながら購買の外にあった座椅子に腰掛け、両手でゆっくりと味わう様に飲み始めた。
「甘い!甘い!!」
そんなことを叫びながらも、目をキラキラと輝かせながら甘いジュースに喜んでいる姿は年相応といえるだろう。
「ははは、それは良かったですね」
そんなマールを微笑ましく見つめながらカイトは横に腰掛け、自分のジョッキの中を覗き込む。確かに中の赤い液体は炭酸の細かい泡がいくつも浮いてきており、ベリーの様な甘い香りが鼻を擽る。この世界へやってきて、カイトは久しぶりに飲む炭酸飲料にマールほどではないが期待と懐かしさで胸がいっぱいになっていた。そしてカイトも果実のソーダを口に運ぶ。
「!!!」
まず最初にカイトを襲ったのは、舌を刺すような強い痛みだった。それが口の中いっぱいに広がった。飲んではならない!そう思わせる程の激毒に対する拒絶反応が脳裏を駆け巡る。そして追い討ちのように野ベリーのものと思われる強い甘味と渋みが押しかけてくると猛烈な青臭さが鼻を抜ける。
「!!!」
カイトは何とか吐き出さずに飲み込む事ができた。
「ちがあう!!そうじゃない!!」
思わず叫んでしまった、幸いマールはジュースに夢中でこちらの反応は気になってはいないようだ。
「…す、すみません」
周囲の学生達からの好奇の視線に晒されて羞恥で顔を赤く染めながら静かに座ると、再び手にしたジョッキに視線を戻した。とてもじゃないが現代で炭酸飲料を飲んできた人間には飲めたものではない代物であった。炭酸飲料を舐めるなよ異世界人!!
「はー…しあわせ…」
静かな怒りに震えるカイトの隣で、マールは恍惚とした表情で飲み干したジョッキを抱えている。
「このジュース!すっごい人気でいっつも売り切れなんだよ?杖を買いに来て初めて良かったと思えたよ!!」
マール曰く、このジュースはこの魔術学園の購買でもトップクラスに人気な名物商品らしい、普段から売り切れが続出しており滅多に味わう事ができないのだという。
「ボクも初めて飲んだけど、とても美味しかった!」
この異世界の料理は基本どれも大味である、大体が塩による味付けでとりあえず腹に溜まればそれで良いって感じの食事が大半である。お世辞ではないが美味いと感じるものはこの世界にはない。辛うじて日本に近い文化を歩んだ花の国の食事は現代人の味覚に近い味付けが成されているのだが…それでもカイトにとっては物足りない味付けであった。
現代に存在する甘い炭酸ジュースを飲ませたらマールはいったいどんな反応をするのだろうか?そんな想像をしていると、不意に自分のジョッキに向けられる熱い視線を感じた。当然だが、マールがカイトのカップをじっと見ている。
「私のも飲んでいいですよ」
「ホント!?いいの!?やったあ!」
マールは大喜びでカイトからジュースを手に取るとそれも嬉しそうに飲みはじめた。当然だが、この世界で甘味は貴重である。いつか、現代にマールを連れて行く機会があったなら…その時、たっぷりと反応を楽しむことにしよう。カイトはそうあり得ないことを心に決めると、現状の課題に頭を切り替えるのだった。
二人は部屋に戻り、さっさと入浴を済ませると、マールは日課にしているストレッチに似た体操を始め、カイトは本日の授業内容の予習を開始する。
「魔術舞踏会かぁ…嫌だなあ…」
マールはどうやっているのか、天井に逆さのまままるでコウモリのようにぶら下がっている。
「マールにしては消極的ですね?ビビってます?」
「ち!ちがうよっ!!」
カイトに煽られ、マールはぶら下がったまま叫ぶ。
「物理攻撃が禁止なのがさ…煩わしいなって思ってさ。せめて近接で戦える魔術があったらなあー…」
マールはそう言いながら、ストレッチでやる様な姿勢で天井にへばりついた。それどうやってるの!?と気になるカイトではあったが…一先ずは視界で行われる怪現象を端に追いやる。
「それなんですが、マール。実は少し試してほしい魔術があるんですよ、いいですか?」
「うん!なに?…ふう…教えて?」
天井にへばりついていたマールは懸垂のような体勢で今度はぶら下がり、腹筋のような不思議な運動を繰り返している。実に異世界らしい不思議な光景だった。
「よっ、と…」
風呂上がりにも関わらず大粒の汗をかいたマールは、タオルで汗を拭きながら側へやってきた。
「今日、授業で習ったウォーターシュートの応用を考えて見ました、少しだけやってみてもらえませんか?」
「はいはい!いいよーとりあえず…窓の外でいっか、濡れちゃうとアレだし」
マールは小走りにテーブルの上に雑に置かれたステッキを手に取ると、部屋に備えられた小窓を開く。
「はー…すずしー…」
開かれた小窓から勢い良く風が入り込んでくる、何故なら、小窓の外は断崖になっている為である。落ちればもちろんひとたまりもないだろう、その脱落防止の為かとても小さくなっており、身を乗り出す事が出来ないほどに小さく、腕一本がとおるか通らないか、それほど小さなものとなっている。つまり練習を他者に見られる心配はない。それゆえに、2人はこの窓を使って水魔術の予習をしていた。
「えー…と、こうかな?」
マールは杖を窓の外に向けてウォーターシュートを唱えると、彼女の握ったステッキの先端から勢いよく水が吹き出しはじめた。
「これがなんなの?」
マールは出力を絞っているためか、チョロチョロと小便のようなか弱い水を杖先から出しながらカイトを見た。
「今までの授業を考えるに、魔術とはインスピレーションなんだと思ったんです」
…?マールは可愛らしく首を傾げた、可愛いね!バカがよぉっ…
「私が持っている現代の知識が魔術に使えないか?って話です」
現代の知識、その言葉が出るとマールはパッと笑顔になり、ウォーターシュートをやめると側で聞く姿勢を取る。
