57:再交渉
過分に無視する形となったが無事に交渉へと移った。その時には既に、俺が投げ飛ばし盛大に吹っ飛んで行った族長と、巻き込まれたもう一人の女性が気絶した状態で運び込まれたのだった。
『族長の補佐をさせて頂いております。ファシルと申します』
女性ぽい名前だがれっきとした男性体だ。クインを除けば俺たちは3人。風龍族側も同数に、2名を伴っていた。
「……」
『テリスト。挨拶なさい』
「いや。交渉するのは俺じゃ無いし……まあいいか。俺はテリスト・ファーラル・アーレアル。テリストと呼んで頂ければ幸いです」
『族長が大変失礼な対応をし、皆様方に多大なご迷惑をお掛けしました事を、種族の皆に変わりまして謝罪申し上げます』
『ファシルさんや他の方々は、族長の言ってる事に納得していない。そう考えて良いのですね?』
『左様です。族長は普段何もされません。ですが、それを良しとしない者が大半です。族長の放任主義を支持する者も当然居ますが、その事で小競り合いに発展する事もしばしばございます。
実際に話し合いをされて理解された事と思いますが。結果のみを見て詳細を確認もせずに裁くのです。 この事に嫌気を指した者が部族を離れてしまうのです。
今回の事を切っ掛けに族長の地位から引きずり落される事でしょう』
普段は放任主義か、揉め事の時だけ首を突っ込んでいるんだな。放任は悪い点もありそうだが、良い点も結構ありそうではある。ただ、そこには自己責任が大きく付きまとう事になる。大枠だが、生活基盤になる方向性程度は指示している方が都合が良いと思う。そこは総意を取り選抜すれば良いだけの事だ。そうたいした労力では無い。
放任より後者の裁き方の方がよほど深刻だな。下手すれば正当防衛が認められずに挑発した者が有利となってしまう。他の種族と揉めてしまえば結果はご覧の通りだ。風龍族に最終的な落ち度があれば良いのだが。事、逆になった場合には俺が被った事態に発展する。
実際に体験し、族長失格の烙印を押した者が離脱してるのだろう。公正な裁きが期待できないとなれば、何時その裁きが降りかかって来るか怪しくある。何時加害者に仕立て上げられるかビクビクしながら過ごすより、どちらにしろ自由であれば、部族から抜け出して生活環境を変える方が族長と離れられ安心して暮らせると判断を下す者が居そうだ。
『その様な事情がおありでしたか。テリスト。謝罪なさい』
そうだな。族長への謝罪は不要だが、理解してくれている相手ならば謝罪は必要だな。
「事情があった事とは言え、命を奪った事は事実です。謝罪申し上げます」
『その謝罪を受けましょう。黙って隠蔽すれば済む話でした。しかし、皆様は其れを良しとされなかった。筋を通し、円満に解決される事を考えてのご決断だったのでしょう。
族長よりよほど信頼できる方々とお見受けします。今後は良い関係を築いていきたいものです』
『憎しみあっていては共に発展できません。ご英断感謝いたします。彼の遺品ですが、全てこの地に置いて戻りましょう』
『感謝いたします。かの者の家族も、きっと喜びましょう』
交渉する者が変わったとたんにこれか。強引に族長交代をするような発言だったが、馬鹿げた裁き方を利用していた者としては歓迎できないだろうな。少数であるとは思うが、反発して割れなければ良いが、って俺が考えるべき事では無いか。それに、よそ者の手を借りたいとも思わないだろう。貸しは高くつくからな。
『サルーン殿も危惧しておりました。良い報告が出来ます。私たちはこれにて失礼させて頂きます』
『このゴタゴタが終結しました暁には皇国へ報告に参りましょう。その際は良しなに』
エレクティアが遺品である牙と爪を手渡し、俺の発動する【ゲート】で先ずは帝都の城へ帰還し、皆への説明は合流してからと皇宮へ転移したのだった。
「おはようございまーす。さてと、寝不足だから寝るか、おやすみなさい」
「待ちなさい。デルフィアとエレクティアが一緒と言う事は解決したのでしょう。説明しなさい」
「やっぱり?」
「当然です。国家規模の危機とも言える事態ですよ。休むのは良いですが説明が先です」
「えーとですね。相手の族長とは分かり合えず攻撃されました。突進力を利用して同じ同胞へ投げつけ気絶させました。
交渉相手が変わりまして此方はエレクティアが対応し、お互いの謝罪で穏便に矛を収める事で合意です。後程使者を派遣するとの事です。時期は不明。以上だね。
そうそう。途中戦争へ突入したと判断して、ファイアレインとフレイムランスを混ぜて放とうとしたんだけどね。不発だよ」
『発動寸前だったがな。エテクティアが止めてなければ我ら4名以外は全滅であっただろうな』
「それって、火魔術の最も広範囲の魔術でしたわよね」
「うむ。それと火魔法のLv3で単体用の魔法だな。これ、雨粒サイズが槍サイズになるかなーと思って選択してみました」
「馬鹿テリ! 中途半端に叩くなとは言ったけどやり過ぎよ! 環境破壊するつもりなの!?」
「逃げられては面倒だろ。どうせハゲ山だったし環境は山の標高が下がるだけだって。そもそも発動してないよ」
標高が高すぎるのだろう。植物は生えておらず石や土が丸見えだったのだ。
「はぁ、テリスト。今後一切広範囲に影響を及ぼす魔術と魔法の使用を禁止します。良いですね?」
「えー。草原とかで相対した場合には殲滅が簡単なのに」
「環境破壊を禁止します。い・い・で・す・ね!」
やばい……激怒した時でも大声上げないサルーンが、強調しながら大声で言うとか相当だろう。真面目に答えなきゃ今後の俺の生活が……。
「了解しましたです。が、時空魔術のスペースディストラクションって使って良いの? 範囲が良く分からんのよね」
魔導書での範囲に関する説明が前方なんだよね。効果範囲、距離などの正確な表現が抜けている。円錐状に発動してしまった場合には、盛大に地面を抉る事になり環境に宜しくない。やっぱり禁止か?
