第21話 路地裏の大掃除
空が黄昏れていく中、俺はお世辞にも綺麗とは言えない路地裏を走っていた。
ゲンさんが教えてくれたエリアに足を踏み入れると、遠くに殺気立った男達が歩いているのが見えた。
立ち止まって様子を窺うと、男達は2つに分ける事が出来た。
無造作に歩く荒くれ者の集団と、統制が取れた歩き方の覆面の集団だ。
数は大体同じ位で前者が前列、後者が後列に別れている。
集団の先頭には3日前モニカさんに難癖付けていたオッサンが居た。
隊長だろうか?
いやそんな立場が上って感じでは無かったな。
俺の顔を知っているから案内役ってところか。
まぁ、良いや。
残らず叩き潰して隠れ家の場所を吐かせよう。
俺は道を塞ぐようにして男達の前に立ち塞がる。
「あっ! おい、コイツだ! 間違えねぇ!」
オッサンの言葉に応えるように、男達はそれぞれに武器を構える。
「おいおい、こんなガキに良いようにやられたってのかよ? これだからトーシロ相手の回収部隊は。邪魔だからすっ込んでてくれよな」
言われるまま後ろに下がるオッサン。
集団の前には荒くれ者達が出てきた。
覆面は動かない……様子見なのかも。
「別にてめぇに恨みは無いんだがよぉ。てめぇみたいのが好き放題やると困る人がいるんだよ」
そう言うとこちらに見せ付けるようにカトラスや棍棒、モーニングスターといった武器を構えた。
ガラの悪い男達が手にしていると武器の凶悪さが一段と際立つな。
「謝るなら今の内だぜ? 有り金全部と娘を差し出したら半殺しで勘弁してやらぁ」
「どうせもうヤッたんだろ? ならもう良いじゃねぇか。命は大事にするんだな」
「あー。そんなに自慢しなくても、頭の悪さはもう十分分かったから。さっさと掛かってきなよ」
この手の奴らの言う事って本当に頭が悪いな。
どこかで聞いたようなセリフばかりだ。
俺は短剣を取り出した。
込める魔力はギリギリで良いな。
「舐めんなよ、ガキが!」
一際体格の大きな男がカトラスで斬り掛かってきた。
力任せの一撃を短剣で受け止めたところに、トゲの付いた鉄球が迫ってきた。
モーニングスターか!
カトラスの大男が笑みを浮かべる。
このまま鍔迫り合いに持ち込んだところに、他の男達がモーニングスターと棍棒で殴り殺すという作戦だな。
「甘いっ!」
短剣に魔力を込めるとカトラスがスーッと切れていく。
刃を返して今度はモーニングスターの鉄球を切り落とす。
「なっ!?」
「バカな」
そのまま残りのモーニングスターや棍棒も切ってしまう。
そして武器を失った男達の意識を奪おうと思った矢先だ。
「「「「水よ、集いて我が敵を切り裂き給え」」」」
覆面達が水の魔術を放ってきた!?
荒くれ者を巻き込む形で高圧で撃ち出された水流が襲い掛かってくる。
しまった!
完全に油断してた!
俺の周りに居た荒くれ者達は手や首を飛ばされ、鮮血を噴き出しながらながら崩れ落ちていく。
俺は短剣で何条は水流を切り払う事が出来たが、微妙に時間差で放たれたものまでは手が回らない!
「ちっ!」
風の魔術で空気を圧縮して盾を作ろうとする。
しかし間に合うか際どいタイミングだ。
体をひねり、せめて急所は外れるよう祈りながら激痛に備える。
その時マントが勝手に動き、水流と俺の間に入ってきた。
「えっ?」
覚悟していた激痛は無かった.
水流は武装した男達をバラバラにしてしまう威力だった。
それをマントがあっさりと弾いてくれた?