「どれ?どんなやつ!?すっごいのあるの!?」
現代に興味深々なマールは食い入る様に身を乗り出して聞いてくる。
「はい、水を利用した工具です」
カイトの言葉にマールは明らかな落胆を表情にする。絶妙にムカつく顔をしている。
「工具…へー…トンカチとか?…すごいじゃん」
一気に興味を失ったらしい、身を乗り出していたマールから力が抜けて行くのがわかる。
「現代では水を剣にして、鉄に穴をあけたり切断して形を整えたり、硬い鉱物を削って綺麗に磨いたりするんですよ」
「それ、教えて!すぐに!」
水の剣に興味を抱いたのか、マールはかつてないやる気を見せてきた。
「では、マールにもわかりやすく伝えますぬ」
カイトは現代の水を用いた工具、ウォーターカッターのイメージをできる限りわかりやすく、幼児でもわかるほど丁寧にマールへ伝えた。
「うーん…わかんない!」
「バカがよっ!!」
「なんだとーー!?」
マールは可愛らしく叫びカイトに殴りかかろうとしたがすぐに窓へ向かう。
「とりあえずやってみるね!」
マールは再び窓の外へステッキを向けると、ウォーターシュートを放出する。先程よりも勢いが増している気がするのは彼女のやる気が反映されているのだろう。
「もうちょい勢い上げて」
「え!…こう?」
カイトの言葉で水はさらに勢いを増す。
「もっともっと!」
「えええ?…くうう!」
マールの身体に力みが伝わりさらに水が勢いを増す、しかし足らない。
「もっといけるでしょ!マール!もっとだよ!」
「はああ!?出来ないくせにぃ…ならっこれで!!」
水の勢いが濁流に近くなりつつある。だが、まだまだ足りない。
「こ!これが限界だよお!!」
そんな何事を叫ぶマール、カイトはそんなマールのお尻を思い切り引っ叩いた。
「はわあっ!!?」
瞬間、マールの身体が思い切り上に跳ねて飛び上がる。
「か!カイトー!このやろー!!」
マールは即座に振り返りカイトの胸ぐらを掴み今にも殴らんと拳を構えてみせた。
「待って待って!マール!!見て!見てみて!!」
マールは怒り心頭の顔をカイトの指先の方にゆっくりと向けた。マールの放ったウォーターシュートは、カイトに尻を引っ叩かれた拍子に上に跳ね上がり窓枠の上側を破壊して分厚い壁を抉り取っていた。
「……スッゴ!ウォーターシュートの威力?これが!?」
「これで土台は整いましたね、後は…」
「カイト」
マールに呼びかけられカイトは顔を向ける、マールはいい笑顔で笑っており、ゆっくりと右腕を顔の前に持ってくると、握り拳を作り。次の瞬間にはカイトの顔面を深く抉り混む様にぶち込まれていた。
翌日、マールとカイトは朝早くから講義室へやってくると、早速昨晩の練習の予習を始めた。
「カイト、これはなんて書いてあるの?」
マールはカイトのノートを覗き、一箇所を指差した。
「はい、これは…」
「ハイハイ!席に着いて!今日の授業を始めるわよー!!」
説明しようとしたところにフィオレがやってきて、講義室がいつものように講義室が変質していき、足首が水に浸かる。
「て、あれ?2人とも早くない?…ちょっと、あさっぱらから講義室で盛ったりしないでよ??」
何を言い出すんだこの女教師は…カイトはマールを見ると、マールは目を点にしていた。
「……盛るってなに?」
「さ、さあ…何のことかさっぱりですね」
マールの言葉を軽くいなしながらスルーした。
「え…なに?あんた達それ以前の話?いいわねえ、ピュアで…」
まるで老婆の様なことを言い出すフィオレだが、マールはまだ気になっているようだ。
「…ねえ、盛るってなに?」
「あんたは知らなくていいの!!おしゃべりはおしまい!魔術舞踏会に備えて水魔術をビシビシ学んでもらうんだから!!いいわねマール!」
フィオレはピシャリとマールを叱りながら切り替えると、本日の授業が始まった、その日は敵から身を隠すアクアベールという水蒸気を利用した視覚阻害魔術と、水の柱を湧き上がらせ身を守るアクアザッパーを学んだ、マールは流石の勇者の神託なだけはあり一目フィオレの魔術を見ただけで完璧に模倣して見せた。
「相変わらずあんたのその勇者の神託はすごいわね…」
フィオレはしみじみと呟く。
「私が学生時代はアクアザッパーを完璧にするまでに何日も居残りしてやったというのに…才能って怖いわ」
「なんか僕じゃなくて勇者の神託がすごいって言われてる気がするんだけど?」
「まあ、実際勇者の神託による恩恵がすごいのは事実ですね」
もっとも、そうは言ってもその神託の力に振り回されないマールが一番すごいのだが…とカイトは考えていたが、マールはしゅんとなる。
「傷つくなあ…」
「わたしからしたら、その神託の力に振り回されずに正しく扱える君が一番すごいと思いますけどね」
「…………そ、そうかな」
マールは照れているのか小さく縮こまる。
「はいはい!惚気はやめてね!!!授業に集中しなさいね!!」
フィオレは手を叩きながら授業を再開した。
「はい!今日の授業はここまで!」
「フィオレちゃん」
「先生っ!」
「先生…」
「よろしい、何かしら?」
フィオレは聞く姿勢になると、カイトが呟く。
「この後、少しだけ予習がしたいので…講義室を使ってもいいですか?」
「?べつに使えばいいじゃないの」
「講義室の風景変えるのってどうやってやるの?」
「……うーん、いや、だめね!猿みたいに盛られても困るからやっぱ無し!部屋に帰りなさい、予習は禁止!本番も近いのよ!」
こいつは何をいっているんだ?と言い返しそうになったが、カイトは出かけた言葉を飲み込んだ。フィオレはそれだけ言うと、昨日の様に水になって弾けて消えてしまい、講義室は元へ戻る。
「うーん…カイト、どうする?」
マールの問いかけに、カイトは小さくため息を吐き出した。
