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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
〈コールランド〉 —— 〝セフィロトの樹〟 ——
11/14

精霊騎士  4

それは二十年前ほど遡る――――

〈コールランド〉はほど鎖国状態、完全に自分たちだけで国を回していた。

どの種族とも協力はせず、どの種族も立ち入ることが出来ない。他の三種族の中で一際浮いていた種族だっただろう。

だがヴァーリエ・シルバ・スクリームは、まだ(・・)〈コールランド〉というエルフの国に溶け込めていた。

太陽を浴びれば黄金にも似た輝きを発するエルフ族特有の〝ゴールドブロンド〟という髪色、年老いていくごとに輝きが失われるように白が混じっていくために寿命が目に見えて分かるという珍しい髪色である。


まだ〝ゴールドブロンド〟を持つヴァーリエは狩人の家に生まれた。

家族は父、母、姉、兄の四人。全員が見事に狩人として国に尽くしていることから勿論自分も狩人になるものだと思っていた。

家畜が魔獣化しないように見張ること、食料として家畜を狩ってくること、異変を察知しては精霊騎士に報告すること、この三つの仕事が主である狩人という役割。

当然のように重宝され国では精霊騎士の次には有能な職だったことは間違いないだろう。

まだ幼いヴァーリエには悟りにくいかもしれないが、家は裕福である困ることなどなかった。

父と母はいつまでも恋人同時のように仲睦まじく、姉と兄は父のように強くなるために日々魔法の修行に明け暮れ、周囲からの評判も良いい。

何か欲しいものがあれば手に入り、何か困ったことがあれば家族が助けてくれる。

家族が鍛錬をしていれば自分もしなければならない、家族が周囲の期待に応えるなら自分も応えなければならない。

家族の誰しもが当然のような表情をしている。

だが、その裏を気が付けなかった。

鍛錬は辛いし苦しい。

期待に応えるのは怖いし緊張するし周囲からの目線に逃げられないことが何よりも苦しい。

父、母、姉、兄が当たり前のようにやってのけてしまうため、幼いころのヴァーリエには普通じゃない苦しさが分かっていなかった。

幼い頃からずっと見ていた環境がそうであったために、ヴァーリエという一人の少女の心にはそれが普通のことだと深く刻まれてしまった。

――――――故に〝苦〟を〝苦〟であることを知らずに育って来たのだ。

物心がつくころには魔法を学び、家族に並ぶために鍛錬をした。

周囲から期待されれば、必ず応えて結果をだした。

そうやってヴァーリエは二十年も生きて生きた…………いや、生きてしまった。

出来ないことはあれど完璧に見える不完全さというものが、自分の知らないところで増幅していき最終的には出来ていたことに影響を及ぼす。

失敗はすれど、挫折は知らない者。

成功はすれど、勝利は知らない者。

完成はすれど、根源は知らない者。

自分に必要な存在や概念が目の前にあれば、成長する過程で必ず見失うものがある。

それは全て『出来てしまった』ことによって浮き上がる灰汁のような不純物であり、取り除かなければ後に違和感を残してしまうもの。

遠くから見れば完全に見えるそれは、近くから見ればあらゆる部分が未完全であった。


変わりゆく季節、時代が流れていくに連れて世界もまた動き始める。

誰しもが平等に、誰しもが笑っていられるようにと、まるで神様が良い方へと世界を動かしているのかと錯覚するほどにエルフ族の生活が激変した。

人族の科学。

魔族の研究。

獣人族の古の知識。

その全てが知識欲の高いエルフ族へと渡ることになったのだ。


年数を重ねるにつれて国というものは大きく成長を遂げる。

それは他種族との交流を開始したという点以外に他ないだろう。

このことによりエルフ族という長寿の種族にとって、これほどにない楽しみである〝知識〟という存在の世界が急激に広がったのだ。

だが、他種族と関わったことによって〈コールランド〉自体にも変化が訪れる。

それは精霊騎士という存在の減少である。

今までは〈コールランド〉という国だけを守って入れば良かったものが、これからは〈コールランド〉の外側にまで目を向ける必要があるのだ。

そのためには今までの精霊騎士たちでは数が足りない――――そうして開かれたのは精霊騎士団への入団試験だった。

