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第20話 作戦変更

 太陽が傾き始めた夕暮れ前、俺とモニカさんはまた座り込んでいた。


「あ〜、疲れた〜!」

「本当疲れましたね」


 練り揚げ改めコロッケは大盛況で、用意した200個は完売だ。

 これも美味しそうに食べたり、ソースを分けてくれたゲンさんのおかげかな。


「こんなに売れたのは初めてです」


 モニカさんは疲れつつもニコニコしている。

 今までは閑古鳥が鳴いてたからなぁ。


「もう店仕舞いかのう?」


 屋台の横からゲンさんが顔を出してきた。


「あ、ゲンさん。全部売れましたんです」

「そうか。それは良かったのう。しかし魔法袋があるんじゃ。もっと大量に仕込んでおけば良かったんじゃないかの」

「今日初めて屋台を出したんですよ」


 どれくらい売れるか分からなかったからね。

 200個なら売れ残っても何度かモニカさん家の食卓に上がれば無くなるだろうし。


「そうじゃったのか。なら次からはあらかじめコロッケを揚げておくんじゃ。手早く出るのが屋台の強みじゃからのう」


 確かに今日は揚げる作業に手間と時間を取られてしまっていたね。


「坊主の魔法袋ならいつまでも熱いままじゃろ。他の屋台は魔晶石で保温や保冷してすぐ出せるようにしておるぞ」


 魔晶石か。

 魔獣から出る霊核を加工したアイテムで、魔力を貯めて特定の魔術を発動するんだっけか。

 大きさによって貯められる魔力量と値段が変わってくるけど、屋台での保温や保冷程度なら安物の小さな魔晶石でも間に合うな。


「坊主は魔術で出来る事は多いのじゃろうが、出来るからといって余計な手間と時間を掛けるのは間違いじゃよ」


 うーん、耳が痛い。

 確かにお客さんを待たせてしまったからな。


「とはいえコロッケを揚げる香りと音は良い客寄せになるからのう。たまにコロッケを揚げてやれば良いんじゃよ」

「次からはそうします」


 商売って難しい。

 単に美味しいだけじゃダメなんだね。


「そう言えばゲンさんにソースとコロッケを教えた友人ってどんな人だったんですか?」


 あんな美味しいソースを考えるなんて料理の天才辺りだろうか?


「一言で言えばとびきりの変人じゃな。皆が知っている事は知らなくて、皆が知らない事を知っておった。あやつの話は奇抜で面白くてのう。聞いた話から再現に挑んだんじゃが、成功した物は便利な物ばかりじゃったよ」

「凄い人だったんですね」

「飲むとよく「元の世界に帰りたい」と嘆いておったから、案外本当に異世界の人かもしれんのう」


 異世界か。

 本当にあるのかな。


「でもゲン様、本当に今日はありがとうございました」

「嬢ちゃん、様付けばかりやめてくれんかのう。ワシは単なる酒好きな職人じゃよ。礼なら美味いものか美味い酒で十分じゃ」


 頭を下げるモニカさんに手を振るゲンさん。


「あぁ、そうじゃ。コロッケにはエビルエルクよりもワイルドボアを使った方がコロッケには向いておるぞ。数も多くて捕まえやすいしのう。第一エビルエルクは超高級品じゃ。それを使って銅貨1枚はコスト的にありえないのじゃ」


 ワイルドボアは猪と呼ばれてる魔獣だ。

 特殊能力は特に無く、罠にかけても捕まえる事が出来るから食用に重宝されている。

 しかも繁殖力が高いから数は沢山居るしね。

 しかしエビルエルクが超高級品と言われても、俺にとっては倒したでっかい鹿の肉だから実感が無いんだけどね。

 でもまぁもっとコロッケに合うのならワイルドボアを捕まえに行ってみるかな。


「この辺りにもワイルドボアは出ますか?」

「森や草原に行けばいくらでもおるのう。あれは数だけは多い魔獣じゃからな」


 なら明日にでも探しに行ってみようかな。


「ところで気付いておるのかの? 物騒な連中が坊主らを狙っているようじゃぞ」

「えぇっ!?」


 モニカさんが怯えるから黙っていたのに。

 そういう事はモニカさんには言わないで欲しいな。


「何人位居ます?」

「武装しているのが15人位じゃな。一体何をやらかしたんじゃ?」

「んー、実は……」


 ゲンさんに事情を話すと呆れられた。


「待ち受けるとか後ろ向きじゃのう。漢ならこちらから攻め込んでやるんじゃよ」

「攻め込もうにも何処が根城か知らなくてね」


 まさかギムガス商会の店舗が本拠では無いだろう。


「そんなものは1人残して殲滅して、生き残りに案内させればいいじゃろ」

「一応半死半生辺りで済まさなきゃ後々面倒ですよ」


 流石に大量殺人はマズいだろうな。


「ふむ。細かい事を気にする坊主じゃのう。ワシが作った気絶させて動きをとめる警棒でも使うか? たまに良く心臓も止まってしまうがの」


 さらりとおっかない事を言ってくるなぁ。

 それでも良い気がしてきたけど魔力(マナ)をギリギリに抑えた短剣で良いか。


「使い慣れたこっちを使うよ。連中はどの辺りに居るの?」

「ここから東に3ブロック程離れた裏路地じゃ」

「……前から思ってたけどゲンさんって結構魔術使えるよね? 性能の良い魔法袋も持ってるし」


 俺が初めて会った時も遠くの様子が判ってるみたいだった。

 悪い人では無いと思うけど少し気にかかる。


「ワシは魔道具ギルドに入っておるからのう。空間魔術はお手の物じゃよ」


 魔道具ギルドって冒険者ギルドの水晶玉を作ったというギルドだよな。

 ゲンさんはそのギルドメンバーなのか。


「魔道具ギルドの人ってみんな魔法使いなんですか?」

「嬢ちゃんは魔術を使えない者が魔術の力を持った魔道具を作れると思うかの?」

「それは……難しそうですね」

「そういう訳じゃよ。それに魔道具ギルドは徒弟制度じゃからな。大抵は師匠の工房に住み込んで修行するのであまり表には出てこないのじゃ」


 だから魔道具ギルドに支部は無いらしい。


「ゲンさんは普通に出歩いているじゃないか」

「ワシは変わり者じゃからな。弟子が寄り付かんのじゃよ。じゃからこうやって弟子探しの旅をして、ついでに美味い酒と食べ物を探しとるのじゃ」


 だから俺に弟子入りしないかと勧誘してきたのか。

 その割には断るとあっさりと引き下がっていたし、シードルの方が大事みたいだったな。

 酒と食べ物探しがメインで弟子探しのは口実な気がするね。


「で、あいつらは何処に居るの?」

「そうじゃった。また動いて今は東に2ブロックまで近付いておるわい」

「じゃあ叩き潰して来ますね。モニカさんをお願いします」


 モニカさんの安全はゲンさんに任せておけば大丈夫だろう。

 魔術が使えるから俺が戻るまで時間稼ぎは出来るだろうし、いざとなれば心臓ごと止めちゃう警棒もあるしね。

 後顧の憂いを無くしたところで、俺は裏路地へ駆け出して行くのだった。

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