55:急報
2人の借家に戻りはしたのだが、流石に2人用にと借り受けている家に4人宿泊するのは狭いと結論に至った。それならば帝都の城で寝れば良いじゃない、となり早速に移動し、ヤヨイとリカにも紹介した。そして夕刻には皇宮入りだ。
近衛騎士への面通しも必要な事である。皇宮入り口脇へと移動し直ぐに身分確認となった。ナヴァル・アンテローゼは魔物ハンターギルドへ登録している事からすんなりと確認が取れ、無事に寛ぎの間へと移動できた。
入室、それすなわちアウローラが俺の元に来る事を意味している。今回は正面からだったのできちんと受け止めて背中をナデナデするのだった。
「ただいまアウローラ。何事も無かったか?」
『キュア!』
言葉尻が短く端的であるからはいと答えているのだろうと解釈してみる。
「それは上々。話してた通りにアンナさんのお母さんに挨拶へ行ってな。朝夕は戻ると言ってたんでついでに紹介したいと思って来て頂いた。ナヴァル・アンテローゼさんだ…………」
今この場に居るのは出かけているデルフィアとエレクティア、サルーンとクイン以外だ。俺の経歴を話した際に出会った事も含めて話しておいた事から結構スムーズに紹介が出来た。
そこへサルーンでは無く近衛騎士団長であるバーニングが来たのだった。
「テリスト様。夕刻に御帰還と聞き至急報告に参りました」
「バーニング殿お疲れ様です。サルーンへ報告では無いのですか?」
「先日、メイドの計略を破られた件です。メイドの家族と共に依頼した者の家族も既に捕らえました。サルーン陛下へ報告致しましたが、罠を仕掛けられたテリスト様に判断を仰ぐようにとの仰せです」
あの美人計と苦肉計を混ぜたようなあれか。国の法に添って処理してくれれば良いのだがな。ただ。例のスタンピートに関係してる連中って線もある。そこは聞かなければわからないか。これは少し口調を崩させてもらうかな。
「判断を下す前に聞きたいが、例の名簿に記載されてる人物って混ざって無いか?」
「例のと言いますと……。確認しておりません。至急サルーン陛下に確認して頂きます」
「含まれていた場合には連座させてくれ。俺を陥れる事を企んだと全員を公開して捕まえろ。含まれていない場合だが。依頼主に関しては法に照らし合わせて通常の処理を頼む。
依頼を受けた方だが、その家族が関係していたかの確認を頼む。この場合の確認は窓口になっていないかどうかだ。無関係なら放逐して良い」
「了解しました。含まれていた場合の対応の詳細はサルーン陛下と協議して頂けますか?」
「確かに俺だけの判断では下せない問題だな。含まれていた場合にはバーニング殿とハーンス室長も同席を頼めるか?」
「はっ。その旨サルーン陛下へと伝えておきます。失礼いたします」
こうして彼は退室した。事情を知らない人も居るが、知ってる人にだけ伝われば問題無い。
「何やら面倒事のようだね。婿殿は罠にでも填まったのかい?」
「メイド2人が共謀してね。俺が女性を襲ったとでっち上げたんだ。具体的に言えば強姦を装われたが、証拠を提示するまでも無くウソがばれて捕まったって訳だな」
「それはまた馬鹿な女が居たもんだね。これだけ奇麗どころが居て童貞なのに、他の女を襲う訳が無いのさ」
これってさ。何だか俺がヘタレと言われてる気がしないでも無いんだが……気のせいかね?
