2の1 魔手のオーレウス
はい、今回は短い仕上がりとなっています!
「カイト!はやくはやく!」
カイトはマールに手を引かれ、水の属性先行授業の教室へやってきた。水は人気がないのか、講師である女性が1人、ポツンといた。
「場所…間違えた?」
マールはカイトに問いかけると、カイトは首を傾げた。
「あ、あの!ここは水属性の教室ですよね?」
カイトが言葉をかけるが、背を向けて座ったままの女性講師からは何も返ってこない。
「?」
カイトとマールはお互いに顔を見合わせる。
「カイト、後ろにいて」
マールは明らかな警戒を露わにし、カイトを後ろに下げて前に出ると、女性講師の側へ歩み寄る、そして肩に触れた。
「あの!」
その瞬間、目の前の女性講師の身体がばしゃりと水になって崩れた。
「!!」
マールは驚愕に目を丸くし、身を引こうとしたがその脚をどこかから溢れた水が捕まえる。
「よ!」
マールはカイトを突き飛ばしながら、脚にまとわりついた水を踏み潰し激しい振動が水を弾き飛ばし、同時に腰の刺突剣を引き抜きながら何もない右の空間に剣先を向けた。
「ストップ!ストップ!!」
何もなかった空間から人の影が現れる、水の講師らしく水をイメージされた青いドレスに青いベレー帽を被り、青い長髪の若い女性は、鼻先に突きつけられた剣先からゆっくり距離を取る。
「貴女が噂の勇者ね?まさか私の講義を受けに来るとは思わなかった、わたしはフィオレ、よろしくね!勇者と指揮者様?」
フィオレは決まった動作でウィンクしてみせる。
「うん、よろしく!フィオレ先生!」
マールはにこやかに剣を下ろすと、鞘に収めた。
「しかし、貴女すごいわね?私はこの教室の空気に溶け込んでいたのに、どうやって私の位置を察知したの?」
フィオレの問いかけに、マールはカイトに目を向ける。
「匂いかな、僕、鼻が効くんだ」
「え…まじ…私結構臭う??」
フィオレはにこやかに自分の袖や衣服の匂いを嗅いでいる。
「はは、マールの鼻は動物並なんです、だから気にしなくていいですよ」
「そう、成る程ね」
フィオレはそう答えると、指を鳴らして自分の講義がしやすいように講義室を作り替える、水流が湧き上がり、机と椅子に姿を変える。
「じゃーあ。2人とも座って!早速水属性の授業を始めるからっ!」
いつものように、カイトはノートを広げ、マールは聞く姿勢をとる。
「では、水属性の基礎から話していくわね。へヴァン先生から勇者様の成績は見せてもらっているわっ、初級魔術は全て完璧なようね?」
「先生、僕にはマールって名前があります。勇者って呼ばれるの、僕好きじゃないんだっ、だからマールって呼んで、ください」
「ふふ、自惚れちゃって可愛いわね、貴女。私に名前を呼ばせたいならそれなりの成績を取りなさい?私の授業で好成績を収めたら、初めて名前で呼んであげるわ?わかったわね?勇者様?」
フィオレは挑発的に言われ、マールは真顔になる。
「こら、マール、攻撃姿勢にならない」
カイトはそんなマールの頬をつねって引っ張る。
「わかってるよ!」
つねったカイトの腕を叩き飛ばした(かなり痛かった)そして聞く姿勢を作る。
「ではマール、貴女のバブルショットを見せて?」
フィオレに言われ、マールは即座に右手からバブルショットを噴き上げた。
「はえー…もうそこまで習熟してるの?」
フィオレはそういいながらもマールから射出されたシャボン玉を指で突いて割る。
「でもダメね、こんなのじゃ全然使えない。へヴァンは何を教えているのかしら…」
フィオレはそうダメ出しをすると、足元から水の長い杖を呼び出して構える。
「【バブルショット】」
