43:実情
城の構造、と言うよりどの様な部屋があるのかを詳しく知らない俺……ここは丸投げすべきでしょうと。丁度いい人材が居るのですよ。
カロン伯爵、この場は家名を上げるのが良いか。サージナル伯爵にそれなりの規模の会議室に案内してもらい5者会談となった。連合3者、帝国1者、そして俺たちだ。
城に帰って来た時点でアウローラに発見された俺、突撃するがごとく合流して来た勢いを殺しながら抱き留めて、今現在は俺に抱かれた状態で会議へ参列している。
クインは暖房器具代わりにとサルーンに抱かれている。子猫サイズから若干大きくなって。
「さてさて、役者がそろった所で紹介しようか。今回皇国のトップであるサルーン・アーレアル・アヴァサレスが会議に参列なさる。なぜここに来たのか、今回の事が非常に重要な案件の為だ。場合によっては連合の両国を更地にすべく俺が動く事になる可能性があると付け加えておこうか。発言は慎重にしたまえ。
ではサルーン陛下どうぞ」
一応は事実を突きつける。余計な罠を張り巡らせた結果が、失われる必要が無かった者たちの死、それを重く見ているが為の脅しだった。
「テリスト脅し過ぎですよ。ですが、本人が言うように危うい状態である事に変わりない。前置きはこれ位で良いでしょう。サルーン・アーレアル・アヴァサレスよ」
「連合軍総司令官のタルロス・ファーシルと申します。この度はサルーン陛下にお越し頂きまして「はいはい、お世辞はいらんから次だ」」
実のある話をしたい。この場にて相手を持ち上げる為の飾りなど不要だ。
「場違いな気がいたしますが、帝国で伯爵の地位を頂いておりましたカロン・サージナルと申します」
「西の部隊長でファーシナルと申します」
「東の部隊を率いておりましたガイストです」
それで良いんだよ。横から遮った事をくみ取ってくれたようで何よりだった。
「悪いがこの場は俺が仕切らせてもらうぞ。一番把握してるんでな。さて、とりあえずはファーシナル殿だったか、西側から攻めた部隊長さん。俺たち皇国の参戦時期に関して予定日を教えてくれ」
「は、はい。女神歴1367年1月3週7日の早朝に参戦して頂く予定になっておりました。ですが、一向に参戦して頂ける気配が無い事から、南門へ斥候を放ったところ、到着すらして頂けておりませんでした」
「そうだろうな。タルロス殿、伝令であるアリフォンスから直接報告を受けたのは貴公であろう。どうだ?」
「その通りですが。参戦して頂けると返答して頂けたと聞いております。何故1日遅れたのか解せません。テリスト殿のお力であればこちらに移動するように一瞬。どうなされたのですか?」
差異があるな。アルフォンスの提示した日時が丸1日ずれている。2国の連合で、何方に属しているのか判別は不可能だが、部隊長2名が知らないとなると、やはり単独犯か? いや、ブラフの可能性も捨てきれないか。判断するのに材料が少ないな。
「ちょっと待って貰おうか。俺は返答するのに羊皮紙に書いて手渡したぞ。受け取っていないのか?」
「帝国軍に補足される事を恐れて、あえて書かれませんでしたと報告を受けましたが……」
「テリスト。そう言うからには証拠があるのでしょうね。出しなさい」
「流石サルーン陛下、そう来ないとな。割り印を押して2通作成した。これがその片割れだ。それと言っておくぞ、俺の嫁になる者が同席していたとな」
事情を知っているサルーンは後で良いだろうと連合の方へと回し読みさせた。
(8日……まさか……)
(1日遅れるように交渉した者が……)
(連合軍内にその様な者が。まさかアルフォンス)
「大体のところがお分かり頂けたようだな。皇国軍をわざと1日ずらして参戦させた輩が居るって訳だ。さて、直接交渉して来たアルフォンスは確定だ。だがな、それだけで済むかどうか分らんって事だぞ。
ここからはより慎重に答えろよ。返答次第じゃ今日中に国が壊滅するぞ。
1日ずらして参戦させ、人死にが多くなるように調整した。本来の参戦時期に遅れて参戦した皇国へ責任を押し付けようとした連中がいるかもしれないって事だ。タルロス殿、返答しろ」
「その様な事実はございません。国元からの連絡は……サルーン陛下へは大変申し訳ありませんが、貴国よりお貸し頂いております通信水晶を持ち込み連絡を取っております。
私が所持しておりますので、その様な指示が無かった事をこの場にて証言させて頂きたい」
「……戦争の連絡手段に持ち込んでいるのですか」
