第24話 楽しいピクニック?
仮眠して目が覚めたのは昼近くだった。
体を起こすと、お腹が景気良く音を鳴らした。
どうやら空腹で目が覚めたみたいだ。
魔法袋からエビルエルクの串焼きを取り出して頬張る。
あっという間に串焼きを2本胃に納めた。
「寝起きだからか喉が渇いたな……」
キッチンの蛇口をひねる。
勢い良く流れ出る水に直接口を付けて飲む。
ゴクゴクと喉を流れ落ちる冷たい水が潤してくれた。
「プハっ! あー、生き返る!」
そして顔も洗っていない事に気付き、そのまま顔も洗う。
タオルを手に取ると乱暴に顔を拭う。
ここでやっと完全に目が覚めた。
「そっか、ワイルドボアを狩りに行こうと思ってたんだ」
ワイルドボア。
通称猪。
繁殖力が高いが戦闘力は高くなく、肉が美味しいので人気の魔獣だ。
「出かける準備をしなきゃな」
と言っても枕元に置いた魔法袋を提げて、ベッド周りに脱ぎ捨てていたマントを羽織るだけなんだけどね。
「待てー!」
「止まらないと今晩のおかずにするぞー!」
地下の通路を通って納屋から表に出ると、ダレンとディーンが鶏を追い掛けていた。
どうやら鶏が1羽逃げ出したようだ。
元気な子供でも捕獲は中々難しそうだ。
風の魔術で手伝ってやる事にした。
鶏の足元から風が吹き上がり、鶏を空中に浮かべている。
鶏はパタパタと羽ばたこうとするが抜け出せない。
そこをダレンが捕まえた。
「兄ちゃんありがとー」
「もう逃がすなよ」
鶏を戻しに鶏小屋に向かうダレンに声をかける。
鍵をしっかり閉めて戻ってきた。
「兄ちゃんはどこへ出かけるのか?」
「あぁ、ちょっと狩りに行ってくる」
「「良いなー、俺も行きたーい」」
双子ならではの同時おねだり攻撃。
俺の腕を左右から引っ張るタイミングも一緒だ。
「んー、ワイルドボアを狩りに行くんだ。危ないからダメ」
「「ちぇー」」
そんな会話をしていると、馬車がこちらにやって来た。
ここへ馬車で来る人は十中八九ローレンスさん家の誰かだろうね。
魔法樹の前まで来ると馬車は止まり、中から予想通りの人達が姿を見せた。
「こんにちは、アレフ様、ダレン君、ディーン君」
「遊びに来ましたわ、アレフお兄様」
「すまん、アレフ。遊びに行きたがるエリス様を止められなかった……昨夜の疲れがあるだろうに悪いな」
「いや、それは良いんだけど、これから狩りに行こうとしていたんだ」
タイミングが悪いな。
いや、入れ違いにならなかったからタイミングは良いのか?
「狩り! 一体何を狩るのですか? ドラゴンですか!?」
エリスちゃんの心の琴線に触れてしまったようだ。
体が弱くて運動が出来ない分、冒険譚とかが好きなんだね。
「そんなドラゴンなんて狩らないよ。ワイルドボアを狩る予定なんだ」
「私達も付いていったらダメですか?」
「うーん、それは……」
遠くに行く訳じゃないけど連れ歩く訳には行かないよね。
体調面にも不安が残るし。
「アレフ様、私からもお願いしますわ。馬車で移動して、狩りも馬車の中から見ていますから。ね、エリス」
「はい。折角の機会なので是非見学したいです」
アリサはOKか。
護衛役のセリカはどういう判断だろう?
