56:急務
殺気を放つなど、危害を加えるつもりのない者が接近しても反応できずにずっと寝続けてる俺は叩き起こされた。なんて事は無い。一度持ち上げられ、床にポイされただけだ。俺のグエッと発した言葉により全員が起きるのだった。
「誰だよこんな夜中に、気持ちよくカーラに抱きついて寝てたってのに変な起こし方した奴は【ライトボール】」
『変な起こし方で悪かったわね。風龍族との交渉がうまく行かないの。そこで当事者のテリストに来てもらう事になったわ、準備なさい』
この声と話し方からするとエレクティアか。交渉決裂ってどんな交渉をしたんだ? 此方の言う事を信用できないと言い出して最初から話が通じなかったか?
素っ裸なので収納から取り出し、着込みながら訊ねた。
「ふぁああ、はぁー。それで、交渉決裂って、相手方は何を突っぱねてるの?」
『全部よ。皇国に行かせた記録は無いし。テリストを攻撃した事実も無い。殺される謂れなどない。この暴挙に対してテリスト。あんたの命を寄越せと言ってるわ』
「うーん良く分からんな。俺は何処で接触した事になってるの? そもそも風龍族の住んでる所なんて知らないのですけど」
『そこを追及しても言葉を濁すだけで、都合の良い部分だけを取り上げて言ってるのよ』
「さいですか。それじゃ話すまでとことん突き詰めてやれば良いんだな。答えられない後ろめたい事でもあるんでしょ。最悪、皆殺しにするんで覚悟しといてくれ」
「テリ。半端に対応すると皇国に火の粉が掛かるわよ。分かってるわよね?」
勿論だ。下手に残すと報復が来るってな。叩けるうちに叩くのが長生きの秘訣だ。
「わかってるさ。中途半端に叩いて恨まれたら報復されるって事だろ。全員殺し尽くすから安心しろ」
「テリクン。そんな事にならない様、最善を尽くして説得して下さいよ」
「無理じゃないのか? 俺の命を要求してる時点で話し合うつもりなんてないだろ。接触したら即座に攻撃されるかもな。さてと、着替えたし行こうか」
「行く前にクインを連れて行きなさい。相手は飛べるんだから逃げられない布陣を用意しないとね」
「うーん。デルフィアとエレクティアが居るのに過剰じゃないか?」
「手ぐすね引いて待ってるのよ。罠に飛び込むんだから過剰なぐらいでちょうど良いのよ。連れて行きなさい」
「わかったよ。ステーツの方の予定が狂ってしまうが仕方ないだろ。帝都でも見学して待っててくれ」
『彼方は母さんが残って押さえてるんだから時間が無いのよ。決まったのならさっさと行くの。皇宮に寄ったら火龍族の侵入地点に【ゲート】を繋げなさい。その方が近いのよ』
了解と伝えて皇宮へ転移。寝ているクインを抱っこして連れ出すのだった。大半の嫁は【ゲート】を繋いだ時点で気が付いたのだが。俺だと分かると直ぐに寝た。
乖離島からはエレクティアに飛んでもらい、俺はクインを抱っこしてその背の上だ。起きたクインに説明をし。戦闘になったら確実に相手を仕留めるようにと念を押した。
乖離島から真南へ飛び。俺たちの住む大陸とは別の大陸に到着。そこから方角を南西へと舵を切る。朝日が顔を出すころ、高山の山頂を平らに削り、整えたであろう闘技場にも似た場所に到着した。
山頂には人化した者が百数十名、外周に添い円陣を組むように立ち、その中央ではデルフィアともう一人、男性が相対していた。空には龍化したままの個体が二百名以上空を覆い尽くしていたのだった。
デルフィアの後方に着陸し、俺とエレクティアはそれぞれ左右にと立ち並ぶ。
『ようやっと来おったか、猫人族の小僧めが! よくも我らの同胞を殺してくれたな!』
いきなりの喧嘩腰か。殺す気満々だな。
「殺したな。デルフィアとの婚姻を解消させるとか。お前ら、火龍族も含めて皇国に喧嘩売るつもりか?」
『その様な事実などないわ! いちゃもん付けて殺したのであろう!』
「その場にも居なかったお前がよくそんな事言えるな。此方は俺とのやり取りを最初から見ていた者が100名近くいるぞ。お前がどんなに難癖つけようが覆すのは不可能だ。ほら、馬鹿な手下を野放しにしていたせいで、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません、と謝罪しろや。そすれば謝罪を受け入れてやる」
『ふざけるな! 殺しおった事実がある以上、貴様なんぞに謝罪などせんわ。貴様こそ謝罪しろ!』
「する訳が無いだろ。結局お前の認識はどうなってるんだ? 殺した部分以外の事を説明しろや」
『その様な事は不要だ! 貴様がわが同胞を殺した事実は覆い隠せんわ!』