「名簿の方は聞かない方が良さそうだね。そうなんだろ?」
「わかる人だけわかれば良い。そう言う事ですよ」
「そうだろうね。しかし、奥方が錚々たるメンバーと言ってた理由が分かったよ。元貴族のお嬢様。王女様。侯爵家のお嬢様。王家に仕えていたメイド長。女帝様にその妹君。召喚された2人。火龍族の元族長様とその娘さん。同じく火龍族の女性。うちの娘が平凡に見えるね」
「なーに馬鹿の事を言ってるんですか。結婚するのにいちいち肩書なんて気にしませんよ。一番重要なのは性格、その次に容姿とこれまでどんな努力をして来たかですよ。地位? ふざけるな、そんなもん犬にでも食わせろ」
「変わった婿殿だね。自身がトップに継ぐ権力をお持ちなのに、そんな考えとはね」
「地位に見合う努力を重ねてきた方なら良いのですよ。単に地位をひけらかして無能ぶりを披露する馬鹿が多くてね、そんな奴に限って嫌がらせをして来る。単に経験からそう考えてるだけですよ」
「理解してますよ。此方に来られてからの事を伺いましたからね」
「テリストにしては珍しいですわね。初対面でそこまで説明したのですか」
「だな。義理とはいえ5月になれば母親だよ。それに、一番懸念していた実力が足りずに罠を撥ね退けられないって点も解決済みだ。警戒は必要だが家族にまで警戒する様な事はしたくないからな」
「当然ですね。家族を信用できなくなれば誰も信用できなくなりますからね。ようこそいらっしゃいました。ナヴァル・アンテローゼさんですね。私はサルーン・アーレアル・アヴァサレス、皇国アヴァサレスの女帝を務めております」
クインを抱いて入り口から声をかけたのだ。
急に入り口からそう声をかけられた事から慌てて立ち上がり、最敬礼をして答えたのだった。
「真っ先にご挨拶に向かうべき所をこうして挨拶をする非礼をお許しください。アンナ・アンテローゼの母、ナヴァル・アンテローゼと申します」
「此処は謁見の場ではありません。お気になさらずお立ち下さい」
「お言葉に甘えまして、失礼します」
ナヴァルさん、一応それなりの口調で話せたんだな。
「はいはい。挨拶はその辺りで入って来なよ。ナヴァル母さんも座りなね」
「テリ。あんたはもう少し緊張感を持ちなさい。最初の挨拶は大事なのよ」
「テリストはどこででもテリストって事ですわよ。本当に周りの事を気にもしませんわよね」
「重要な会議の際に気張ってくれれば良いですよ。アウローラいらっしゃい」
『キュア!』
とうとうサルーンの呼びかけにもきちんと返事をして答えるようになったか。
これまでは足場を蹴って突進する事で抱かれに行っていたが、この時ばかりは翼をバッサバッサ動かして、若干フラフラしながらもサルーンの元まで飛び、抱かれるのだった。
俺に抱かれていたってのに、容赦なくはためき飛んだのだ。俺が居るのに考慮してくれなかったアウローラ。翼でバシバシ叩かれたのだった……。
そして、2匹を抱いたまま俺に腰かけたのだ。俺は椅子じゃない、つまりそう言う事だろうと勝手に解釈して胸を弄るのだった。
「そうそうナヴァル母さん。口調を戻して良いですよ。気にする人いませんから。ついでに俺も元に戻すかな。どうも中途半端ぽい話し方は肩が凝るね」
「あんたの場合は顎が凝るんじゃないの?」
「顎が凝るって何だよ。そんな言葉は無いぞ。意味としては使いなれない言葉を使う事から体に力が入る事で肩が凝るって意味だよ」
「そんな事説明されなくても分かるわよ!」
「さいですか。それでサルーン。話変わるけど名簿に名前あったか?」
「ありません。主導していたのは新年の謁見で降格した者でした。冤罪を生む行為ですから家族全員処刑となります。メイドと連絡役になった家族のみ処刑とします。良いですね?」
「それで良いだろ。それと、働き盛りの者が処刑されては金銭的にきつくなる。残される家族の為に主犯格の資産を渡してやれ。餓死しない程度にな」
「良いでしょう。全ては渡せませんが一部渡すように手配します」
「決めなきゃならんのは一応これだけかな?」
「そうですね。風龍族の方が気にはなりますが、デルフィアに任せる他ありません。後はその都度対応する他無いでしょう」
対処療法しか手立てが無いのは面倒この上ないな。それもこれも、2人が戻るまでの辛抱か。
「なんだい。他の属性龍とも何やら揉めてそうだね」
「つい昨日ね。デルフィアとの婚姻を破局させる目的で来たんだよ。俺を拘束したり特殊スキルを使って攻撃して来たから、俺が血だらけになって建物まで破壊してね。話し合いの最中に魔力を集中し始めたからその場で処刑した。その事で相手方の族長の元へ交渉しに行ってるって訳だよ」
「龍族の特殊スキルって。それで良く生きてたね」
「その時はそいつを拘束しててね。最接近してたから避け損なった。傷は浅かったが場所が場所で血管が切れたんだと思う」
「婿殿のあの強さでも避けきれないのかい。龍族ってのはやはり強いんだね」
「種族のカテゴリー別で分けた場合は最強の一角じゃないかな。属性分けされてるんで得手不得手の属性は有りそうだから、どの属性が最強とは断言できないけどね」
「それで、その龍を相手に瞬殺した訳だね」
「話し合いだったが、実際には罪を犯した罪人だからな。そいつの後方に陣取っていた。無防備な所を攻撃したからあっさりだよ」
「その辺りで良いでしょう。食事の準備が済んでいます。行きますよ」
「あ。1人増えたけど大丈夫?」
「緊急の来客用にと3名分は余分に作る様申し付けてあります」
「それは良かった。それじゃ行きますかね」
そのままお姫様抱っこへと移行して食堂へ向かうのだった。食後はグリちゃんが言っていた来客があるかと思い早めに帝都へと移動し就寝した。
その夜。深夜にも関わらずエレクティアが伝令として城へとやって来るのだった。




