精霊騎士 3
新しい人物との出会いは何事も無く終わりを告げ…………もはや、本当に出会ったのかすらも怪しいとすら混乱している結人の目の前には容赦なく魔力剣を振りかぶるヴァーリエの姿があった。
数分前に無事に帰ってきた結人との初めての実戦的な魔力を用いた練習。
それだけでも、未だに魔力という感覚に馴れていない結人はハンデを抱えているというのに……まるで鬼神のように斬りかかってくる。
「いい感じだな、魔力の流し方は」
視る事が出来てしまうからこそ最小限の動きで躱しているが、重心の移動と行動の先読みの正確さには驚く。確実に避けられない瞬間にヴァーリエは攻撃してくるので結人は魔力を纏った腕で防ぐ他ない。
「おかげで腕が切り傷だらけだよ! お前少しは手加減しろよ……!」
防ぐ度に木刀で殴られたかと思うような重みと空気を切る音が聞こえるのは精神的に余裕が持てない。
いつ、自分の視界から腕が無くなってもおかしくないような本気の剣音がするからだ。
「仕方ないだろう? これも魔力を魔法へと昇華させるための修行だ」
「…………何て言ってるけどっ、本当にこれでいいのかよ? もうそろそろ腕が限界だぞ、俺」
回復薬や回復魔法を施せば一瞬で治るであろう傷ではあるが、本来なら重傷の部類入る怪我だ。
無数の切り傷が縦横と縦横無尽に刻まれ、腕を動かせば皮膚の表面が乾いている感触がある。
突然目の前から姿を消し、突然何事もなかったかのように戻ってきた結人のことを心配していた数秒前に本当に戻って欲しいと思う。
「いいか? 魔法というのは〝想いの結果〟だ。ユイトがしたいことを想うことによって過程を踏んで結果となって映し出される」
「つまり奇跡でも信じてみろって?」
「違う、私が言っているのは奇跡とはまた別の次元だ。説明が正しいかは分からないが、想いの結果が過程であり叶った後が結果ということだ。例えば『炎』を起こす時には、既に燃えていると想いうことで現実が燃えているというわけだ」
「いやいや、それを俺のいた世界では奇跡って呼ぶんだよ」
「むぅ…………異世界というのはそこまで気難しい考え方なのか? ただ想うだけでいいだ。想像だ。そうだな、ユイトの場合は――――『その傷が治っているぞ?』」
「はぁ? 何言って――――――ってぇ!! 治ってる!?」
肌ざわりがザラつくほどにはズタズタに斬られていたはずなのに、感じる間もないほんの少しだけ意識の外側に向かってしまった思考の刹那の出来事である。
まるで、最初から傷が無かったかのように治っていたのだ。
「いいか? 強制召喚魔法というのも同じだ。ユイトがどうやって発見されたのかも、召喚魔法されたのかも知らない。ただ想像を極限までに現実に起こすと言えばいいのか、無いものや無いかもしれないものを有るものにする。だからユイトが強制的に召喚された、その事実こそが〝魔法〟ということだ。そして本当にその有無が必要なのかを審議することで、無いと判断された場合に世界に修正がかかる。これをエルフや魔法を使う者たちは〝魔法発動の収束〟と呼んでいるんだ」
自然的な流れで修行が終わったと同時に、ヴァーリエが魔法というものについて結人に対して説明し始めた。
「あ、それ言われた気が…………しないな」
「それもそうだ。〝世界の修正力〟を命ある者が感じ取れるわけがないだろう?」
「なるほどな……つまり、魔法ってのは案外面倒なものなんだな?」
「それは捉え方次第だ。まぁ、想像通りに事が叶うと思えば都合がいいだろうな。ユイトの世界では魔法というものがどんな感じで広まっていたんだ?」
「そうだなぁ、まずは魔力があるだろ? それに上限があるな、よく流行ってたのはスゴイ魔力持ってて魔法で滅茶苦茶なことして無双する物語とか……あと逆に魔力無くて拳で戦うとか。そもそも魔法も使える属性があって、その属性に適性がないと魔法を使えなかったりとか――――」
数えたらキリがないほど、世の中には魔法と言う解釈があった。
だが基本的に〝魔力が多い方が強い〟という考え方で、全員の思考が一致するだろう。
当たり前だ。その方が強いことが明白だからである。
色々な魔法の種類が存在し、逆に魔法を無効化する反魔法なども存在する。
誰かの考えが誰かに電線しそしてまた誰かが新しいものを生み出す。