い、いかん。今回の出来事の内で一番激怒しているな……魔物ハンターギルドの運用の為にと貸し出ししている品を戦争に転用されてはな……魔物ハンターギルド、解体されるかもしれんな。
しかし俺の早とちりだったのか。対になる水晶同士でしか連絡を取り合えないと思っていたのだが、どれへでも繋げて連絡が可能だったんだな。
「面白い使い方をしてるな。後程別件として話そうや、勿論拒否しないよな? 拒否したら殺すぞ」
「も、勿論でございます」
「そもそもだ。それを信用できるかね。言ったよな、此方の戦力だと南部平定は訳ないと。北側は任せるから確実に落とせとも言ったぞ。まさか便宜を図ってるのを忘れてボケた事を企んだんじゃないだろうな?」
「め、めっそうもございません。物資補給でもお世話になった事は決して忘れておりません」
これ以上の追及は不可能かね。処刑決定の奴に問いただそうと、道ずれにしてやるとどんどん嘘を話しそうだしな。後は彼方のトップを直接問いただして、その時の態度、対応から見極めるのが良さそうだな。アルフォンスの身柄は頂いて取り調べは形だけにすべきだな。後程、証言は無視するようにと言っておくか。
「サルーン陛下、どうします? 決定的な証拠は出せと言っても出せません。それはお互いにですが」
「本人の確保は出来ています。尋問する他ありません。身柄は頂きますよ」
「拒みは致しません、如何様にもお調べして頂いて結構でございます」
この言葉はあまりよろしくないな。嘘の証言をサルーンが鵜呑みにすれば両国を叩くはめになる。
「そいつ、殺すなよ。皇帝連中と同じく公開処刑するから生かしといてくれ」
「この場での話し合いはこれまでとしましょう。その後の判断はテリストに任せます。
そうですね、カロン・サージナルと言いましたか、今この場で聞きましょう。何を望むのです?」
おいおい、この場でいきなりその話を振るのか。まぁ、3国の会議には出すと話していたし。ま、面子はさておき条件は見たいしてる訳だ。問題無いのかな?
そもそも部外者だ。国の対面を考えるならば恥を晒して良い相手ではない。早急に追い出そうと言う考えだろう。
ただ、これまで話した経緯に関しては話しておくべきだ。隠ぺいする為に追い出したと思われるのは癪だ。いらん勘繰りは受けたくないのでね。
「あ、あの。この場で宜しいのでしょうか?」
「この場で良いがちょっと待ってくれ。先に先ほどの件を説明しようか。帝国軍はタウラスに立てこもり住民をも戦争へ強制参加させた。
本来なら皇国の者が内側から食い破り、住民の大半を助ける予定だった。だがな、そこの転がっている馬鹿が1日ずらして皇国を参戦させた事から住民が見捨てられ被害が甚大となった。
さて、大半を助けると言ったが根拠が無ければただの戯言だが。えーと今はもう少しでお昼って所か、今朝参戦して既に落とした訳だ。この場にお偉いさんが集まってるから証明するには十分だろ。
結論としては、死ななくて良い人間が3000人以上死んだ。そこの馬鹿のおかげでな」
「そ、それでテリスト殿が激怒なされているのですか」
「当たり前だろ、奴は公開処刑する。説明は以上だ。
それで、サージナル殿は誰の命を救いたいと交渉したいんだ?」
「そ、そうですね。皇帝の奥様方をお助けして頂きたい。無理に娶られたのです。どうかご容赦をお願い致します」
予想できる選択と言えば、それが確率的に一番高いだろうとは思っていたが、外れなかったか。
「やっぱりそれか、俺は無理だと判断する。さて、他はどうかな?」
「僭越ながら申し上げます。連合、この場合両国共に皇帝の家族、並びに公爵家に列する者は全員処刑すると判断を下されてお出でです。皇国が処刑に反対なされれば、身柄確保の第一の功績から、改めて審議なされるかもしれませんが、望みは薄いかと」
「3国揃って処刑にさんせいと言う事で、貴殿の申し出は却下とする。
これだけでは納得しないだろうから理由を説明しよう。生かしたまま放逐すれば後々旗頭に据えられる恐れがある。そうなれば現時点で処刑するより多くの者が巻き込まれる。よって、俺は処刑すると判断を下した。
それとだ。サージナル殿。貴殿に課したカーラからの役目は白紙撤回する事とする。ただし、屋敷は此方に明け渡してもらおうか。マジックバッグは譲るのでそのまま貴殿の身は自由とする。同じく今後は帝国の伯爵だと身分を振れるのは禁止させてもらうが、如何かな?」