「仕方ありません、担任が使えないなら別の講師を頼るまでです、一先ずは食事をしてしまいましょう?」
「うん!もうお腹ぺこぺこ!早く行こ?」
マールはカイトの手を引いて食堂へ走った。夕食を済ませると、カイトはマールを連れ、その足である講義室へと赴いた。
「珍しい生徒が来たな」
その講義室には1人、無数の本に埋まりながらランプのかすかな灯りを頼りに魔術本を読み漁る男の姿があった、普段の様な毅然とした態度の彼とは見違えているほど別人な装いだった。
「ご無沙汰しています、ヘヴァン先生」
「勇者も一緒か…ふむ、何か御用かな?手短に願いたい」
ヘヴァンは本を置き、こちらに向き直った。
「実は魔術の自習がしたいのです、自室でやっていたのですが、備品を壊してしまいまして…」
「窓枠を盛大に破壊したのはそのためか?」
ヘヴァンは把握していた。
「ご、ごめんなさい」
マールは素直に謝ると、ヘヴァンは特に気にする様子もない。
「魔術の探究に犠牲はつきものだ、そのために講義室を使いたいと言うお前達の移行は汲み取るべきだろうな…良いだろう、何が知りたいのだ?」
ヘヴァンは立ち上がると、いつもの様に姿勢を正した。
「講義室の使い方を教えて欲しいんです、フィオレ先生は教えてくれなくて…」
「ふむ、フィオレらしいな。あいつは昔からそう言うところがある…良いだろうこっちへ来なさい、カイト、お前が覚えてマールに伝えるがいい」
「はい!」
カイトはヘヴァンの側へいきノートを取り出すと、ヘヴァンは懇切丁寧に講義室の変質のさせ方を、実演をまじえて教えてくれた。
「魔術舞踏会に出ると聞いた…この自習はそれに備えたものか?」
ヘヴァンの言葉に、カイトとマールは同時に頷く。
「はい、実は新しい魔術を作っているんです」
その言葉にヘヴァンは目を丸くした。
「ふむ、それは楽しみだ…勇者が生み出す新たな魔術か…ふふふ。それは楽しみだな、ふふふふ」
ヘヴァンは実に嬉しそうに歯を剥き出しにしながら笑っていた。ヘヴァンに講義室の使い方を教わったカイトとマールは、さっそく夜の講義室へ戻ると、カイトはマールにもわかりやすい様に原理を伝えた。
「うーん!わかんない!!」
「だよねー!そんな気はしてた!!」
「なんだとー!?」
マールは反射的にカイトの顔面を殴りつけつつ杖を持つと、講義室が変質していく。マールにより変質された講義室は…真っ白で、何もない空間だった。
「………」
ヘヴァンは教えながらカイトに言っていた。
「…講義室はそのものが描く心象風景を映す心の鏡である、変質を願うものの心を映すと言われている。私ならばこの本の山。フィオレは浸水した教室であったな…勇者がどんなものを映したか…後で教えて欲しい」
マールが作り出した講義室には、何もなかった、ただただ白く、ただただ広い。それだけの空間である。
「なんかいい感じの部屋になったね!!これなら魔術の練習し放題だよ!…あれ、カイト?」
マールは実ににこやかに講義室の変質にはしゃいでいた。
「え、ええ!ではやりましょうか!」
カイトは早速床に座るとノートを開き、マールはステッキを構えた。ふと、ノートに目を向けたカイトの視界の端に何かが映る、みれば真っ白な床にマールらしい、小さく、下手くそな落書きがいくつも描かれている。カイトは改めて見回すと、それは真っ白な空間の壁に転々と描かれ、様々な小さな落書きが至る所に描かれていた。彼女らしく下手すぎて何を描いているのかはわからない…人にも見えるが獣にも見える、あまりにも下手だった。
「どうしたの?やるよ!?」
カイトは疑問を抱いた、マールには落書きが見えていないのだろうか?いや、ひょっとしたら彼女は些細なことは気にしないのかもしれないが…。そしてカイトとマールは、昨晩突き詰めた新たな水魔術を形にした。
「…カイト、これ、ひょっとしなくてもすごいかも…」
暫くして、完成したその魔術を実行したマールはその魔術が持つ可能性に驚愕し、そんなことを呟いた。
「もっと突き詰めれば更にすごいものにできると思います、フィオレ先生に伝えれば完成するのではないかと」
すると、マールは首を横に振る。
「いいや。これはフィオレちゃんには内緒にしとこう!!あの人ヒステリックに騒ぎかねないから!!」
本番中に横でヒステリックに騒がれるのは私なんですが…カイトは苦笑した。するとマールはパンと手を叩いた。
「ねえカイト!僕も一個心当たりがある水の使い方があるんだ!聞いてみてくれる!?」
カイトは筆記用具を手にしてノートをめくり、真っ白なページを開く。
「はい、どうぞ教えて下さい」
そして、マールは自分が過去に遭遇したある海魔の話をし始めた、実に抽象的で彼女らしい擬音に溢れており、内容の大半はわからないものだったが…。
「…その特徴をもつ生物なら現代にもいますね」
その海魔の情報から、カイトはある生物の特徴を思い出した。
「カイトの世界にもいるの!?あいつ、小舟とか壊して漁師を食べちゃったりするんだよ!?」
「は、ははは…現代のそいつはかなり小さいですからね…しかも揚げて食べると結構美味しい」
この世界に揚げる文化が有るのかは目を瞑る。
「え!?そうなんだ…あいつも美味しいのかな…」
想像して涎を垂らすマール、人を食べる様なやつはちょっとご遠慮願いたい…頭を切り替えたカイトは頷いた。
「確かに、その生物の技なら使えるかも知れませんね、現代にいるそいつの構造と原理なら大体わかります、早速試してみましょう!」
「わかった!!」
マールはニコニコと悪戯な笑いを浮かべ、深夜、誰もが寝静まる夜中、変質した講義室を使って練習をしつづけた、2人揃って翌日の授業に寝坊してしまう程、魔術の研究に熱中した。
「はい、今日はここまで!いよいよ明日ね!今日は夜更かししないように!」