「……以前聞いた事がありますね。膨大なMPを消費するらしく、ヴァルサル様でさえ発動出来ないとか。物騒な魔術は禁止です」
「にっちもさっちもいかないような強敵には有効だと思うが。きっと使う相手はいないだろ。了解だが、ヴァルサル様は試そうとした事が有ったんだな。1発試すか?」
「駄目です。空間そのものの破壊と聞いてますよ。命の危機に瀕した事態でも無ければ使用禁止。良いですね」
やっぱりか。早々強敵と言っても、家族位しか対抗可能な者は居ないだろう。それなら発動する意味が無いので当然了承した。
「了解。さてと、デルフィアとエレクティアは一睡もして無いだろ。俺も半端で流石に眠いから寝ようか」
「婿殿。休むのは構わないが、ステーツへ送ってくれないかい。挨拶して回りたいからね」
「それは分かりました。朝食がまだでしょ? どうします」
「ギルドにでも行って食べるから心配ないさ。家へ送ってくれるかい」
「アリサ。2人の護衛についてくれ、頼めるか? 俺は昼頃合流するわ」
「良いわよ。衛兵も騎士も全滅してるから治安の低下が心配だものね」
「それじゃよろしく【ゲート】」
「行く前に伝える事が有ったのよ。詳細はカーラから聞いてちょうだい」
「そうなのか。それじゃ行ってらっしゃい」
送り出した後、カーラから聞けば、魔物ハンターギルドから使いがやって来て巡回業務で捕らえた者たちで、地下牢が溢れそうとの事だった。
何分用途としては、ハンターの懲罰用にと作られた施設で、規模はそれほど大きくは無いそうだ。刑が確定するまでの短期間で、本来であれば国が管理する牢へ送り込むのだが、其方が機能していない今となっては放出先が無いのが現状だった。
そう言えば牢屋を確認して無かったな……、もしかして餓死してる? まあいいか。
「なぁ。これって溢れたりした日には目も当てられないよな。寝る暇無さそうじゃね」
『副団長で実権を握ってるテリストが裁く必要があるわね。私とお母様はこれから寝るの。1人で行ってらっしゃい』
「1人でって部分がちょっと棘があるきがしないでも無いが、言ってる事に間違いは無いな。スーシー、帝国に行った事無いだろ? 行かないか?」
「はい。雪を見てみたいと思ってました」
「それじゃ行こう。その前に氷竜の防具一式を着てもらおうかな。気温が氷点下だし、本当はそれなりの服を準備したいが特注じゃないと合わないしな。我慢してくれ。
クインは休んでくれ。突然連れ出して寝てないだろ。後は俺の仕事だ」
『主ほどでは無いのじゃ。過労で倒れる前に休むのじゃよ』
ちょっと着にくいが、普段俺が着ている防具を脱いで提供するのだった。寒さに対して一番抵抗力があるので、この場合には最適な防具だ。俺は次点で抵抗の高そうな風竜の防具を着こむのだった。
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テリストが【ゲート】で移動した頃、サルーンを迎えに近衛騎士5名が寛ぎの間へとやって来た。
「デルフィア様やエレクティア様が御帰還なされたという事は、風龍族との交渉が終わられたのでしょうか?」
「そうよ。無事穏便に済みました。後程使者を送るそうです」
「それは宜しゅうございました。お聞きしますがカーラ様が御帰還されてるという事は、テリスト様も一度お戻りに?」
「つい先ほど。帝都で捕らえられた罪人を裁きに向かいました」
「テリスト様はアークサルトへ向かう予定のはずでは?」
「その事ですがまだ伝えていません。回収は何時でも行けますが、帝国の安定化がより重要です。其方を優先させたのです」
「左様でしたか。我々がテリスト様ほどの実力があれば代わりに向かえるのですが……」
「物事には向き不向きがあります。事、敵対者へ圧力を掛ける手腕ならばテリストの右に出る者は居ないでしょう。実力が同等であったとしてもテリストを行かせますよ」
「その様なご判断だったのですね。敵対する方が哀れに見える程です」
「さ、其方達も一度食事に向かいなさい。食事抜きでは働けませんよ」
「はっ。直ぐに戻ってまいります」