フィオレははっきりと呪文を口にし、杖からマールのものと同じような大きさのシャボン玉が、出現する。威圧感たっぷりに放った変わり映えのないバブルショットにマールは内心鼻で笑いそうになっていた。
「わかるよ、貴女、今わたしのバブルショットをバカにしているでしょ」
フィオレはにこやかにマールに笑いかけた。
「自惚れんなよ?クソガキ」
教師とは思えない暴言が弾けると、マールの側までやって来たバブルショットが弾ける。
ズドン!!泡が弾けた瞬間、凄まじい衝撃波が発生、空気に叩かれたマールとカイトが席から吹き飛ぶ。
「いった!」「うおっっ!!」
一生懸命メモを取っていたカイトはいきなり吹き飛ばされて床に倒れる、マールは身軽に受け身を取っていた。
「あはは、バブルショットにぶっ飛ばされた感想はどうよ?勇者ちゃん?アンタの貧弱なバブルショットが使えないと言った理由が少しはわかったかしら?」
「ふーん、成る程ね」
マールは立ち上がった。
「原理がわかりませんね、呪文を口にする事に意味がある感じですか?」
カイトは特に気にせず席に戻りノートを取りながら尋ねて来た。
「き、君は見かけによらず豪鬼だね…」
エヴァンからカイトは年齢的に魔術を扱えないと聞いていた、しかし、使えないにも関わらず、彼の意欲的な姿勢にフィオレは引き気味に呟いた。
「?」
フィオレの思考など、カイトは特に気にしてはいない。
「マール、早く席に戻って」
「あ、う、うん」
臨戦態勢になっていたマールだったが、カイトに注意され、素直に席へと戻る。
「…そ、そうよ、無詠唱の呪文にも威力を高める方法がある、それが言の葉よ、言葉に気持ちを込める事、コレが威力に加算されるの」
フィオレの言葉をカイトはノートに素早く書き殴っていた。
「成る程。マール、聞きいていましたか?」
「え?いや…なに?わかんない…」
少し試したいです。バブルショットのバを強調してみてください」
「へ?…う、うん【バブルショット】」
カイトに言われたとおり、バを強調してバブルショットを放つ、マールから放たれた泡は地面に落ち、床を穿つ程の威力で炸裂した。
「な…えっ?」
フィオレは驚愕に目を見開いている。
「マール、次は語尾のトを強調してみて?」
「え…うん…【バブルショット】!」
マールはカイトに言われた通り、トを強調した。するとふわふわ浮くはずのバブルショットが弾丸のような速度で発射され、フィオレの後ろで弾けた。
「マール、わかりました。魔術の名に力を込める場所によって威力と速度が変わるようですね、では次ですが…」
「ストー!!プ!カイト君、君のヤバさはよくわかった!だから先生の仕事を取らないでもらえるかな?」
フィオレはウィンクしてみせる。
「わ、わかりました…すみません」
カイトは自らが思ったよりも熱中していた事に気がつき、恥ずかしくなると口を閉ざした。
「へヴァン先生が君を弟子に欲しがってた理由がわかるわ、君、なんで精通してないのにここ来たのさ??」
「あ、あはは…わたしはマールの付き添いですので…」
精通していないは最早言われすぎて慣れたカイトは苦笑してやり過ごす、するとフィオレはそんなカイトを見て笑顔をむけて来た。
「魔術が使えるようになったらすぐおいで?わたしの一番弟子にしてあげるから、何なら筆下ろしもしてあげちゃうよ?」
「は!?…あ、そ、そのあっ…あはは」
その瞬間、隣のマールに脛を蹴飛ばされた。
「いった!!」
カイトは脛を押さえると、マールはカイトに気にせず席を立つ。
「せんせ、早く授業してください」
「ええ、そうね、コホンッじゃ!続けるよ」
