45:皇宮へ
アンナの反応が余りにも乏しい為にお姫様抱っこして皇宮入り口へと転移した。そして今日も近衛騎士はきっちりと仕事をしてくれる。俺が抱えているとはいえ、見ず知らずの者を入れさせないのは良い仕事ぶりだ。
俺の奥さんになる人である事と、サルーンには伝えてあると説明をすると直ぐに確認に行き、無事に皇宮へと入る。その時には案内なども無く自由に入り、寛ぎの間へと直行する。
デルフィアに頼んだオウカへ蟹を届けてくれたのだろう、お礼かたがた来て居るようだ。まだ夕刻には早く、朝から会談の場へと引っ張り出したが為にサルーンはお仕事中の様だ。
「ただいまでーす。オウカ久しぶりだな。蟹は食ったか?」
「お帰りテリスト。流石に受け取ったばかりで未調理だよ。美味しそうだよね。何時も有難う。それより聞いたよ。奥さんが増えるって、其方の方?」
「そうだよ。名前はアンナ・アンテローゼ。皇宮で生活になると説明したら受け入れるのが困難な様でな。こんなだよ。そのうち復活するだろ」
「はははっ。胃が痛そうだね……」
「魔物ハンターギルドの受付嬢だったからな、荒くれ者相手にしてたんだ、その内慣れるさ」
その位の心づもりがなければ全うできない職業だ。特に帝国であった事から貴族や騎士の権力が異様に高い国だ。そのギルドに所属していたのだ。一つの対応の間違いから命を落としやすい。そんな帝国で生活していたんだ。心臓に毛が生えてるに違いない。
「それよりもですわ。テリストが結婚する相手にしては胸が無いですわね」
ぶっ! そんなこと突っ込むなよ!
「おいおい。本人を目の前にそれは無いだろ」
「ふん。貴方はその程度の大きさですか。まだまだですね」
復活したかと思えば胸の大きさで文句の言葉とは……もうちょっと自重してほしいものだが。
「なんですの。つるぺったんに言われたくないですわよ」
俺に降ろしてくれと頼むから降ろして、おもむろに服を脱いでいくアンナ。そしてサラシを解くときつく巻いていたのであろう、豊かな胸を晒したのだった。
頭に血が上ると見境なくなるタイプか……。これだけの面子の前で堂々と肌を晒せる度胸があるのなら問題無くなじめるなと明後日の考えをしているテリストだった。
「……ま、負けましたわ……」
「ココアさんに勝つって相当だよね。どうしてそんなことしてたのさ?」
「男どもの目線が集中するのですよ! あのいやらしそうな目で見られるのなら、少々の我慢程度なら辛くありません!」
そんなこと威張ってるけども今の状態理解してるのかねぇ。ま、本人がしてる事だし止めないけど。
此処に今も見ている男性が居るのですけども、それも直に見えてるし。
「それで、テリストは止めないのかい? 僕は眼福だから良いんだけどさ」
「さっきまでの様にヘタレてるよりは良いんじゃないの? 今日はギスギスしすぎててストレス溜まってるから丁度良いかもねぇ」
と言いつつもデルフィアに正面から抱き着いて、その豊かな胸にほおずりするのだった。
彼方は彼方で話してるしほっとくとして、オウカから話を振られた。
「テリストの元メイドさんたちだけど、僕のお嫁さんだけレベル上げるのはずるいって話しててね。レベルを上げるのを手伝ってほしいそうだよ。その、助けてあげた人たちよりも体力が低くなっちゃって立つ瀬がないみたい」
ガッツリ周囲の魔物が居なくなるほど倒して上げちゃったからなぁ。確かに体力が戻れば逆転するか。それだとあの子らには辛いな。
「そうだな。サールンとこれから相談して何も予定が入らないようなら明日上げようか。アンナを上げようと考えてたから便乗してもらおう。乳の消費が激しくて調達したかったし、行先は牛がいる62階層ね。ある程度確保したら属性竜の層へ行こうか。あ、グリフォンを帝都に忘れて来た」
丁度グリフォンの肉でも確保するかと思ってよくよく考えてみたら。別室にいたのにつれて来なかった事を思い出した。
「一晩程度放置しても死なないだろ。今日はほっとくか」
「グリフォン? 確か鳥の様な獣の様な混ざった感じの魔物だよね。ペットにしたの?」
「うむ。今はエレクティアのペットの座に落ち着いてるよ」
「はははっ。相当に強いって聞いた事あるけど、ここのメンバーの中では一番弱そうだね」
嫁さんとして迎え入れたアンナを入れなければだね、たぶん。