フィオレはいまだに遅刻を根に持っている様子だった。いつもの様に言いたいことだけを言って水になって消える。カイトはマールと共に食堂へ向かった。
ふと、その日の食堂にはヘヴァンがいるのを見つけた。
「マール、わたしは少しヘヴァン先生と話してきます」
「うん!いってらっしゃーい」
マールは目の前にある肉の塊に目を奪われていた、マールは早速、丸焼きにされた魔獣の脚を掴むと腕力で千切り取る。
「野菜が足りなくはないかな?」
不意に隣に並んだ誰かに声をかけられた、その声にマールは聞き覚えがあった。気がつくと、マールは何もない真っ白な空間にいた。マールは恐る恐るそちらへ顔を向けた、そこにはスラリと身長が高く、全身を黒い衣装に身を包んだ青年がマールを見つめ、優しげに笑っていた。
「…なんの用?僕を殺しにきたの?魔王さん?」
初めて見るはずの青年を、マールははっきりと魔王さんと呼んだ。魔王は肩を揺らして笑うと歩き出す。
「少し歩こうか、勇者よ」
「……」
マールは魔王を警戒しながらも前を歩く彼の後ろについて行った。
「ヘヴァン先生!」
一方、マールが魔王と遭遇しているなど知らないカイトはヘヴァンの側へ駆け寄った、ヘヴァンはナプキンを首に巻き、空中に浮かせた皿に乗せた肉の塊をナイフとフォークで小さく切り分けながら黙々と口に運んで咀嚼している。
「おお、また会ったな指揮者よ…いや、カイト」
「実は、マールが講義室を変質させたんですが…」
カイトはマールの変質された講義室には何もなかった事を伝えた。
「どこまでも続く真っ白な空間…それは実に興味深い講義室だな…」
ヘヴァンは口をナプキンで拭い、新たに肉の塊を皿に乗せた。
「本当に何もなかったのかね?なんでもいい、小石があったとか、汚れがあったとか…ないかね?」
ヘヴァンの問いかけにカイトは落書きがあった事を思い出す。
「小さな落書きがいくつもありました、下手すぎて何かはわかりませんでしたが…」
「……」
ヘヴァンは訝しむ様な顔をする。
「カイト、その落書きは君だよ」
ヘヴァンは肉を口に運びながら、はっきりとそう言った。
「え?」
カイトの返答に、ヘヴァンは肩をすくめる。
「何もない真っ白な空間を生み出すものは2パターンある、一つ目は人ではないもの…人工で作られた生物や亜人はその空間を産み出すといわれている」
ヘヴァンは肉を口に運び、飲み込む。
「勇者は作られた存在である可能性は充分あるな、誰に、なんの目的で作られたのかはわからないが」
「そっ!そんなばかな!?マールは人間でしたよ、少し力は強いですが、暖かくて柔らかい…普通の人間です」
カイトは思わずそんなことを口走っていた、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
「そうムキになるな、私が言っているのは単なる仮説の話しだ、最後まで話をきけ。そして二つ目、物事の全てに興味がなく、目的も、何もないもの。わたしはこっちの線だと考えている」
「興味も、目的もない…?」
カイトの問いかけにヘヴァンは頷いた。
「しかし、彼女は勇者として魔王を倒す使命を」
「…それは、彼女が自分で決めたことなのかな?」
カイトは思わず息を呑んだ、確かにその通りだ。彼女の使命はゼノリコに与えられたものでしかない、ゼノリコに言われた事、やりなさいと言われた事を行っているのだ…しかし、ゴブリンの危機に見舞われた村を自発的に助けようとしていたではないか?いや、そうじゃない…もしも彼女が、ゼノリコから「困っている人は助けなさい」と教わっていたのなら。ただその指示に従って動いているだけに過ぎない…。辻褄が合うのだ、頑なに転生者を敵視していたり、自分が転生者であると判明した日、殺害しようとしにきたのも…。
そこで思い出した、マールは一度だけ自発的に動いた事がある、カイトを殺しにきたあの日の夜。マールは涙ながらにカイトの首を絞めながらこう言った。
「ころせないよ…」
と…そしてヘヴァンと目があう。
「何もない空間に落書きだけがあったのであろう?それも何個も、無数に。それは、何もなかった彼女の心に落書きを書き加えてしまう程の印象を与えた何かがあったと言う事だ、その中心にいたのはカイト、君以外にはありえないのさ」
ヘヴァンは真っ直ぐにカイトを指差した。
「君は…なんなのさ、敵なの?味方なの?」
暫く歩いたのち、静寂を破ったのはマールだった。そこで魔王は脚を止めると、空中で指をなぞり木のジョッキを空間に生み出した。
「座ろう」
魔王はその場の座椅子に座る、そこは購買の一画であった。マールは恐る恐る迎えにすわる。
「そう警戒するな、私はお前を害するつもりは今の所ない」
そう言って木のジョッキをマールに差し出した。
「…何それ?」
「果実のソーダだ、好きだろう?」
マールは思わず手が伸びそうになったが、その手を掴んで止めた。
「…て…敵の施しは…うけないよっ!」
「まだ誰かから言われた事だけに従っているのか?」
魔王の言葉にマールは首を傾げる。
「な…何を言っているの?」
マールは本当に理解していない様な表情をしていた。
「誰かに言われた通りに生きて、誰かが敷いたレールの上に従って歩き、自分で考える事もしないで今も生きているのか?」
魔王は畳み掛ける様に歩み寄り、圧を感じる瞳でマールを睨みながら顔を寄せる。マールも負けじと睨み返すが、魔王から放たれる強烈な圧に膝が笑う様に震えてしまう。
「う、五月蝿いな!!敵の君には関係ないでしょ!」
マールは素早く距離を取ると、そんなマールの言葉に、魔王は穏やかに目を伏せた。すると先ほどまで嫌と言うほど感じていた威圧感が嘘みたいになくなった。
「ふん…そう、俺は敵だ。それでよい」