そこから昼食の時間までフィオレの授業は続いた、当初はマールと馬が合わなかったフィオレではあったが、次第に彼女を認めた様子で外見や口調の若さからは考えられない熱心な授業スタイルを見せていた。マールの方も、もとより水の魔術に興味を示していた事はあり、フィオレの授業を熱心に聞き入れ、メキメキと彼女の扱う水の魔術を盗み取り、自分のモノにしていった。
「はい、とりあえず午前はここまで!ご飯に行っておいで!」
フィオレそう告げると、水になって姿を消し、フィオレがいなくなった事により、講義室の風景が何の変哲もない講義室へ変わる。
「お腹すいた!カイト!購買にも寄っていい!?」
「いいですよ」
「やったあ!!」
マールは年相応にはしゃぎながら前をあるく、ラ・ピュセルの昼食は中央の大食堂にて行われる。席につけば使い魔たちがその日の献立を持って来てくれる仕組みで、入れ替わりが非常に激しく、大勢の人で溢れかえっている。
「うげ…今日の昼食は野菜祭りか」
本日の昼食の献立はマールのお気に召さないものだったようだ明らかにテンションが落ちている。
「カイトォ…」
「ちゃんと食べたらあげます」
「う…約束だよ?」
マールはイヤイヤながらもフォークを幼児がやるようにグーで握りしめ、皿いっぱいの野菜の焼き物を突き刺しては口に詰め込み、スープで流し込んでいる。
「……美味しくない…」
口に入れば何でも一緒という彼女でも、嫌いな野菜は別口らしい…不快に顔を染めながらも一瞬で平らげた。
「食べたよ!ちょーだい、金貨!」
「はいどうぞ」
カイトは胸ポケットから二枚の金貨を取り出してマールに差し出すと、マールは素早く金貨を掠め取った。
「ありがとう、カイト!」
マールは満面の笑みで購買へ走って行った。
「やれやれ…ああいうところはまだまだ子供ですね」
カイトは苦笑しながらも、年相応にぴょんぴょん跳ねながら購買へ向かうマールの背中を目線で追いながら、自分の食事を片付けにかかる、すると、マールが座っていた席に別の人がやって来た。
「前、よいかのう?」
「はい、どうぞ、お構いなく」
カイトは特に見る事も気にする事もせず、前に座った人に目を向ける。青年だった、白い短髪の髪に病的に白い肌、講師なのか紅色の制服は身につけてはいない。
「うわ…まだこの食堂は昼食にこんな野菜焼きをだしとるんか…これ不味くて嫌いなんじゃがのう…」
確かに味は美味しいとは言えない、カイトもフォークを突き刺した野菜を口に運ぶ、何より味付けが薄いのだ、そのせいで嫌な青臭さが口いっぱいに広がり不快感を増す。マールじゃなくてもこんなものは食えたもんじゃない…カイトが処理に困っていると。
「お前が、この間のエルフ討滅作戦の戦略を描いた指揮者…カイトじゃな?」
唐突な青年の言葉に、カイトの手が止まる。
「そういう貴方は魔王軍の統括顧問ですね?ホモセクトを使われた事に対する報復ですか?」
「む?…ほっほっほっ、この状況でワシが魔王軍の人間であるとわかっていて尚、物怖じ一つせんとは…」
青年は老人のような口調で笑うが、フェイクだ。カイトは内心ビビりまくっていた。敢えて外に出さないように繕っているだけである。震えそうになる太腿を叩いて黙らせる。
「失礼、申し遅れたな。ワシは魔王軍ホモセクト統括顧問【魔手のオーレウス】」
魔手のオーレウスの名前は先日迄の初級魔術講師のへヴァンが散々教えてくれた、手にした枝を最高位の魔術触媒にしてしまう魔手を持った稀代の天才にして1000年前の勇者パーティ唯一の生き残り。去年、老衰で亡くなったとへヴァンは言っていたが…カイトはオーレウスの顔を見る。1000歳越えの老人にはとても見えない。