「徐々に強くなるよ。エレクティアが引っ張りまわしてるから」
「それで、何があったのさ? 帰って来た時表情が硬かったよ」
気が付かれていたか。顔には出さない様にと気を付けてたんだが目敏いねぇ。
「はぁ。気分のいい話じゃない。胸くそ悪くなるだけだ。そんな訳で聞かない方が良いぞ、精神衛生上宜しくないとだけ言っておく」
「何でもオープンなテリストにしては歯切れが悪いね」
「それだけの事態って事だ」
「人死にでもしたの?」
「その程度で済む話なら良かったんだがな。実行犯は捕まえてあるが、何処から命令を下したのかまで分かっていない。場合によっては連合の片割れの国王まで処刑するかもな」
「国王を処刑って本気なの? 少し程度やらかしても退位すれば謝罪になるよ。それでもおさまらないって事だよね?」
国王の所までは話さなくて良かったか、失敗したな。
国王の権力は相当なものだ。何かしら国内でやらかしたとしても謝罪すらすることなく握る潰せるのだから当然とも言える。
ただ、国外の者で尚且つ貴族位の者が被害者となれば話は別だ。この場合は金銭で解決する事になる。更にやらかした事が殺人であった場合、敵対となっても構わんと国王が判断を下せば適当に握りつぶす。これが関係修復すると判断をするならば更に大金を積むか、もしくは謝罪として国王の地位を退くのだ。
退位する事はそれだけ重く受け止め権力を放棄しますとアピールする事になる。これは国王にとって最大の謝罪の方法だ。大抵の事ならこれで済む。
「ちぃ。胸くそ悪くなるからと考えて教えないと言ったが、それだけ聞くって事は覚悟があると判断するぞ。俺たちの参戦時期を遅く調整された。それが原因で死ななくても良い命が3000人以上死んだ」
「ご、ごめんなさい」
「謝るな、オウカの責任じゃない。やらかした奴は捕まえてある。とても釣り合わないが、公開処刑になる」
「国の醜聞に関わる一大事だね。黙っておくよ」
「一時的で大丈夫だ。処刑決行時に説明しなきゃならんし、その内知れ渡る。止められようが公表しなきゃ処刑できないで押し通すさ」
「何処へ行ってもトラブルばかりだね。また一悶着あるんじゃないの?」
「仕方ないだろ。馬鹿やらかす奴がいないならこんな苦労はしないんだがな」
デルフィアの胸を堪能してるってのに、後ろからエレクティアに摑まれて引きはがされ、俺は抱っこされた。
『私の方も報告があるんだから、こっち来なさい。これよ』
渡されたのは火縄銃だった……。
「これって例のパンと音を出してた武器だよな」
『そうよ。隷属の首輪を嵌めてなかったから殺しといたわ。良いわよね?』
「問題無い。自身で戦争へ参加してるって事は覚悟してるって事だ。しかし原始的だな。連射して攻撃して来なかったのはこれが原因か。雷管を再現できなかったみたいだな」
薬莢を開発出来てない事が致命的だ。撃鉄では火花が飛ばせずに、直接火をつける必要がある事から連射は不可能となる。
『こんなのも持ってたわよ』
渡されたのは炸薬を固めた物と焼き固められた毒入りの弾頭だった。火薬の固形化をしてるからこそ少しは早かったようだが。それはそれなりにだな。
「元の世界の品と比べたらちゃちな品だな。俺も後頭部に受けたが大した威力じゃない。俺たちには無害だな。捨てて良いぞ」
たまにやらからして、注意がてらアリサにこずかれる威力の方が痛かったわ。
「テリなら作れそう?」
「無理だな。火薬作成に必要な素材が1種類作り方が不明だ。もしかしたら山を掘れば出てくるかもしれないが着火する為の雷管が作れない以上どうにもならん」
「聞いた事のない言葉が混ざってるから良く分からないけど大した威力じゃない、で良いのよね?」
「そう思って良い。はっきり言ってド素人の放つ初級魔術の方が威力が上だな。ただし、対象の抵抗力が極端に低ければとの但し書きが付くけどな」
「それでしたら異世界の武器も気にしなくて良いようですね」
このタイミングで仕事を終えて来たか。ま、変な技術者を召喚しなければ安全であろう、下手な事は言うまい。
「それよりも貴方がテリストに求婚した方でしょうが。婚約者でもない殿方に胸を晒すなど……何を考えているのですか!」
扉の方を見ていなかったアンナだったが、その大きな声での注意に、晒していた胸を慌てて腕で隠し、ギギギギッと油が切れているのかと思える酷い動きでそちらに振り向くのだった。