そう言って、諦めたかの様にマールの目線に合わせる様に膝を折ると、魔王は手にした木のジョッキをマールの小さな手にしっかりと握らせる。
「私は敵だが、食べ物に罪はない…だからこれは君が飲め」
「………」
マールは木のジョッキを小さな両手で抱える、魔王はそんなマールの肩を掴むと側の椅子へ優しく誘導して座らせ、自分も隣に腰掛けた。そうして魔王はマールに身を寄せる。
「どうだ、少しはやりたい事ができたか?」
魔王は唐突にそんな事を聞いてきた。まるで父親が娘に尋ねるかの様なとても優しい声音だった、マールには魔王の意図が分からない。
「な、なんでそんなことを僕に聞くの?あなたは…敵なんでしょ?意味がわからないよ…」
本気で困惑を表情で現した、そんなマールを魔王はただただじっと優しく見つめていた。
「単なる余興だ、深い意味はない」
「…やりたい事なんてボク、よくわかんないよ」
マールの言葉に、魔王は落胆した様なため息漏らす。
「行ってみたい所、やりたい事…何でも良い。夢はないのか?ただの一つも…」
魔王は、まるで何かを搾り出すかのようだった…とても世界を滅ぼそうとしている人間の吐き出す言葉ではない。
「……」
マールは無言で俯いた、魔王はマールからゆっくりと離れていく。
「…行ってみたい場所はあるよ。カイトが来た世界に行ってみたい」
何故、敵である魔王にそんな話をしたのかわからない。しかし、魔王は驚いた様な表情をしていた。
「カイト…とは?あの少年か?」
魔王の問いかけに、マールは頷いた。
「…そうそう!そいつ!転生者でよわっちい癖に生意気な事ばっかり言ってくるの、見てるとムカつくんだ…何にも出来ないくせしてでしゃばってさ!たまには…その…かっこいい所もあるけどさ…」
マールは何処か照れくさそうに言いながら首を傾げた、何故?目の前にいた魔王が大粒の涙を流していたからだ。
「な…なに?…君、なんで泣いてるの?」
そのあまりにも不気味な光景に、マールはより警戒心を露にしてゆっくりと距離を取ろうとする。
「いやすまない、君の会話があまりにも退屈すぎて…欠伸を噛み殺すのに必死でな…」
魔王はそういいながら大きなあくびをすると瞼を擦る。
「な!なんだとおー!!」
マールは思わず殴りつけようとしたが、すぐにやめた。何故、敵であり魔王であることこの男とそのやりとりを反射的にしようとしたのか、まるで、カイトとのやりとりをしている様な不思議な気持ちになった。それに、彼の匂いは…。
「ふ、頃合いだな。」
そんなふうに固まったマールを他所に、魔王は静かに席を立つとその肩にとんっと手を置いた。
「マール、わたしはお前の敵だ。それだけは絶対に忘れるな、そして必ず私を倒しに来い…必ずだ」
どこか寂しそうな雰囲気で、はっきりと敵対の意思を表明すると、そのまま歩いて行く。
「今日は話せてよかった、次に会う時は命を取り合うときだ」
そう言って魔王は、最後にマールに振り返り告げた。
「待っているぞ…」
その言葉の次の瞬間には、もうそこに魔王の姿はなかった。
「………」
マールは呆然と魔王が消えた場所をずっと見つめていた、そこへ誰かが走ってくる。
「マール!いたいた!どこまで行ってるんですか君は!全く!探しましたよ?」
カイトだった、カイトはやや怒ったような困り顔をしていた。
「ああ…うん、ごめん、なさい」
「…何かあったんですか?」
妙に素直に謝ってくるマールに、カイトもマールの様子がおかしいことに気がついた様子で首を傾げた。
「魔王が来てた、僕と話したいって言って、だから少し話した」
「は?…えっ!?」
唖然としたカイトすぐに周囲を見回したが魔王の姿はどこにも見当たらない。そんなカイトを横目に、マールは手にしたジョッキを口に運ぶと一気に飲み干した。
「ぷはー!」
「ぷはー!じゃないよ!て!?それいつ買ったんですか!?魔王とは何を話したんです!?」
カイトは側に来て肩を掴むとマールの身体を力強く揺すった。
「もう!!そんなことはいいの!ほら!講義室行くよ!今日で新しい魔術を完成させるんでしょ!!」
マールはにこやかに言うと、カイトの手を引き講義室へ向かった。その日の講義室は前日よりも落書きが増えていた…。
そして、翌日ー 魔術舞踏会本番
「遅い!!君達!あたしいったよね?夜更かしはするなって!」
顔を真っ赤にして怒るフィオレ。しかし遅刻した原因は寝坊でも夜更かしでもない。
「そんなことを言われましても…会場も伝えられていませんでしたし」
「そうだよ!フィオレちゃん会場を教えてくれなかったじゃん!」
「へ?あれ、そうだっけ??」
…フィオレは悪びれなくきょとんとしていた。この為に2人は朝から学園内を駆け回るハメになった。偶然会場に向かう途中だったヘヴァンと会えた為、この会場となる食堂へ辿り着く事が出来た。
「まあ…その、なんだ。ウォームアップは済んだって事で一つ」
フィオレは気不味そうに言いながら踵を返して食堂へ通じる巨大な二枚扉を開いた。
「…ひろい…」
普段豪勢な食事が並んでいる時は気が付かなかったが、食堂は実に広くそこには大勢の生徒や教師達がいた。
「魔術舞踏会は学年毎に行われるんだけど、魔術師であれば、一般の観戦は許可されているのよ、まあ…お金がいるんだけどね?」
食堂の端には講師や一般の観戦者が座る席がいくつも設けられており、天井には中継されるのか魔術で形成されたモニターのようなものがいくつも浮いている。
「ねえ!フィオレちゃん!こんな狭いところでやりあうの?」
マールは落ち着かずに周囲をキョロキョロ見ながら、どこか興奮した様子でフィオレに問いかけた。
「んなわけないでしょ?後、先生っ!」
フィオレはマールの頭に拳骨を落とした。
「下の魔法陣を見なさい?あれで戦闘用フィールドに参加者を転移させるのよ」