「魔手のオーレウス、成る程、だからこのラ・ピュセルに入れたのですね」
カイトは皿の焼き野菜をまともて口に放り込むと、特に咀嚼もせずにスープで流し込み、口元をナプキンで拭う。
「このラ・ピュセルは晩年、貴方が作り上げた学園でしたね」
オーレウスはこの魔術学園の創立者にして初代校長でもある、老衰で亡くなる数年前まで教卓で自ら指導していたと聞く。
「そんなつまらない話には興味はない、教えよ、ワシのホモセクトたちをどうやって操った?」
魔手のオーレウスは変わり者として幾つもの記録が残っている、彼は自身の興味を示したものにしか興味はなく、彼は場所も相手も立場も考えず興味を満たすためなら誰にでも尋ねたといわれている。晩年はその傾向は無くなったとされていたが、今の彼には関係ないらしい。
「攻撃フェロモンですよ、見たならわかるのではないですか?」
カイトの答えに、オーレウスは首を横に振る。
「いや、違うな…そうじゃない。攻撃フェロモンだけでは、ワシのホモセクト達は動かん…何をした?どうやってホモセクト達を動かした??」
「………」
カイトは鋭くオーレウスを睨みつけた。この男はカイトが綿密に練った計画の決め手のカラクリを一瞬で看破している、秀才なゼノリコやアジムですら気付く事はなかったカラクリである。
「死体です」
「死体?…」
オーレウスはカイトの答えに目を丸くした。
「はい、死体は最前線の気候と湿気なら、直ぐに腐敗を始めるはずです。初日の大敗により、エルフ達は自分達の事で手一杯になったはずです。死体を片付ける時間も手間も惜しい…そう思わせる狙いがありました」
オーレウスは目を驚愕に見開きながらカイトの言葉を聞き入っていた。
「三日で腐敗?…よく意味がわからんな。腐敗させる事に何の意味があるのか…」
オーレウスは本当に見当もついていないようだ。
「肉は腐りかけが一番美味いんですよ?」
カイトのその言葉で、オーレウスはハッと察し机を派手に叩く。激怒したのではない、その顔は歓喜に染まっていた。
「なるほど!ただでさえ好物の肉が程よく腐敗した臭いを出していたのじゃな!?嗅覚の鋭いホモセクトのソルジャー達は常に鼻先を食べ頃の好物の匂いに擽られていた状態だったのか!そこへ攻撃フェロモンとくれば、本能に忠実なホモセクト達は他の群れが抜け駆けをしたと錯覚する!」
オーレウスは実に満足そうだった、黒い瞳から黒い涙が溢れて頬を伝う。
「最高に愉快じゃ、女子みたいな面をしたガキかと思っていたが…飛んだ鬼の子じゃわい…貴様、ワシや魔王と同類じゃな?」
そしてオーレウスは実に満足げに立ち上がる。
「ワシは嬉しいぞ?敵に同類がおることが…カイト、認めよう。今よりお前はワシの好敵手じゃ…」
オーレウスはにこやかに歯を見せて笑い、そして懐から小瓶を取り出しカイトに差し出す。
「コレは?」
「選別じゃよ、好敵手に塩をくれてやる。それはホモセクトクイーンの求愛フェロモンじゃ、それを使えばいつ、どんな場所であろうとホモセクトキングを大量に呼び出すことが出来る。エルフ共と戦うんじゃろ?くれてやるワイ!」
「…そんなものを私に譲ってよいのですか?」
カイトは小瓶を懐にしまいこみながらオーレウスを見上げた。
「構わんよ、ワシは……」
「カイトー!!みてみて!いっぱい買えた!!」
そこへ大量の干し肉が入った紙袋を抱えてマールが帰ってきた。
「ん?じいちゃんだれ?学生??」
マールは青年のような外見をしたオーレウスを爺ちゃんと呼んだ。
「そ…んな…?」
オーレウスは声を震せ、今にも泣き出しそうな声音で絞り出すように声を漏らすと、マールに目線を合わせるように膝を折った。
