第23話 後片付けは人任せ
セリカと倉庫へ攻め込んだ翌日。
俺は朝一番にローレンスさんに会いに来ていた。
「おはよう。刺客を返り討ちしたその日の夜に隠れ家に殴り込むとか、怒涛の急展開過ぎるよ。おかげでこっちは後片付けで徹夜さ……ふわぁぁ」
眠たさにあくびを噛み殺すローレンスさん。
「あはは……ごめんなさい」
「まぁ良いさ。貴重な睡眠時間を犠牲にしただけの甲斐があったよ」
「というと?」
「まずはギムガス商会の非合法の拠点を潰せた。それも危険な施設をだ」
ローレンスさんは人差し指を立てた。
「危険?」
「ケルベロスなんて危険な魔獣を隠していたじゃないか。それと外部の協力者がいる事が分かった。謎の覆面だ」
「正体が分かったんですか?」
訓練を積んだ連中なのは分かってたけど何者なんだろう。
「覆面を剥がしたらすぐにね。ミーシア教本部の神殿騎士団さ。先月から視察に訪れていたんだ。備蓄倉庫を隠れみのにしていた事といい、やはりギムガス商会とミーシア教の一部は繋がっていたようだね」
そう言ってローレンスさんは肩を竦めてみせてくる。
「他にも密輸に人身売買……他国に奴隷として輸出をしていた。生き残った残党や囚われていた女性達の証言があるから言い逃れは出来ないだろう」
「ギムガス商会も終わりですか?」
「まだそこまでは行かないと思うけど、大分力を削ぐ事が出来たよ。少なくとも当分は裏でコソコソやるのは無理だろうね」
「分かりました。じゃあ俺はこれで」
ローレンスさんの仕事の邪魔にならないよう早目に屋敷を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、どうしようかな?
ローレンスさんの屋敷を出てきたが、何をしようか全く考えていなかった。
今から猪でも狩りに行こうか……いや、まずはゲンさんにお礼を言くのが先だな。
見てもらいたい物もあるしね。
朝までやってる酒場街に来ると、丁度店の外に出てきたゲンさんに出会えた。
「ゲンさん、おはよう。昨日はモニカさんをありがとうね」
「ワシは別に大したことはしとらんよ」
「それと見てもらいたい物があるんだけど、ちょっと時間はある?」
ゲンさんは魔道具ギルドの一員だ。
魔道具の鑑定はお手の物なはず。
「時間なら大丈夫じゃが、一体何を見れば良いのじゃ?」
魔法袋から鞭を取り出す。
昨夜ギムガス商会の男がケルベロスに使っていた魔道具だ。
「これだよ。魔獣の調教系の効果があるみたいなんだけど」
俺はゲンさんの手に鞭を渡す。
「ふむ。『真実の愛』じゃな。坊主がこれを使うのか?」
「『真実の愛』? いや俺は使わないよ。昨日ケルベロスに使った奴が居たけど逆襲に遭って殺されたんだ。どんな効果があるのか気になってね」
「『真実の愛』はな、昔とある国の伯爵の依頼で作られた魔道具じゃよ」
「どんな効果なの?」
「叩く事で相手を支配出来るんじゃ」
「調教系ってこと?」
「ところがコイツは叩く度に強力なヘイトが溜まっていくんじゃよ。そしてヘイトが溜まると支配が解ける仕組みじゃ」
意味というか使うメリットが分からないな。
「それは不具合か何かでそうなってるの?」
「いいや。伯爵の希望で付けられたそうじゃよ」
「何の為にそんな意味の無さそうな仕組みを付けたんだろう」
「Mだった伯爵がSの愛人に使ったそうじゃよ。リバして愛を確かめたいと言ったらしいのう。名前も伯爵の命名じゃ」
「その後その伯爵はどうなったの?」
「愛人に殺されたんじゃよ。まぁ伯爵は本望だったかもしれんがのう」
ダメじゃん!
なんでこんな代物を使ったんだろう。
「じゃあ、これを魔獣に使うというのは」
「騙されて使わされたか、単なる自殺希望者かのどっちかじゃな」
ギムガス商会は末端を口封じも兼ねて使い捨てる予定だったのだろうか?
それとも商会も知らなかったとか?
「まぁ何れにせよ危険な魔道具じゃ。洗脳に使えない事もないからのう。魔道具ギルドでは発見次第回収するようにしておるんじゃがいいかの?」
「いいよ。最初から使うつもりは無かったし」
ゲンさんは魔法袋に真実の愛を仕舞った。
しかし真実の愛ねぇ。
伯爵は高まったヘイトを乗り越えたかったのかな?
「あとこのマントなんだけどこれもお願い出来るかな? 昨夜勝手に動いたんだ」
まぁお師様の作った物だから何が仕込んであっても驚かないけど。
「これは……すまんのう。ここでは無理じゃ。設備のあるところで調べないと無理じゃよ。ただ作ったのは錬金術の天才じゃな」
ほぅとゲンさんはため息を付いた。
お師様は錬金術の天才なのか……だらけた姿からは想像出来ないな。
「話は変わるが今日はコロッケ屋台はやるのかのう」
「いや今日は休んで狩りに行くつもりだよ。ゲンさんの言うとおりワイルドボアを使ってみようと思ったからね」
「そうかの。じゃあ明日を期待して待ってるのじゃ。今日はファノスマスでも食べに行くとするかのう」
そう言ってゲンさんが歩き出すけどまさか今から食べに行くの!?
「えっ! 今から?」
「食べに行くのには流石に早すぎじゃ。宿に戻って寝るんじゃよ。坊主も頭が回ってないようじゃからもう一眠りした方が良さそうじゃのう」
うーん、自分ではそんなつもりは無いんだけどなぁ。
とりあえず家に帰って仮眠を取ろう。
商店街のお店が開店していく中、俺は家に戻っていくのだった。