試験内容は極めて単純なもの『トーナメント方式の大会を開いて誰が一番強いか』を競うのみ。

これにはヴァーリエのみならず、全国民が歓喜と興奮に身を震わせただろう。

強くなればいい。それだけで精霊騎士団という偉大である組織に入団することが出来る、きっと大人も子供も全員が身も心も奮闘したであろう。


だが、そんな時に事件は起こった――――――


精霊騎士団への入団。

開国したことによる様々な利益。

知識でしか知らなかった他種族の存在との交流。

国が急激な進化を遂げていったことで〈コールランド〉の象徴でもある〝セフィロトの樹〟もまた、大きく進化していったのだ。

聞くだけなら良いことだと思うかもしれない出来事だが、現実は全くの逆。

これまでですら天にも届きそうなほど巨大だった存在が更に大きく成長するということは、その周りが動かされるということ…………


つまり、〝セフィロトの樹〟を中心に国として成り立つ〈コールランド〉に天災が襲い掛かったのだ。


通称〈セフィロトの怒り〉と言われた大震災――――――

被害は絶大だったが、精霊騎士たちの魔法によって被害は最小限に抑えられた。

だが天災は天災である。

防ぎようのない出来事、起こりうるはずがない出来事、想定内だった出来事という、本能が一番嫌な問題が雨のように降りかかる。

よって――――――崩壊が始まるのだ。




「逃げろッ!! 全員、国から出るんだァ!!」


誰かが潰れている声で叫んでいる。


「きゃぁぁああッ、貴方……貴方ッ!!」


誰かが悲しみの声で叫んでいる。


「俺の畑がぁ……、俺の家がぁ……、俺の…………家族が」


誰かが絶望した声で呟いている。

どれもこれも見るに堪えない〝嘆きの輝き〟をしている。

そして――――――


「ヴァーリエ……!! おい、ヴァーリエッ!! しっかりしろッ!!」


私が呼ばれている(・・・・・・・・)に気が付いた。


「マクティ!! こっちに来てくれぇ!!」


あぁ、声が出せない


「おい、おいヴァーリエ!! しっかりしろ……必ず助けるからな、目を閉じるな」


息も……出来なく、なって


「目を開けろ!! ヴァーリエッ!!」


物凄い振動が体の中を通過していく。

まるで力の入らない自分の体を横目に、全く抵抗出来ない振動で視界がブレる。


「(もう……大丈夫だよ? お父さん)」


エルフの中でいったらまだまだ子供であるものの、精神的には成熟した大人である。

勿論、自分の〝死〟くらい感じ取れる。


「おい…………ヴァーリエ――――――ヴァーリエ?」


「……ウォル、彼女はもう――――」


最後に記憶に残った視界は、自分を含めた三人(・・)の影を上から眺めている光景であった。





目が覚めた時には、この場所にいた。

フカフカのベットの上で知らない天上を見つめていた。


「私は…………あれ? どうしてこんな場所に?」


記憶に残る自らの影を呼び起こすと身が震えた。


「死んだ、はずじゃ…………」


ハッと我に返ると、改めてこの場所がどんな場所なのかを見渡した。

回復薬が積み重ねられたケース、様々な食材、暖炉の前に休息が取りやすいように椅子が一つ。

その他にも生活するために必要な物が全て取り揃えられていた。


「な、なんだ? どういうことだ?」


視界の端に映る白が美しい白銀の髪。

少しだけ成長した肉体。

現状を整理しようにも、整理したいことが雪崩のように襲い掛かってくる。

だが、不思議と心の輝きは安定している。

まるでこれが〝当たり前のこと〟と言わんばかりに、精神的な不安というのを拭い去っていくのだ。


「まぁ……私一人らしいし、また国に戻れば問題はないだろう。とにかく今は服を着よう」


ベットから立ち上がったヴァーリエの姿を見た者はこの世界にいないだろう。

いや、もしかしたらヴァーリエ自身も自分の姿を把握しきれていないだろう。

ただ外の光景をみるための薄いガラス窓。

その瞬間だけは窓ではなく鏡としてみるべきだった…………そうすれば自分に何があったか理解することが出来たに違いない。


背中に刻まれた――――まるで翼のような形の〝神聖紋〟に









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