「?」
マールは特に警戒心を抱いてはいない様子だった、いかにも怪しい青年に歩み寄られても、特に警戒心を見せてはいない、それどころかマールはオーレウスを心配するような素振りを見せている、オーレウスはそんなマールの肩を掴んで顔を寄せると、頬に優しく触れる。
「な…なに?」
マールは怪訝な顔はするが、特に嫌悪感を抱いているようにま見えない。
「顔をもっとよくみせておくれ…」
オーレウスはじいっとマールの顔を見つめ、しばらくすると、ゆっくりその頬から手を離して立ち上がると踵を返して歩いて行った。
「あのじいちゃんだれ?すごい優しそうな人、なんか爺様みたいな雰囲気…でもなんか、とても悲しそうな目をしてた…」
「…魔王軍だよ、魔手のオーレウスだってさ」
「…へー……魔王軍、え!?!?」
マールは絶句していた。その食堂の出来事を午後の授業とともにフィオレにも伝えた。
「まさかうちの初代校長が…魔王軍の幹部になっているだなんて…」
フィオレは眉間を押さえて目眩によろけて見せた。
「しかもホモセクトの統括顧問?…夢であってほしいわね…」
「夢ではないですね、これを押しつけられました」
カイトはオーレウスから押しつけられるように渡された小瓶をフィオレに差し出した。
「あ!この小瓶懐かしい、私、卒業の時にもらったんだよ!」
フィオレはドレスの首元に手を入れ、ペンダントにされた同じ小瓶を見せて来た。彼女には思い入れのある小瓶のようだった、直ぐにペンダントを服の中にしまい込んだ。
「んで?中身は?」
「ホモセクトクイーンの求愛フェロモンらしいです」
ぶ!!!フィオレは吹き出し、危うく床に落としそうになりながら両腕で抱えた
「特級兵器じゃない!?バカなの!?割れたらみんな仲良く即死だよ!?」
フィオレは焦ったように頑丈な箱を魔力でつくりだすと、緩衝材を目一杯詰め込んで小瓶を中にいれ蓋をしてからカイトに渡して来た。
「もうそれあけないでね?マジやばいんだからそれっ!」
しかしカイトは箱をさっと開けて小瓶を取り出した。
「フィオレ先生の技術なら、これを複製する事は出来ませんか?」
その言葉にフィオレは一瞬倒れそうになり、何とか堪えた。
「マール!あんたの彼氏やべーこといってるんだけど!!?」
「かれし?よく分からないけど、カイトがやべーのはいつものことだよー」
マールは特に気にする様子は無く、覚えたてのさまざまな水魔術を試している。
「マール、なにかしっくりくる魔術はあった?」
カイトは問いかけると、マールはにやりと笑う。
「うん、やっぱり水は僕好みの魔術が多いよ!フィオレ先生!見てもらっていい?」
「あー、はいはい、見てるから。すきにやんなー」
フィオレは完全にだらけた様子でマールの側へ行き、魔術帯を広げる…マールも同じように魔術帯を展開した。偶然だろうか?以前見た時よりもマールの青の魔術帯が大きく太くなっているようにみえる。
「フィオレ先生、魔術帯って成長することってあるんですか?」
「あるよ?でもそんな直ぐ大きくはならないかな?魔術師によって成長はまばらだけど、大体は一生かけて魔術を学んで成長させるものよね。私だってこの帯になるのに10年かかったのよ?」
マールの水の魔術帯は、たった数時間で明らかに大きく、太くなっている。
「こんな才能みせられたら、そりゃあ嫉妬したり挫折したりしちゃうよねえ…私だって妬けちゃうよ」
フィオレは目の前で自らの数十年の成果を一瞬で追いつかれ、少し不貞腐れた様子を見せている。
「そうですかね?」
カイトはそんなフィオレの隣でノートを取りながら呟く。