だからこそ様々な物語があった。
「まずはだな…………魔力は限りなく無限に近いと答えておこうか」
「えぇ!?」
その二次元に浸ろうとした時だ、ヴァーリエは結人の常識をぶった切る。
「魔法とは想像力。本当に何でも出来てしまうのが魔法なんだ、流石に世界に干渉は出来ないが」
「時は止めれないってことか?」
「その通りだ。あとは過去や未来にも行けない、空間の移動や瞬間移動は可能だがな」
「…………そういうことか。なら限りなく無限に近いってのは?」
「自分が想像したことを現実に起こすというのは、やはり精神的な疲労が絶大だ。一回やってしまえば後は楽だが、それを継続させるのにも精神力が必要だし……何よりも一度に無数のことを考えるのは非常に困難なこと。私は――――出来る気がしない」
「…………ッ――――!!」
奥歯が軋む音がした。
確かにヴァーリエは言われていた。
『魔法も碌に使えない』だから精霊騎士団に入れなかった。
それこそ、なまじに世界の知識を組み込まれた結人だからこそ分かってしまう。
エルフという存在が■霊の民であり、■■の子孫であることを…………
それでいて精霊とは■■そのものであるということ…………
だからこそ魔法を使えないエルフが存在することが信じられないのだ。
「でも、ユイトには才能があると思うぞ? 他の世界から来たというのもあるし、鍛錬を長時間行う精神力もある。やり続けるという力は大切だ」
微かに思い出せない記憶に頭痛がするも、ヴァーリエの表情で痛みはサラリと受け流した。
酷く似合わない笑い方だった。
全体的にどこか力がない、とても寂しい笑い方。
「……そうか、ありがとな。そう言えばお前から褒められたのって初めてじゃね?」
「そ、そうだったか?」
「うん。お前いつも厳しいもん、俺にも自分にも」
「あっ…………」
「――――正直、どんな感じで話しすればいいのか分からなかったし今更なんだけどさ……お前って何者なんだ、ヴァーリエ」
異世界から来た結人のセリフではないの間違いないだろう。
だが、そもそもが違う。
ただの村人でもなく、だが貴族や高貴な人物でもない。
髪の色が違うというだけで魔族の大陸である〈ヴァビロニア〉の付近にまで弾かれるように迫害を受けているエルフの女性。
思わずにはいられなかった。
二次元脳であるある結人は異世界に対する適応は非常に早い。それは、常日頃から想像していたことでもあるからだ。
異世界に言ったら○○がしたいなんて皆が考えているようなこと、寧ろその考えは現実までにと欲張って必要のない力まで手に入れてしまった――――生粋の厨二病だ。
そんな男だからこそ肌で感じてしまったのだろう…………
「俺の話しは全部した、それはもう余計なことまで話したな。でも、お前のことは一切聞いてなかった。まぁ……聞きにくかったってのもあるけど、それにしたってだ。そのちょくちょく出る哀愁が気になって仕方ねえ、説明してくれ」
自分でも何様だと思う。
衣食住の全てを補ってもらい、更には知識と技術を提供してもらっているのにも関わらずに何て上から目線なんだと思う。
だけどこれ以上の気にしないフリは無理だ。逆に気なってくる現象で体の内側が痒くなる。
「…………それは、私のことが気になっている。そういうことか?」
「そう言ってんだろ。ここまでお世話になっている以上は恩返しもしたいし情も沸く、無理やり嫌いになるのも無理だし、無関心でいるのにも限界だ。それこそ一人で鍛錬していても考えるくらいだしな」
「――――分かった。そこまで言うなら話そうか、私の事情というやつを…………家に戻ろう。その方がゆっくり話せる」
静かに家の方へと振り返ったヴァーリエ。
その瞬間は、どんな表情をしていたのか…………
ただ、しっかりと口元を抑え瞳を瞑る。
◆
「マクティ組長」
四分割された大陸を繋ぐために人族の科学の力を結集させた装置『永続転移魔方陣』。
毎日のように商人や旅行者が使用しているその装置は、〈コールランド〉中央にそびえる〝セフィロトの樹〟の中層階に設置されている。
そこは誰しもが行き来できる故に警備が厳しく、厳重に厳重を重ねた整備をされている。