「はい。温情を感謝いたします。失礼いたします」
がっくりした感じだが命があるだけマシだろう。元々は殺すつもりだったしな。彼はそのまま出て行き2階へ。そして家族を連れ城を後にした。
「さてと、残るは通信関連だな。サルーン陛下。どうなさいます?」
「回収します。タルロス殿、貴殿が持っていると言いましたね。この場で返しなさい」
「そ、それは。戦争終結までお待ち頂く訳には……」
「お黙りなさい! 他国に攻め込み、情報を円滑に行う為に貸した訳ではありませんよ。魔物に対する世界平和の為に貸し出しているのです。用途外の使い方をするのであれば問答無用です」
ここまで断言された上で返却せねば敵対と考えられる。元々善意で貸し出されていた品だ。戦争用に使用されればたまったものでは無い。情報伝達手段の乏しいこの世界にとって、距離の概念無しに連絡が出来る事は破格の性能であったのだ。
こうして回収される事となった。
「もう1つ回収しなければなりませんね。テリスト、頼めますか?」
「回収するのは良いがちょっと待ってくれ。タルロス殿。今日タウラスの町を落としたが、帝都から北を落とすのに後何日ほど必要だ?」
「そ、そうですな。要害の地は落としましたので残る町の抵抗はそれほどでも無いでしょう。このまま3部隊で運用すれば10日も見積もれば可能と判断致します」
案外早いな。予定よりだいぶ早い。少なくとも1月は考えていたが、それはそれか。
「なるほど。それに合わせて3国会談をしますかね。いや、3国交渉の席と言うのが正確かな。どうします、此方から伺っても良いですよ。先に俺だけがお伺いさせてもらいますけどね。そこら辺の調整はできてますかね?」
「ど、どうでしょうか。そこまで踏み込んだ調整はしておりませんので」
「ならこうしますか。サルーン陛下、今すぐ繋いでお伺いしましょう。そうですね、あちらの都合をお聞きしましょう。こちからか出向く方が良いのか、此方にお出でになるか」
「それも良いですね。少し待ちなさい」
電卓でも抑えるかのようにあちこちをポンポン触っているが、その調整? が終ったのだろう。俺の方へ差し出して来るので俺が受け取った。
(タルロスか、この様な時間にどうしたのだ。また緊急要件か?)
「申し訳ありませんね、タルロス殿ではないのですよ。先ずは名乗りましょうか。皇国アヴァサレス所属、副団長のテリスト・ファーラル・アーレアルと申します」
(これはこれはご丁寧に、御高名はかねがねお伺いしておりますぞ。ヘルネルト・ガルサス・カーリスと申します)
「ヘルネルト陛下とお呼びしても?」
本来なら陛下では無く様付けでなければならないが、これだけのメンツが居るんだ。この場は持ち上げてやろう。
(それは良いですな、テリスト殿とお呼びしてもよろしいかな?)
「いえいえ。婚約しているとはいえ一市民にすぎません。テリストで結構でございます。少々お時間を頂きたいのですが宜しかったでしょうか?」
(緊急事態の様ですからな。お伺いしましょう)
「有難うございます。本日午前中にタウラスは制圧致しました。後は町を守備する者たち程度で大した戦力は無いものと思われます。その事から10日以内に帝都を含めず以北は制圧可能との頼もしいお返事を頂きました」
(それは素晴らしい報告ですな。今回の緊急回線は会談の日時を取り決めたい、そう言う事で宜しいのですかな?)
「左様です。私が一度其方へお伺いすれば【ゲート】の魔術で即座に移動が可能にはなるのですがどう判断されますか? やはり現地がよろしいでしょうか?」
(今後実効支配しますからな、現地がよろしいでしょう。そうですな、予定のやりくりも必要です。2月3週1日などは如何ですかな)
流石トップなだけあり決断が早い。指定日以降であれば、長くなる分には調整可能だと判断しておこう。此方は、移動の手間が省ける分、時間的な余裕がかなりある。
そもそも、交渉は俺がする予定であるし、予定が突然詰まろうと問題無い。
「少々お待ちを。サルーン陛下、俺が交渉するので出席されなくとも良いですがどうされます?」
「出席します。テリストのみでは暴走しそうで怖いですからね。ヘルネルト殿お久しぶりですね」
(その声はサルーン殿ですか、おられたとはお人が悪い)
「人が悪いとは人聞きが悪いですね。どちらの国から通信水晶を持ち込んだのか分かりませんが、此方の言いたい事はお分かりですね?」
(こ、これは、大変申し訳ございません!)