「そうだな……猪なら問題無いだろう。悪いが私達も同行させてくれ」
セリカもOKか。
じゃあ構わないか。
「分かったよ。でも本当に気を付けてね」
「はい。馬車から降りません」
頷くエリスちゃん。
すると背後から声が掛かる。
「あら、だったら皆で行ったらどうかしら? うちの子達も行きたいし」
クラリスさんが後ろに立っていた。
モニカさんやセシリアちゃんにカレンちゃんも居る。
「子供達なら皆で馬車に乗れるでしょ? 天気も良いしピクニック気分で行ってきたら良いと思うわ」
「……私も行きたい」
「「行きたーい!」」
クラリスさんの言葉にカレンちゃんとダレン達がすぐに反応する。
「良いんですか?」
「良いわよ。アリサちゃん達さえ良かったら、だけどね」
「私は構いませんよ」
「私も大丈夫だよ」
アリサの返事にエリスちゃんも同意する。
「じゃあ決まりね。モニカとセシリアも行ってらっしゃい」
「分かりました」
「まぁ誰かが見張らないといけないしね」
結構大人数になってしまったな。
まぁワイルドボアはそれ程危険な魔獣じゃないそうだし、クラリスさんの言うようにピクニック気分で行くか。
◇ ◇ ◇ ◇
そして馬車はファノス郊外の小さな丘にやって来た。
近くには農家がぽつぽつと点在している。
「ワイルドボアはこの辺でも出るの?」
隣で手綱を握るセリカに聞いてみる。
この場所はセリカがワイルドボアの住んでいて比較的安全な場所を知っているというので案内してもらったんだ。
ちなみに俺とモニカさんは御者台に座っている。
女性や子供ばかりとはいえ流石に8人は多いからね。
「猪は畑の作物目当てに人里近くに出没するからな。ここは猪が住み着いて困っていると近くの農家から陳情が出ている場所だ」
やがて馬車はひらけた場所に止まる。
「もう降りていいぞ。危険な魔獣は出ないとはいえ馬車から離れないでくれ。特に君達は注意すること」
ダレン達に釘を刺すセリカ。
最年長のセリカが引率してくれるから助かるな。
ダレン達はセシリアちゃんも目を光らせてくれるだろうし、モニカさんも手伝ってくれるから頑張れセリカ。
「じゃあ俺は猪を狩ってくるから。そんなに遠くへは行かないよ」
セリカが居るとはいってもすぐに駆け付けられる距離にいよう。
「そうしてくれると助かる」
「お兄様! 頑張ってください」
「私達はセリカのお手伝いをしていますわ」
アリサはセリカと敷物を広げようと悪戦苦闘している。
モニカさんが手伝ってようやく座る場所が出来た。
どうやらそこでお喋りするみたいだ。
皆の様子を見るのはおいておいて狩りをするか。
探知の魔術で辺りを探ると……いた!
大きな茂みの陰に魔獣が居た。
姿が見えないので風で持ち上げてみると1匹の猪だった。
風の刃で頸動脈と足首を斬ると、心臓が止まる前に水の魔術で血抜きする。
「ゲンさんの言った通りだな」
エビルエルクと違って簡単に倒せるし、血抜きもすぐに終わるから楽で良いな。
魔法袋に入れておけば腐らないから狩れるだけ狩っておこう。
次の犠牲者を求めて俺は歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇
小一時間程狩ったところで馬車の所に戻る。
「ほら、もっと力を込めて! 何も居ないんじゃない! 敵がそこに居ると思って振るんだ!」
「「はいっ!」」
何故かセリカとダレン達は剣の素振りをしている。
ダレン達は木の枝を削って作った即席の木剣だけど。
「セリカ達はどうしたの?」
「あ、アレフさん。早かったですね」
「お姉様とお話していたのですが、ダレン君達には退屈だったみたいで。それでセリカが簡単な剣の修行をつけてるんです」
なるほど。
確かに姉と同年代の女の子に囲まれていたら退屈だよな。
「アレフ様、ワイルドボアは狩れましたか?」
「……猪、大猟?」
「あぁ、12匹捕まえたよ」
猪は動きがそんなに早くないから簡単だった。
「たくさんですね! 流石お兄様です」
「今晩はお肉が食べられますね」
「姉さん、猪は屋台で売る材料じゃなかったの?」
「あっ!」
妹からの指摘で顔を赤くするモニカさん。
「たくさんあるから晩ご飯のおかずの分ぐらい大丈夫だよ」
「すいませんアレフさん。もぅ、姉さんたら」
「ごめんね」
セシリアちゃんはしっかりしてるよな。
「あ、兄ちゃんだ! 狩りは終わったー?」
「セリカ師匠! また今度お願いします!」
「機会があったらな。アレフはもう狩りは終わったのか?」
「終わったよ。セリカも大変だったね」
辺りに気を配りながらダレン達の修行を見てたんだ。
「集中しつつ全体を見る良い修行になったよ。それに年若い少女達の話にはついていけなくてな。あの子達が飽きてくれて助かった」
「年若いってセリカも大して変わらないじゃない」
「私には恋の話より剣を振っていた方が似合いさ。それより後片付けをしようか」
帰りの準備は全員でやったからすぐ終わらせる事が出来た。
さぁ家に帰って猪の処理だ!