フィオレはマールの手を取ると、さっさと歩いて水属性学科の文字が書かれたテーブルへと向かう。
「はいマール、これ腕につけて」
フィオレはテーブルの上に置かれた青く光り揺らめく水をイメージされた腕章をマールへ差し出す。
「うえ…何これ…」
マールは腕章を指で摘み、まじまじと見つめる。
「参加者がどこのクラスの生徒かわかる様に、付ける決まりがあるのっ、ほら早くつける!」
「えー、いやだよ!邪魔くさい…」
おそらく、魔術師と近接で戦う戦士の感覚の違いなのだろう。遠距離で魔術を撃ち合う魔術師は身体の装飾を気にしたりはしないが…マール達の様に前線で殴り合う戦士達は、戦闘中に気を逸らさない為、身に付けるものに拘りが強くなる傾向はあるのだろう。
「マール、貸してください」
見かねたカイトは腕章をマールから受け取ると、マールの腕に通して肩のボタン穴にくくりつける。
「動かしてみてください、どんな感じですか?」
マールはカイトの言葉に顔を顰めながらも腕を上げ下げしては可動を確かめる。
「うーん、多分気になっちゃう…」
「仕方ない、縫い付けますね」
カイトは腰のポーチから裁縫道具が入った小物入れを取り出すと、腕章を袖に縫い付け始めた。
「そんなに嫌なの?子供じゃないんだからそのくらい我慢なさいよ」
「お言葉ですが、フィオレ先生。マールは普段から最前線で大剣を振り回す戦いを続けて来たのです。戦場で動き回る戦士達にとって、装いの細かい変化が与えるストレスはバカに出来ないほど大きいんです。教え子を戦場で死なせたいんですか?」
「うっ…あ、そ、それは…ごめんなさい」
珍しく苛立った様な声音のカイトに早口で捲し立てられ、流石のフィオレも返す言葉が出ず、謝罪を口にした。カイトが縫い付けている間に1人の派手な衣装を身につけた男が食堂の中央にたった。
「それでは今から、参加生徒を名簿に記入しますので、参加者と教師の皆さんは此方へどうぞ」
「ほら行くわよ、カイトもくる!」
「え?私もですか?」
フィオレはさっさと歩いて行き、カイトとマールはフィオレについていく。すると、向かいの席に座っていた生徒達が次々と降りて来た。まるで動物の群の大移動の様に次々と降りていく生徒達、その腕には赤く輝く腕章が揺れ動いている。
「やーやー!フィオレ君」
大勢の生徒達の前で、燃える様な赤髪を炎の様に逆立てた小さな男が大きく手を振りながら歩いてくる。
「オズバーン先生…」
フィオレは忌々しげに顔を顰めると、外見の強面な感じとは裏腹なにこやかな笑顔を浮かべながら目の前までやって来たオズバーンはフィオレを見上げる。
「いやあ、すまんねー!私の生徒は今年も豊作でね!」
今、最前線で一番需要があるのは火属性と言われており、事実、最前線で即戦力となる魔術師の大半は火属性なのである。更に、A級冒険者のイザベラなどの影響も多分にあり、その為、大半の魔術師の神託を得た冒険者達は火属性を先行すると言われている。
「いいじゃないですか、弱い奴は群たがるといいますからね」
フィオレは悔しさを滲ませながらもそんな煽りをオズバーンへ向け、火属性の生徒達の殺気に満ちた視線がフィオレに殺到する。すると、彼は大声で笑いだした。
「あっはっはっ!!相変わらず鋭い毒舌だな!そう僻むなよ、今年の我がクラスは質も兼ねた生徒も多い。それに比べて君のところの生徒はたった1人、しかも短期入学の外部の生徒というでは無いか」
オズバーンはニヤニヤとしながらマールを爪先から頭まで舐める様に見つめた。
「ふん、私は勇者だなどという世迷言は信じていない。おおかた、どこぞの世間知らずのお嬢さんが見栄の為に宣った嘘に違いない…見るからに頭の悪そうな顔をしている、こんな顔のやつが勇者なわけがないだろう?」
オズバーンはそう言って笑えば、背後にいた火属性の生徒達も嫌味な笑いを浮かべた。
「カイト、よくわからないんだけど。これひょっとしてボク、バカにされてる感じ?」
「はい、君をコボルトか何かかと思っているようですね…」
「ふーん…そっかわかった」
マールはそういうと身を引いた、カイトもニコニコとしている。
「な、何がおかしい!付人!」
「…おや、バレましたか?」
カイトは笑いながら、それでいて背筋が凍るほどの圧を感じる瞳でオズバーンを睨む。
「感謝しますよ、わたしの勇者に火をつけてくれた事に…火の魔術とは、素晴らしいものですね」
「おお、いきなりばちばちだな。ほどほどにしろよ」
そんなカイトとオズバーンの間を数人の生徒を連れた男が通り、その背後には黄色い腕章をつけた10人もの男女が続く。
「フィオレ、生徒は教員に似るという。いつまで血祭りフィオレでいるつもりだ?」
「その呼び名は辞めてください、エイワーズ先生」
エイワーズと呼ばれた音楽家の付けるカツラの様な頭に、中世の海軍の様な装いをしている。
「君が件の勇者の神託をもつと言われた短期留学の生徒か…」
エイワーズはマールに歩み寄ると、自分よりもずっと小さなマールを見下ろした。
「ゴドー、こいっ」
エイワーズは指を鳴らすと、ゴドーと呼ばれた青年が生徒達の中から現れる。
「はい、先生」
スラリと背が高く、ハンサムな顔をしたゴドーはエイワーズの隣に並びマールを見つめた。
「お前は彼女をどう見る?勝てるか?」
エイワーズの問いかけにゴドーはマールを見つめ、そしてぷっと吹き出した。
「負ける方が難しいかと」
「うむ、そうであろうな」
ゴドーとエイワーズはそう言って嫌味に笑うと、マールは腕を組む。
「よし決めた、君のことは三等分に刻むっ」
マールはゴドーを指差しながら笑いかけた。ゴドーは聞こえる様に舌打ちをして笑みを消す。
「出来ねえことは滅多にいうもんじゃねえぜ?クソガキ」