弱みを握られてるなぁ……。謝罪するとしても、他に誰も居ない場で、相手を気づかうものだ。それを気にする事無く謝罪するのだから、相当だろう。
「謝罪は不要です。回収しますから帝都での会談の場へお持ちなさい。お持ちいただけない場合はテリスト直々にお伺いしますよ、良いですね!」
(そ、そんな! 会談の場でぜひお話ししましょう!)
「会談の場では覚悟をして下さい。それより難問が発生してますよ。場合によってはテリストが貴方方を殺すと申しております、ご覚悟なさいませ」
(な、なんですと! 其方にタルロスは居ますか? 居るんだろ! どういう事だ説明しろ!)
お気の毒に……ま、芋ずるの様に繋がっているか不明だがな。何処まで繋がってるやら。気の毒なので渡してやると頭をペコペコ下げながら説明をするのだった。前世はコメツキバッタだったのかもしれないな。
(またシャーナルの手勢か! 1度ならず2度までもどれだけ足を引っ張れば気が済むのだ! おい! シャーナルの連中を拘束しろ! そのまま帝都の城まで送り届けろ! 即刻だ! ついでに奴の首も持って行け! 塩漬けにしてる奴の首だ!)
命令が駄々洩れなのですが……。これ、連合に亀裂が入るんじゃねえの……。いらん世話だがこんな所で頓挫してほしく無いものだな。首って事は既に処刑した後か。化けて出るなよ、俺の責任じゃない。
しかしこの慌てよう、俺が殺しに行くって事は一人で行くてことだ。それに対するこの切羽詰まって即座に対応する事からこちらの御仁は白だろうな。本当ならたかが1人と侮り適当に流しそうなものだがねぇ。
そうすると、国元に連絡手段は伝令を飛ばすか通信水晶による連絡のみになる。通信水晶での調整は不可能な時点で伝令を飛ばす1本に絞られる。首都までの距離次第だが、皇国を罠に嵌める算段を付け実行に移す時間があったのかね。
単に命乞いに関して突っぱねられたことに対する嫌がらせだったのかとも思えて来るな。
(お騒がせしましたな。そう言う事です。焼くなり煮るなり好きにして下さって結構ですぞ。なーに、我が国と皇国の連名で処刑したと公表致しますゆえ心配要りません)
「まあまあ落ち着きください。冤罪で殺しては寝覚めが悪うございますよ」
(テリスト殿は寛容ですな。判断はお任せしましょう。どう転ぼうとも支援させて頂きますぞ)
相当に激怒されてるな。前の団長と親しかったアルフォンスが交渉した際に発生した問題だ。相手国の犯行となれば完全にとばっちりだろう。命の危険があるとなれば、それは当然怒るか。
それよりも補足事項が増えたな。
「それよりもシャーナル様ですか? 拘束してしまってはバーナル国の代表者が居なくなります。何方か代理の方に来て頂かなくては交渉が頓挫してしまいます」
(国王が馬鹿な事をしたからと言っても功績は有りますからな。其方に関しては国元へ此方から伝令を送りましょう。会談に間に合うよう厳命しておきます故お気になさらずに)
「よろしくお願いします。タルロス殿。この水晶は回収させてもらいますので、今の内に報告する事が有ればどうぞ」
「そ、そうですね。ガルサス陛下、タウラスの町は孤立していた為に食料物資が全く足りておりません。我々の兵站部隊の品を配らねばかなりの民が餓死するものと……」
(将来の民の為だ致し方あるまい。しかし、買い付けるにも品が無いのであろう。近隣の村々から買い付けるにも限度がある。どうしたものか)
「テリ。帝国軍の軍事物資を押さえたのを提供なさい」
「アリサが良いなら提供するが、どうやって消費するか分かって無かったしな。そう言う事です。確保した全量を提供させて頂きますよ。代金は落ち着いてからで構いません」
(それは有難い! タウラス、全て記帳し抜けが無いよう補完するように!)
「はっ。テリスト様有難うございます」
(ふむ。そろそろ魔力の限界ですな。何も無ければこれまでとしましょう)
「ヘルネルド陛下お時間有難うございました。失礼いたします」
(優位意義な時間でしたな。失礼いたしますぞ)
起動方法も止め方も分からないのでサルーンに丸投げだ。これで会談は閉会となった。