「こ、これはその。申し訳ありません!」
「女性としての慎みを持ちなさい。良いですね」
「は、はい。申し訳ございません」
サルーンの雷が落ちたが、そのままでは話が進まない。紹介と行こうじゃないの。
「紹介しようか。俺が、えーと、なんとか腹痛症って名前の病気を薬なしで治療したから求婚して来たアンナ・アンテローゼね、そして此方が…………」
一通り通称を交えて紹介したのだった。
「聞き間違い? テリスト、急性腹痛症を秘薬無しで治療したと聞こえましたが……」
此方は此方で疑問の様だ。アリサたちにも聞かせた説明を同じくするのだった。
「アンナ、本当に今は如何も無いのね?」
「はい。発症当時は歩く事も出来ないほどの激痛でしたが、今は一切痛みすらありません」
(異世界の医療技術を少しでも取り入れるべきかしら。しかし、そうすれば勇者召喚がより活発になるかも知れませんね。悩ましい限りです)
「そんな小さな声でブツブツ言わなくて良いって。下手に広めると後が面倒だろうな。幸い嫁さんとこの場に居る者しか知らないんだし口外禁止で良いだろ」
「そうね。それでその。剃らなくては出来なかったの?」
「腹を切り開くってのはリスクが有るんだよ。切るときは良いが、塞ぐときに余計な物が入り込んだら別の病気を発症する原因になる。唾やほこりとか、この場合は毛も同じくだ。リスク回避のためには剃るのが一番手っ取り早い。そう言う事だ」
「理由は分かったわ。アンナさん。テリストの嫁として仲良くやって行きましょう」
「は、はい。サルーン陛下。よろしくお願い致します」
「陛下は外しなさい。同じ男性の嫁同士でその挨拶は変でしょう?」
「そ、それは一般的にはそうかもしれませんが、その、恐れ多いと言いますか……」
とちる気持ちは分からんでも無いが服ぐらい着ろよ。
「アンナ。とりあえず皇国は温暖な気候だが上半身裸は無いぞ」
「そ、そうですね!」
うーむ。そそっかしい子なのだろうか、はたまた頭に血が上ると見境なくなるタイプか。ちょっと注意しておかないとやらかしそうだな。それは良いがちょっと頭を貸してもらおうかな。
「サルーン。ちょっと頭を貸してくれないか」
「テリストにしては珍しいわね。例の事かしら?」
「そうだ。捕まえた奴は会談でも言ったようにアルフォンスと言うんだが、直接交渉して来たこいつが関わってる事は確実だ。だが、どうも上まで繋がっているのか懐疑的でな、繋がって無いんじゃないかと思ってるんだよ。サルーンの判断はどうだ?」
「それだけじゃ情報が足りないわね。最後に分かれた日と交渉した日は何時なの?」
「分れたのが1月2週10日の午前中。再会したのが1月3週4日の夕刻前だったかな」
「あの隊長が関係していないとなれば通信水晶は使えず伝令を使った情報のやり取りしか出来ないのね。伝令だけで正味3日、情報を擦り合わせて罠に嵌めるには時間が少ない。罠に嵌められた事が直ぐにばれます。更にあれだけテリストに対して警戒しているヘルネスト殿が側に居る中画策するのね。
確かに総合的に考えれば可能性はごく低そうですね」
「そうなんだよね。それにだ、アルフォンスは元の隊長を助けたいと考えていた。処刑の判断を下したバーナル国王の事をどう思っているのか。そして自身は処刑が確実だ。口を割れと迫られれば……考えるまでも無いな」
「道ずれにすると考えるのが妥当。そう考えればアルフォンスですか、証言は信用できませんね」
「更に言えば、バーナル国王は元の隊長を即座に処刑すると判断を下すほど此方の事を警戒している。そんな人がバレバレの策を用いるとは考えにくいな。これはアルフォンスの単独と断定して良いと思わないか?」
「決定ですね。直ぐに解放するようにと連絡を入れましょう」
「いやぁ、サールン助かった。どうにも考えが纏まらなくてな。これだけ条件が揃えば間違って無いだろ。冤罪で殺さずに済むわ」
「皇国としてもね。バーナル王国と揉めずに済みそうで何よりよ。さ、食堂に集合よ。テリストの頼んでいた料理がどうなっているのか楽しみね。私は少し遅れるわ」
「お願いするよ。アンナ、オウカも行くぞー」
名前を呼んでおいてなんだが、最近御無沙汰なスーシーをお姫様抱っこして向かうのだった。