「君を三等分にするはなし?いや、楽勝だけど…だって君、超弱いし」
マールははっきりと言った、瞬間、ゴドーは弾ける様に掴み掛かろうとしたが。マールはそんなゴドーの動きを先読みしたのか、一歩下がって僅かに距離を取ることでゴドーの手がスレスレで宙を描く。マールはそんなゴドーの腕をくぐる様に素早く距離を詰め、肩に手を置き、ケラケラと笑いながら告げた。
「出来ない事はするもんじゃないよ?」
ゴドーは信じられないものを見る様な目でマールを見つめていた。無理もない、彼はこの一瞬で3回も死んだのだから…。
「マール、あまり弱いものいじめは良くないですよ?」
カイトはマールの肩を掴んで引かせる。
「ふむ、本番が楽しみだな。ではなフィオレ」
エイワーズはそう言って歩いていくと、土属性の生徒達もそれに習い列が動くと、ゴドーはマールを睨みつけながらゆっくり退いていった。
「べー!」
マールは舌を出してゴドーを見送った。気がつけばオズバーン達の姿も其処にはなかった。
「やあフィオレ、君が参加するなんて珍しいじゃあないか?」
次に声をかけてきたのは赤いスーツに長身の男、持ち前の緑の髪の毛を逆立て。ハンサムな印象をうける顔を笑わせ歩み寄ると距離感がおかしいのかフィオレの顎に触れてクイと向けさせる。
「…フィヨルド…」
フィオレは自分の顎を掴んでいる手を強めに叩き飛ばした。フィヨルドと呼ばれた男は軽く手をさすりながらもハンサムな笑みを絶やさない。
「相変わらず性格がキツイな君は、そんなだから生徒にも恵まれないのだよ?」
フィヨルドの言葉にフィオレはフンッと顔を背けた。
「余計なお世話よ!わたしは量より質なの!」
そんなフィオレにフィヨルドは嫌味な笑いを漏らす。
「量より質…??スカラーも持たない君の生徒がかい?」
スカラー?カイトは疑問に思いながらフィオレを見ればフィオレは悔しそうに唇を血が出るほどの力で噛んでいた。
「君の生徒の質がどんなものかは知らないけど、今回の舞踏会は私の生徒が頂くよ。なにせ私のクラスにはそのスカラーもちがいるのだからね?」
フィヨルドはそういって指をさすと、その先には袖に緑の腕章をつけた集団がいる。その集団の中で、一人鮮やかな青いマフラーを巻いた緑髪のポニーテールの少女がいた。少女は此方には興味がないらしい、そばの女子達と談笑をしている。
「フィオレ、君のいう生徒の質とやらがどんなものなのか、楽しみにしているよハッハッハッハッハッ!!」
フィヨルドは高笑いをあげながら、自分の生徒たちを引き連れて行った。
「何がスカラーよ!」
フィオレは怒りをあらわにし、手にしていた櫛をへし折った。
「フィオレ先生、スカラーとは?」
カイトは特に気にする事もなく、問いかけた。
「学園でトップクラスの成績を出した生徒に与えられる青いマフラーの事よ。初代校長、魔手のオーレウスが一番の弟子と認めた人に身につけていた青いマフラーを与えたっていう伝承から始まった伝統なの。つまり、あの青いマフラーを巻ける生徒は学園でたった1人」
「成る程、つまり学園で最強の生徒というわけですか…」
「悔しいけど、そういう事よ!」
フィオレは腹正しそうに足を組んで背もたれに体重を預けていた。不意にマールがカイトの袖をくいくいと引いてくる。
「つまんない」
マールは実に退屈したのかじっとしていられない様子でぐずり出した。
「少し、我慢してください」
「そうよ、ほら、来なさい」
フィオレは母親のような事を言うと、マールの手を引いてやって来た派手な衣装の男から名簿を受け取りマールへ差し出した。
「あ、彼女は字を書けないので私が」
カイトは名簿を取りマールの名前を書き記して差し出す。
「マール、せめて名前くらいは書ける様にしなさいよ」
フィオレに愚痴を言われるが、マールは首を横に振る。
「ボク勉強嫌い!カイトがいるからいいもんっ」
「カイトがいない時はどうすんのよ」
「うう…それはそうだけど…」
「カイトもよっ!あんまりマールを甘やかすんじゃないのっ!」
マールの流れ弾がカイトにも飛んできた。
「はい、善処します」
カイトは苦笑しながらも頷いた、それはその通りだからである。
「はい、それではみなさん席について下さい!今回の魔術舞踏会のフィールドとルールを説明します!」
マールは戻って来るなり、隣に腰掛けるとカイトを強引に寄せて膝の上に寝転がるとすぐに寝た。
「こらマール!」
「フィオレ先生、今回の魔術舞踏会の参加者名簿は我々も見られるんですか?あれば見せてください」
「あ、ごめんごめん…はい」
マールを叱ろうとしていたフィオレは、我に帰ると水で名簿を作り出してカイトに見せて来た。そこには火180名、土10名、風30名、水1名と描かれており、一番最後にマールの名前が書かれている。
「全部で221名ですか…」
「うう、わかっちゃいるけど数字を見ると人気の差を見せつけられるわね…くうう」
名簿を横目で見ながら、フィオレは歯軋りした。
「当たり前だろ?現状の最前線では火属性のファイアボルトかエクスプロージョンくらいしか使い道は無いんだから」
聞き覚えがある声がした、カイトが振り返り見ると、そこにはA級冒険者、炎術の使い手であるイザベラが腕を組んで立っていた。
「イザベラさん」
「隣いいかい?」
隣はマールが寝ているが、カイトが頷くとイザベラは膝の上で眠るマールを軽々と抱き上げ、子供をあやすように抱きながら、隣に腰掛けた。
「何しに来たのよイザベラ?不出来な私を笑いにでも来たのかしら?」
フィオレは不貞腐れたように食ってかかる。
「勇者様が参加なさると聞いたから観に来たのよ」
いつもの高圧的なイザベラとは違い、眠るマールの背中をトントンとしている。
「はあ、そうなのね。でも、あんまりマールを甘やかさないでくれる?ただでさえ甘ったれてわがまま放題なんだから」