「勇者の神託はあらゆる技能を一瞬でマスターする事は出来ますが、貴女の様な先駆者が開拓した結果生まれるものを模倣しているに過ぎません。完璧に使いこなせても、その先には手を伸ばせないんです。そう考えると、世界は勇者以上に、貴女達の様な一つの道を探求して進み続ける人が必要なのですよ」
ふと、カイトは隣のフィオレを見ると、フィオレはカイトの額を叩き飛ばした。
「いったい!?」
「大人を揶揄うんじゃないよ、ガキの癖に」
そうしてフィオレは立つと、マールの側へ向かいマールの構えなどを直した。
「マール、あの子っていつもああなの??」
「ん?カイトの事?カイトならいつもおかしいからもう慣れちゃった」
「大変ね…」
フィオレは同情し、何故かわかり合っていた。
場所は変わり、そこは寂れ、荒廃した海辺の宿屋だった。数十年も前に放棄されたその宿屋の一室に魔王はいた。
「すう…すう…」
事を終え、ベッドで丸くなり眠るアリエッタの頭を猫の様に撫で、窓際に腰掛けた魔王は窓際に置いてあった酒瓶を手にするとそのまま一口煽り、口に含めると実に不味そうに飲み込んだ。
「火がご入用かな??」
唐突、魔王のいた窓際が炎が襲い、彼等の滞在していた寝室が巨大な爆炎に包まれ一瞬で灰になる。
「あっちいいい!!あ!?なんだ!?なん!?」
アリエッタが飛び起き、コミカルに燃えた頭を走り回って消化している。そんなアリエッタを横目に、魔王と呼ばれた男は目の前の青年と向き合っていた。白い短髪に病的な白い肌黒い眼球に金色の瞳。魔手のオーレウスが木の枝を手に、魔王の前にいた。
「オーレウス、これは何の真似だ?」
「じじい!てめえ!!なにすんだよ!!殺すぞっ!」
「アリエッタ、これは男の戦いだ。下がっていろ」
魔王はそう言ってアリエッタにシーツを投げた。そこでアリエッタは自身が裸であったことに気付くと、魔王から渡された白のシーツを身体に巻きながら後退する。
「何の真似だはこちらのセリフじゃ…魔王、ワシを騙したな??」
オーレウスは顔を激昂に染め上げ、今にも一触即発しそうな状態だった。
「おちつけ、何の話だ?」
魔王は毅然とした態度は崩さない、そんな魔王にオーレウスは木の枝先を突きつける。
「勇者を見てきた…といえばわかるのではないかえ?」
勇者、その言葉が出るなり魔王と呼ばれる男から何ともいえない圧が溢れ出る。
「……だからどうした?」
瞬間、魔王の顔面に無数の火炎球が飛ぶ、しかし間に割って入ったアリエッタがその悉くを叩き落とし掻き消した。
「じじい、いい加減にしろよ?」
「いい加減にするのはお前だアリエッタ、男の会話に入るな」
「け、けどよ!」
「二度は言わない、下がれ」
魔王はアリエッタの肩を掴むと強引に後ろへ下げると、オーレウスへと歩み寄る。
「オーレウス、わたしは何も変わってはいない、わたしの戦略に狂いはないのさ」
魔王とオーレウスは静かに睨み合う、すると、オーレウスは唐突に肩から力を抜いた。
「………わかったよ、今はお前さんに従おう」
オーレウスはそれだけ吐き捨てるように言うと、ゆっくりと踵を返し、歩いて行った。
「……」
黙って行こうとするアリエッタの肩を掴み、止める。
「アリエッタ、お前のせいでこんなになってしまった俺の相手をせずに何処へ行くんだ?」
「は!?…いや、さっきまで散々…その…うわっ…まじ?」
アリエッタは力強くいきりたつそれから視線をそらしてから、ため息を吐き出した。
「ほんと、しょーがねえな…うちの魔王様はよ」
魔王はアリエッタを連れて宿屋へと消えた。
お疲れ様でした、新たな敵 魔手のオーレウスの登場回となります。