もちろん、国民が使えるということは精霊騎士や国王も関係なく利用しているのだが…………いつも賑わっているはずの中層階の様子に異変が見えた。
「……どうだった? ルフガン」
国民一人の影もなく、ただ整列された精霊騎士団たちの姿。
そして腕を組む一人の男性。
「やはり〈ヴァビロニア〉の方でも探知魔方陣に影響が出ている様子でした。それに学園の方でも全体的な魔力に乱れが生じ、上手く魔法が使えないとのことです」
「そうかぁ……。やっぱり、心の奥に緊張を刻まれたかな――――――〝コールランド〟様」
白髪交じりではあるものの、エルフの代名詞とも言える〝ゴールドブロンド〟の髪持つ男性。
精霊の民である国〈コールランド〉の王である証明〝コールランド〟の名を継ぎ、精霊の集まる大樹である〝セフィロト〟の名を持つ。
〝コールランド・セフィロト四世〟――――それが彼の名前だ。
首元には神聖紋に類似したような紋が浮かび上がっており、この〈コールランド〉の王であることを証明しており、この国で唯一精霊に身を捧げられる人物であるが故の〝王〟である。
「相対した時、どう思った…………」
高齢と言えどやはりエルフであるコールランド王の容姿はまだまだ若い、人間で言えば三十前半と言ったところだろうか。実年齢は七百を超えるというのにも、存在感は日に日に増していくばかりだ。
「危険性は少ないかと、ただ皆無という訳ではありません」
「……異世界からの来訪者――――それだけで十分な危険性。それに奴がこのまま存在すれば探知魔法陣が機能しない、それは隣国の〈ヴァビロニア〉でも共通するだろう。となった場合、急激な情勢の変化についていけずに国が滅びかねない」
「つまりは――――排除しろ、と?」
「可能か?」
たった一度の出会い。
憎しみも恨みもない、ただの命令だけでは殺すのは惜しいと正直なところ考えてしまった。
確かに新選組の者たちは瞬殺、怪我も大したことはなかったもののあのままなら殺されていたことは間違いない。
だが殺していないということは、彼の狙いが戦いではないことを意味しているのだろう。
歴戦の猛者であるバライグ、猛者と猛者の間に生まれた戦いの化身であるライズ、実力的には組長と相違ないルフガン、そして自分。
「可能ではあります。ただ彼ともう一度話がしたいと思います」
数は力であり、エルフであるがための長寿という場数は経験だ。
その経験的にもはや戦いにならないだろうと断言できるほどに、余裕で勝利は出来るだろう。
「何故? 自分の存在が世界に与える影響をも分からない者を庇うか、マクティ」
「それはただ彼自信に知識がないためだと思っています。現に彼はライズが特攻しない限り『話し合い』をしようとしていました、そのためボクの評価が危険性が少ないと申したんです」
「では我らが戦わなければ戦わないと?」
「えぇ、その通りです」
「証明は出来るのか? マクティ。今のお前が言っていることが分かっているのか、無知で暴力的な神に対して〝話し合い〟をしようとしているのだぞ?」
分かっている。そんなことは相対した時から分かっていた、だからこそエルフでも最強と言われるチームでその場に赴いた。
知識がない相手と話すのは怖い。
無知というのがどれだけ恐ろしいことかをエルフであるボクたちはよく知っている。
「話し合いで終わりそうであるならば、ボクはそちらに命を賭けましょう」
だからと言って相手の意思を尊重しない理由にもならないだろう。
戦う気のない神を怒らせようとしているよりは、自分の行動が正しいと胸を張って言える。
「…………そうか、よく言った。ならば行ってこい」
「はいッ! 精霊騎士団一席に座る者として、この一大事を全うすることを宣言します!!」
さぁ、向かうか。
彼への道標を――――――
誘導魔法と空間移動魔法を同時に使用したマクティの姿は中層階から消した。
新選組の者は姿勢を崩さず、幹部組は報告内容をまとめ、その場にただ一人だけいる組長補佐のルフガンは無言を貫いた。
「マクティが不在の時はバライグに事を託している。探知魔法が無い今は最も警戒すべき時だ、気を緩めずにな…………ルフガン」
「はい」
「マクティが失敗した時は――――任せるぞ」
次はヴァーリエの過去編みたいなやつ、そしてマクティとの会合。
魔法の修行は終盤へ……




