35:来訪アンナ・アンテローゼ
1階のエントランスへ行くと、入り口に御者が来ており挨拶をしてくれた。その女性はステーツからの来訪者だという。なんでも病気を発症し、動くに動けない状態であるらしいのだ。
ステーツと言えば先日解放し、遺体回収やらを頼んでおいた町だ。書類は取りに行くと伝えていたが、彼方から運んでくれたのだろうか? 何にせよ、この天候だ、風邪で高熱でも出たのかねぇ。
「ここまで送ってくれたことに礼を言う。これは謝礼だ、受け取ってくれ」
金貨10枚を強引に受け取らせ。どんな状態なのか話を聞いてみた。
「礼は良いからどんな状態なんだ?」
「テリスト様でしたか? 急性腹痛症という発生したら2日程度で死に至る病をご存知でしょうか?」
そう言えば、此方に来てから病気の名前を聞いたのは初めてだな。人体の構造がほぼ同じならば、何かしらの病気に当たるだろう。それなら、何とか対処の使用もあるかも知れないな。
「聞いた事無いな。病名からして腹痛が急に起こり、対処法が無く死に至る。で良いのかな」
「そうです。発症したのは昼食後まもなくです。猶予は2日といった所です」
「魔術の【オールキュア】でも治らないのか?」
「左様です」
【オールキュア】は病気治療の【キュアウィーンズ】をも含んだ魔術だ。それが効果を発揮しないとはどんな難病に掛ったのやら。対処法が無ければヴァルサル様にでも1歳年齢低下させて時間の保持を頼む位しか対処策が思い浮かばない。それも症状を確認してからか。
「ちぃ、厄介だな。とりあえず運び込もう」
馬車は後ろ手から乗り込むタイプのようだ。扉をあけると蹲るアンナ・アンテローゼが居たのだった。
担架が無い。ベッドを取り出して代用とし、極力揺らさない様にベッドに寝かしつけて毛布をかけ、4階まで運び入れるのだった。
アルフォンスはどう対処するのか知りたい風であったが帰らせた。元の世界の技術云々など知られたくは無いからな。
「まさか来たのがアンナとわね。彼女は一昨日か、魔物ハンターギルドで世話になった人だ。さてと本当に治療不可能なのか試さなきゃな【クリーン】【グレーターヒール】【オールキュア】どうだ?」
話すのも辛いのか顔を横に振って治療が出来てない事をアピールする。
「この病気には効果無しか。これは部位を特定しないと無理だな。ちょっと真っ直ぐなってくれ。それと、下着姿になってもらうぞ」
「テリ。どさくさに紛れていやらしい事をするつもりじゃないでしょうね?」
診察しなきゃならないのにそっちかよ。よりにもよって嫁さんだらけの中でエロイ事するとか、俺は命を粗末にするつもりは全くない。
「部位の特定だよ。病巣を取り除かないと危ないんだぞ。ちょっと手伝え」
「テリクンは下がってて下さい。私たちでします」
真っ直ぐ寝るのは痛いのだだろうがここは我慢してもらい下着姿になってもらった。お腹は丸出しだが。
「それじゃ質問だ。どのあたりが痛い? 全体か右か左かどっちだ?」
「右。少し下」
「ちょっと押さえるぞ。一番痛い所を教えてくれ」
痛くないと言っている左側から順に縦に押さえていき。右の骨盤から僅か数cmの場所だと特定できた。
それは。日本でも昔は治療が分かっていなかったころ。結構な死人が出たと聞いている。場所からして盲腸だろう。切開して切り取らなければ2日程度の猶予との言葉にも当てはまる。
「ヤヨイとリカなら大体の判断は可能だよな? 俺の見立ては盲腸だと思うがどうだう?」
「私には、その、分かりません」
ヤヨイが召喚されたのは小学生の頃だろうからその知識は得ていないか。
「きっと盲腸ね。切除しないと治らない」
リカは俺と同年代だ。俺は友人が虫垂炎を発症した事から知っていた。学校が同じだったので知ってたのだろう。
「おっと。聞きたいことは分かるが後回しだ。俺は必要な品を買って来る。皆は熱湯をデカイ鍋に7割程度準備と、彼女の股間の毛を処理してくれ」
一方的に告げて【ゲート】を発動して皇都に転移した。場所は皇宮前だ。そこから服飾屋に行き。新品のシーツと裁縫用の針を5本。糸。斬る部分の短い精密ハサミとラジオペンチの様に挟むかんしを3つ。それに大きめのタオルだ。挟み込んで手を放してもロックしたままに出来るロックピンセットがあれば最高だったのだが、無い物は買いようがない。こうして買い物を済ませた俺は部屋の戻るのだった。