……まぁそれは後回しだ。
覆面達を倒さないと。
覆面達は俺が無傷な事に驚きもせず長剣を抜き放っている。
もう油断は出来ない。
仲間?を犠牲にしても構わない連中だ。
近くの民家を巻き添えにしてしまう訳にはいかない。
覆面達が無言で、視線も合わさずに向かってくる。
立ち位置も入れ代わりながら間合いを詰めてくるので、誰から斬り掛かってくるのか読めない。
余程訓練を積んできた変幻自在の連携攻撃だ。
「でもそこまでだ」
「…ッ!」
足元の石畳。
俺はそれを変化させた。
硬い石を魔改造で柔らかくし、まるで泥沼のように変化させて覆面の足を止める。
更に泥沼から飛び出した石の棘が覆面の脚を貫き、地面に縫い留めてしまう。
泥のようだった石が覆面達の足に絡みついたまま元の硬さに戻った。
これで動けなくなったな。
「「「「水よ、集いて我が敵を切り裂き給え」」」
動きを封じられた覆面達は再び魔術を唱えてきた。
きっとこの魔術が覆面達の奥の手なんだろうな。
でも不意を突かれなければどうってことは無いね。
「!?」
風の魔術で竜巻を作り出す。
竜巻は俺の前に現れると水流を吸い上げていく。
高圧の水流があっさりと竜巻に飲み込まれるのは、魔術に込められた魔力量の差だ。
「さてこれで勝負は付いたな。お前達の隠れ家の場所を教えてもらおうか」
隠れ家の場所を問い詰めようとした時だった。
覆面達は自分の胸に長剣を突き刺した!?
「ちょっ!」
慌てて回復魔術を掛けたけど効果は無かった。
既に心臓が止まっていたからだ。
どうやら剣を自分の胸に突き立てると共に毒も飲み込んでいたようだった。
見て回ったけど覆面は全滅か。
自決してまでするとはドンナ秘密があるんだろうか?
「念の為調べてみるか。バラバラだから生きてる人が居るとは思えないけど」
荒くれ者達の中に生きている者が居ないか、あまり期待は出来ないが探知の魔術を発動する。
すると意外にも反応があった。
どうやら道端のゴミ箱の中に人が隠れているみたいだ。
「ひっ!」
ゴミ箱の中には先頭に居たオッサンがいた。
「い、命だけは助けてくれ!」
涙と鼻水でグチャグチャになりながら命乞いしてくる。
別に俺が殺した訳じゃないんだけどね。
「オッサンの知ってる事を話してくれると良いんだけど」
「あ、あぁ。オレの知っている事は全部話す! だから!」
余程恐ろしいのだろう。
肉片の転がる血の海と化した裏路地から目が離せなくなっているみたいだ。
確かに精神衛生上非常によろしくない光景だよな。
「ちょっと綺麗にしようか」
水の魔術で綺麗に洗い流しておこう。
死体は……魔法袋には入れたくないから隅っこにまとめておこう。
後でローレンスさんに回収してもらえばいいか。
「あ、アンタ魔法使いなのか?」
裏路地を綺麗にしたせいかオッサンは少し落ち着いたみたいだった。
「違う違う。魔術師だよ。破門されてるけどね。それよりあの覆面達は何者か知らない?」
「あいつらはある日会頭が連れてきたんだ。たまにしか来ないんだが、いつも覆面を被ってて気味が悪い連中だ」
仲間内でも正体を隠していたのか。
「素性は? 名前とかも分からない?」
「会頭から詮索は禁止されているからな。一度酔った勢いで覆面を外そうとした奴が居たんだがその場で斬り殺されたよ。それからは誰も近付かねぇ。タブーって奴だ」
ギムガス商会の実行部隊とは別の指示系統みたいだな。
会頭直属の特殊部隊ってところか。
「覆面と荒くれ者はこれで全員なの?」
「覆面はこれで全員だ。荒事部門の連中は他にもいるな。全部で150人ってところか」
荒事部門?
実行部隊ってことか?
「荒事部門って事は他にも部門があるのか?」
「オレは本来は回収部門、つまり取り立て屋だ。他にも密輸部門とか工作部門がある」
密輸もしているのか。
ローレンスさんが苦労する訳だ。
「最後の質問だ。お前達の隠れ家の場所は何処にある?」
「それは―――」
これで欲しかった情報は手に入れた。
このまま殴り込んでも良いんだけど、このオッサンの身柄とか覆面達の遺体とか放っておくのは問題があるよな。
ゲンさんが一緒とはいえ、モニカさんを置いていく訳にもいかないし。
どうしたものかな……
俺は血生臭い路地裏で考え込むのだった。