頬杖をつき、ため息を吐き出すフィオレ。気まずい…険悪なイザベラとフィオレに挟まれカイトは苦笑していた。
「てか、あんた一応炎使いでしょ?オズバーンの側にいなくていいの?」
フィオレに言われたイザベラは鼻で笑う。
「あたし、苦手なんだ、あいつ…なんつうか。目つきが」
「あー…うん、それは…わかるわ」
フィオレは頷き、イザベラの言葉に同意を示した。
「しかし、勇者様が水属性を選ぶなんて思わなかった…少し負けた気分だわ」
イザベラは少しの悔しさを滲ませ、フィオレは上機嫌に笑っている。
「イザベラさんからはいつでも教わる事が出来るから、今は興味がある魔術を覚えたいのだそうです。」
カイトの言葉にイザベラは小さくため息を吐き出した。
「なんだ、そう言うことか…安心した」
「でもなんでそれで水属性なの?風や土みたいな火以外にもいい属性があるじゃない?」
フィオレの疑問にカイトは答える。
「美味しいお茶が入れたいんだそうです」
「そ、そんな理由で?私の教室に来たの?」
フィオレは顔を顰め、イザベラは吹き出して笑い出す。
「マールが魔術で淹れてくれるお茶は絶品ですよ?今度、お二人にもご馳走しますよ」
そんなカイトに、イザベラとフィオレは何かを察し冷たい目線を向けて来る。
「ガキの癖に盛ってくれちゃって。生意気」
「カイト、それはお前だけが味わえ」
「そ、そうですか…」
良く意味は分からないが、二人はそれぞれの反応でカイトを叱りつけた。すると、開始を告げるチャイムの音が鳴り響くけば、一人の教師にしてこの学園の現校長【ドドマツ】が歩いてきて高台の上に登った、相変わらず腐ったような悪臭を纏っている。
「くさい…」
マールはそのあまりの悪臭に耐えかね、ゆっくり目を覚ました。
「は…はれ?イザベラ?」
「ご無沙汰しております、勇者様」
イザベラは気を利かせてハンカチでマールの涎をふくと、そのまま鼻に当てる。
「あ、ありがとうイザベラ」
マールはハンカチを受け取り鼻を覆いイザベラの膝に座ったまま甘えている。
「マール!いつまでもイザベラに甘えてんじゃないの!!」
フィオレに口うるさく叱られ、マールはうるさそうに耳を塞ぎながらイザベラにくっつき、イザベラは苦笑していた。
「これより第450回、魔術舞踏会を始める。今回は、過去最高の参加人数となっており、今回君達の戦場にするために用意した島が小さく感じてしまうことでしょう…ですが、ここに集まり参加を表明した未来ある魔術師達の健闘を祈りつつ私の言葉を閉めさせていただきます。ではヘヴァン先生、フィールド説明と開始の宣言をお願いします。」
ドドマツはそれだけ告げると、すぐに壇上からおり、へヴァンが上がる。
「それでは、今からフィールドの説明を開始する。魔術師諸君は中央の大型モニターを見て欲しい」
それ、この世界でもモニターって呼ぶんだ…カイトはそう思いながらもモニターを見上げると、其処には小さな孤島の全体図が映し出される。
「これが、今回君達が凌ぎを削る場所である。外観よりもずっと狭くそう偶然になりやすいちょうどいい広さになっている。しかし、孤島全体は森林と険しい山岳に覆われており魔術師の諸君にはいささかアップダウンがきついかもしれないな、残りの参加者は常に空の上に大きく表示されているので、随時みるように」
ヘヴァンは手にある資料を読みながら孤島の情報を事細かく伝えていく。
「周囲の海に出る事は禁止、海の水が足についただけでも失格となるため、海には近づかない事だ」
「ちぇ…」
マールは海に入る気だった様だ。
「では、改めて本魔術舞踏会の禁止事項を諸君らに伝える。1つ、敵に対する物理攻撃は基本禁止である。殴る蹴るなどの行為はすぐ失格となる。」
すると不意にカイトが大きく手を上げた。
「カイト、何かな?」
「相手を音も立てずに殺害したい場合、口を抑えるとか押し倒すなど、所謂掴みからのトドメを刺す行為は失格になりますか?」
カイトの発言に解除は失笑する、しかしヘヴァンは笑っては居ない。
「トドメが魔術ならば失格にはならない。もっとも其処まで接近を許す魔術師は…諸君の中には居ないと思いたいが」
そう、魔術師達を煽り、カイトは手を下ろしてマールに目を向ける。
「おっけー、ありがとうカイト」
マールは意味ありげに笑うてイザベラの膝から降りて軽い準備運動を始める。
「マール、戦術を伝えます」
カイトはヘヴァンの話の途中だと言うのに立ち上がるとマールの側へ行き、マールと手を繋ぎながらしゃがみ込むとマップを床に広げてしゃがむ。
「こら2人とも!」
「いやいい、そっとしとけ」
叱ろうとしたフィオレを、2人の意図を察したイザベラが制止する。
「では、参加者は食堂の中央へ来てくれ、転移を始める」
ヘヴァンの言葉と同時に、食堂の床に描かれた転移の魔法陣が赤く光り出す。
「じゃ、行ってくる!」
それを見たマールは笑顔で食堂の中央へ駆け出して行った。
「マール!全員ボッコボコにしてやんなさい!!水魔術の恐ろしさをたっぷり教えてやるのよ!!」
フィオレは威勢よく机に足を乗せてヒステリックに怒鳴り散らし、マールは耳を塞ぐ。
「あ、う…うん?」
マールはそんなフィオレにドン引きながら此方を一瞥しつつ魔法陣の上に他の魔術師達と共に立つ。魔術学園の生徒達の中でも一際小柄なマールの姿は逆に目立っていた。
「それでは、第405回魔術舞踏会を開始する!!」
ヘヴァンが一際大きな声を張り上げると、赤い光が大きく爆発し、マール達を包み込むと。食堂中央から人々が消え、食堂は静寂に包まれた。
お疲れ様でした、本当は1話で全て描く内容だったのですが、あまりに長くなりすぎた為に二つに分けました。
次回、後半になります!