「それは結果論だろ。何事にも経緯があり結果がある。経緯があったからこそ、その結果に繋がった。お前の要求は経緯など不要。結果のみが全てと経緯を全て切り捨てる極論だ。人の世ではそんな都合の良い部分のみの選抜は通用せんぞ。それとも何か、ここじゃ、その馬鹿げた理論でこれまで処理して来たのか?」
『結果のみ知れば他は不要だ! さっさと謝罪しろ! 我らと戦争したいのか!」
「なるほど。エテクティアが言ってたのがこれか。理解したわ。
お前、とことん馬鹿だろ。それも極めつけの。救いようが無いからとりあえずお前だけでも死んどくか?」
「ふははは! 小僧よくぞ吠えた! 目にもの見せてくれるわ!」
他の者に命令しないだけはマシか? そのあまりの踏み込みに岩盤で出来た場に亀裂が入る。その反作用で得た速度そのままに突入して来るが甘すぎる。アリサの槍で突く速度の方が倍以上早いのですけども……。
殴りかかって来る右腕を掴み取り。更に加速するようにバックステップに縮地のスキルを使い引っ張る。バランスを崩した所で掴んだ手を振り後方にいる同胞に投げつけてやるのだった。
龍族の族長は最強の者が就くらしい。その者の踏み込む速度以上に加速させたのだ。反応出来るレベルでは無く、防御姿勢も取れないままに族長の頭からの突進をまともに受け、両者共に山頂から落ちて行くのだった。
俺が歩いて二人に合流する頃、やっと動き出した風龍族の面々。助けに行く者はごく少数だが、俺たちに圧力を掛けるべく全体に距離を詰めて来るのだった。
「はぁ、すっきりした! あんな筋の通らん馬鹿な答弁聞くとイライラするよな」
『テリスト。彼らと和解する為に尽力していたのだぞ。それをこうもあっさりと敵対してどうするのだ』
「デルフィア。そうは言うけどさ、長時間にわたって説得を試みたんだろ。理詰めで説得しようと、失点には目もくれずに殺す気満々だろうさ。違うか?」
『その解決の為に呼んだのだがな。仕方ない、これも風龍族の通過する試練だったのだろう』
試練が全滅なのだから、反省する時間はないがね。決裂した事だし、さっさと処理しますかね。
「そうだろうそうだろう。納得した所で追い打ちを掛けますかね【火よ炎よ還元し、雨となり穿されし降り注げ穴隙『お待ちください!』フレイムラージレンンンン! って何するんだよエレクティア」
最後のワードをキスで口を塞がれたために発動できなかったのだ。魔術を使用する際に一つの枷がある。それは1回目に限り詠唱を必要とする事だ。これをクリアしない限り詠唱短縮も無詠唱も使えはしない。後2言だったのだが、まさか嫁さんに邪魔をされるとはね。
『用事があるそうよ。相手なさい』
その相手はと見渡せば。地上で俺たちを取り囲んでいる内の1人の様だ。1歩前に出ているのでこの者だろう。
「了解だ。相手してやるよ」
そう言う相手ならばと小太刀を引き抜こうとすれば、これまた剣柄の頭を押さえられ抜けなかった。
『何をしてるの! そっちの相手じゃないのよ』
「いやいや。今まさに戦争おっぱじめようとしてるんだからさ。これが正解だろ」
『周りをよく見なさい。その気ならとうに攻撃してるでしょ。まだ和解の道があるって事よ。理解したのなら馬鹿な真似はしないで応じなさい』
「すみません。馬鹿なので理解不能です。そんな訳で攻撃して来いや! さっさと戦争おっぱじめるぞ!」
この一言にエレクティアが切れたのだった。尻尾を器用に使い俺の首をくるっと巻き、持ち上げたのだ。
『冗談を言ってる場合じゃないのを理解してない様ね。少し痛い目見てみる?』
「いえいえ。理解してますとも。戦争すれば被害が出るので戦争したく無いのでしょ?」
『先ほどと言ってる事が違いますね。本当に理解してる?』
「嫌だなぁ分かってますって。挑発して乗って来なければ戦争したくないと判断してる。そう解釈が可能なのですよ。ですからわざと挑発してみました」
『なら確認は取れたわね。今度挑発したら腕の1、2本は覚悟してもらいますよ』
「覚悟うんぬん前に良いかな?」
『何の確認をしたいの?』
「俺を殺す気満々の奴はどうするの?」
『……被害を出しても族長だけに止めなさい。勿論、攻撃された場合には反撃を許可します』
「許可は良いけどさ。巻き込んだらどうするの?」
『ちっ、もう良いわ。私が相手をするから黙ってなさい』
確認は必ず行うのが俺のポリシーだ。何か抜けがあれば、そこを突かれる恐れがある。そのしつこい質問にエレクティアが切れた。
交渉しなくて済む事から帰り支度をする。
「了解でーす。する事無いって事でお先に帰りますね。それじゃさいなら【フライ】【ゲート】」
『テリスト。もしかして私に喧嘩売ってますか?』
「売って無いよもちろん。短気な俺は居ない方が交渉も纏まるかなと」
『まあ良いわ。帰るのに時間が掛かるんだから待ってなさい』
「了解っす」
こうして拘束を解かれたのだった。