手術台の代わりに調理用の台を取り出してシーツを敷く。器具を置く為にもう一つを出して買て来た品を準備する。
縫いやすい様に針を曲げて釣り針の様にしたり、糸を通したりだ。所持しているミスリル製ナイフの一番小さな品に【エターナルエンチャント/ファイアブレードLv1】を付与する事も忘れない。
そしてもう二つ作る必要がある。ミスリルの塊を取り出して【鍛冶スキルオン】から、切開した切り口をホールドする品を作る。左右から邪魔にならない様に角度をつける事も忘れなかった。
「こっちは整ったぞ。そっちはどうだ?」
「とっくに整ってるわよ。もしかしてその台の上でするの?」
「術中に体が動いたら危ないからな。固い方が患者の体が動かない。さて、ド素人の俺が執刀するから安心して寝てくれ」
何処が安心できるのか……。この病の対処法を知ってる風だが。何分初執刀だ。安心しろと言ってる時点で無理がある、皆馬鹿だろこいつと言った目線を向けて来るが、そこはスルーして下半身素っ裸の上に股間がツルツルのアンナを台の上に運ぶのだった。
後は俺たちの身形を整える。マントを逆向きにエプロン代わりにし。買って来たタオルをマスク代わりに、もう一枚を帽子代わりに装着したのだった。無菌室があれば一番良いのだが、そんな都合の良い部屋なんてない。そこで【クりーン】にMPを多めにつぎ込んで発動させて場を整えた。
「アウローラは大丈夫だが、クインとグリちゃんは近くに来るなよ。毛が入って結合すると化膿するからな。さて、これより誰もしゃべるな。喋るのは俺だけで他はサポートに徹してくれ。それじゃ始めるぞ【マナドレイン】」
首を叩くなり顎を叩いて気絶させるより確実な方法だ。麻痺毒を麻酔代わりに利用できそうなものだが此方の方が痛みは全く感じさせないで済む上に、患者が動かないので手元が狂う心配も無い。闇魔術有能である。
ド素人執刀医なのですまないが、大きめに切り開かせてもらう。患部を中心に15cm程度を切る。ナイフに火を付与したのはレーザーメスの代用だ。内臓内に血が溜まれば対処するのが難しい。そこで、毛細血管は焼き付けて血が出ない様にする。その為だった。
浅く切り付け何度も往復させ、徐々に切り開いていく。一部到達したら精密ハサミに変え、引き上げながら全て切り、ナイフに変えて焼き付けておく。
開いておく器具を二人に持たせて固定してもらう。
確か盲腸は大腸の端だったはずと探してみれば直ぐにわかる。一番下の脚側にぴょこっと突き出ているのだ。
根ともをギリギリで一度縫い。そして切除から焼き付けて【ヒール】を掛け。抜糸後に腹部を治療する予定だったのだが縫うまでも無さそうだ。
素手で持ち上げハンカチを敷き。大腸と盲腸のギリギリをカンシでがっちり掴み、ナイフで切り取る。それで焼き付けも完了だ。1mm少々残るがそのままナイフを当てて焼けば問題無い。そして【ヒール】を掛け、ハンカチごと患部だった盲腸を取り出せば終わり。
後はお腹を塞ぐだけ。段違いにならない様に奇麗に揃えて【グレーターヒール】を掛ければ完了だ。火傷も瞬間的に治り。本来【グレーターヒール】を掛けると患部まで再生してしまうが、先に【ヒール】を掛けて治療しているので再生はしない。こうしてアンナの緊急手術は完了した。
タオルを熱湯に浸して固く絞り。拭いてあげた。殺菌するために準備した熱湯だったが要らなかったかも……。
ベッドに寝かしつけ、2時間もすれば目が覚めるだろう。MP枯渇による気絶なので一定水準まで回復すれば気が付くお手軽全身麻酔術だ。気絶だが。
「はい、皆お疲れ。これで手術は完了だな。2時間もすれば目が覚めるだろ。もっとこう、出血対策で縫う必要があるかと準備をして来たが不要だったな。手間が掛からず幸いだった」
「テリ、これだけの事で治るんでしょうね?」
「赤みを帯びて腫れてたからな。あれで大丈夫だ。切り取ったから再発もしない。なんなら予防手術するか? 先に取るとこの病気は発症しなくなるぞ」
「嫌よ!」
「だろうな。俺も嫌だし。偏った食事をしない事だな。バランスよく食べるのが一番だ。それでもなるときはなるから理不尽だけどな。さて、食事にしよう。昨日ヤヨイとリカが準備してくれてるからな」
食後。皆で雑談していた所で気がついたアンナだった。




