33:蟹三昧
ヤヨイとリカは召喚魔方陣のある神殿の方へ行っているようだ。その他の皆は寛ぎの間と化した部屋に集まっていた。
「テリの方はどうだったの? こっちは人通りが少なくて商店もあまり開いてなかったから帰って来たわ」
この悪天候ではなぁ。店もお客が来るか怪しいからと、それならいっそ休店を選んだか。
「俺の方はかなり手を込んだ出迎えがあったぞ。降伏しますと言っておきながら油断を誘ってな、麻痺毒を盛った茶菓子を食べさせて、効果が出たら隷属の首輪と魔封じの腕輪を嵌められたぞ。
経緯はどうあれ、相手の伯爵だったか、そいつに力を借りてな、騎士と衛兵を全員集合させて奇麗にかたずけて来た」
「テリクンの事ですからわざと食べて、麻痺になったと思わせたのでしょうね。隷属の首輪を装着されても大丈夫だったのですね」
失敬な。外側だけは普通に作られていて鑑定に出なかっただけだ。手の込んだ作りで罠に嵌める事に成功したが、俺の能力がその上を行っていた。単なる自滅に終わっただけで手も掛からず、俺としては時間短縮になって良く企んでくれたと表彰したいほどだ。
「ああそれな。スキル使用禁止を言い渡されたんで、魔力の圧に耐え切れずに千切れ飛んだわ」
『何とも間抜けな事ですね。それでビビった伯爵は本当に降伏し、戦力を集めたのですか』
「少し違うが似たようなものだ。ただな、俺が1人だからと調子に乗った奴がいて、すべからく全員殺させてもらったわ」
「最後の最後に馬鹿な真似をしたものね、それで。何故遅かったのよ?」
「税収禁止と見回りの業務を発注して来たんだよ。それでどうする? 一度皇都に戻るか?」
『グリちゃんを迎えに行くのも良いわね』
好き好んで寒い場所に居たくはないらしく、移動が決定したのだった。ヤヨイとリカは残るそうだ。折角なので昼食は外で食べろと伝え、皇宮へと転移したのだった。
『皆戻って来たのだな』
寛ぎの間で寛いでいるデルフィアに迎えられたのだった。が、グリフォンが居ないな、何処に行ったんだ?
「ただいま。雪降って天候が荒れててね。活動出来ないから戻って来た。それで、グリフォンがかなり大食らいだから迎えに来たんだけど、どこ行ったの?」
『ココアがどうせなら鞍を作りましょうと言って出かけた。昼頃には戻るのではないかな』
「なるほど。確かにそのまま乗るよりは安定するな。それなら彼方で仕入れた食材を塩ゆでして提供するか。とりあえず1匹で良いかな」
数m級の大きさだし、家族で食べる分には足りるだろう。
「待ちなさいテリ。あれはそのま茹でられないわよ。何か専用の鍋を作ったらどうなの?」
確かに2mクラスの具材を切りもしないで丸ごと茹でれる入れ物は無いな。鋼の巨大鍋でも作るかな。
ここは鍛冶スキルの出番な事から丁度良さそうな台はカーラの父親用の仕事机が一番最適だろう。木製でかつ重厚感あふれる品だ。それなりに大きいのでもってこいだろう。
「だな。ちょっと作って来るわ。あ、そうだ。買って来た調味料を一通り渡すから料理長へ渡してくれないか?」
調味料は全種類を説明してもらったのだが、流石に全ての品を確認するには時間が掛かると判断して、途中からそのまま回収へと舵を切った。食材なのは分かっているので後程調べるつもりだ。
「良いわよ」
全部は把握していないが為に、1つ1つ樽を開けて渡したのだった。
お隣の就寝用部屋に行き仕事机を取り出して制作に没頭する。素人鍛冶師が作る品だ。金属の厚みが半端では無くかなり歪んでおり、お世辞にも売れる品とはとても言い難い鍋が出来たのは言うまでもない。
流石にここでゆでる訳には行かず。またもや訓練場の端っこを間借りして茹でたのだった。塩をひとつかみ入れた塩水でだ。
そんな事をしてたのもだからとっくに日は傾き夕刻だ。部屋へ戻るとサルーンも仕事を終えて部屋に戻って来ていた。
ココアもグリちゃんの鞍を発注したのだろう、戻って来ていた。肝心のグリちゃんは馬と一緒の厩舎に居るようだ。
「サルーンお疲れ、あの後どうだった?」
その話を振ったものだから盛大なため息とともに話し始めた。
「功績と利益が何1つ自分たちに入らなくなったから。テリストと揉めていた伯爵の彼は相当に追い込まれてました。
内政干渉は極力避けると言ってた手前。テリスト、どう取り繕うつもりですか?」
「取り繕う? それはどんな意味でだ? 人を使った事に対する対価はキチンと支払うぞ」
「そうではありません。少なくとも皇国の利益を取り上げた形です。内政干渉しないと言った手前。貴族に対する取り繕いはどうするつもりです?」
「ああ、なるほど。理解できたわ。内政干渉しないと言ってたが内政干渉した。その取り繕いをしろって事だな」
「そうです」
「しないぞ、全くな。よく思い出せよ、あの所信表明の言葉をな。
極力内政干渉はしませんが、世界にとって害悪と判断した場合には動くと明言している事を忘れたのか? 俺は異世界からの強制連行は世界にとっての害悪だと判断している。だからこそ動いてる。
他国への侵略戦争なら俺は動くつもりは全くない。そこを履き違えるなよ」
「確かに言っていましたね。それが今回は当てはまると判断したのですね」
「そうだ。そもそも結婚式に調整する予定が前倒しになっただけだ。
もしかしてさサルーン。サーシャが全く国営に関して手伝いもしていないが権力も全くないよな。これって俺の様に干渉しないと決めてるのか?」
「……そうね、その通りよ。力を持てば利用される恐れがある事から全くの一般として生活していたのよ」
どんなに権力を与えず放逐しようと人質としての価値は計り知れない事を理解してるのかねぇ。確かに皇家を敵に回す手段な事から相当なリスクを背負い込むが、手としては悪くはない。
それこそ法改正を条件に突き付ければ、相当な難件で無ければ飲むだろう。そうしなければ肉親が死ぬからな。そこら辺りの危機感が足りなすぎる。今でこそレベルが極端に上がっている事から杞憂ではあるのだがね。
これは指摘しても意味が無い事か、昔の事を引っ張り出して注意しようとお互いに傷つくだけだし。
「それじゃ質問だ。俺もサーシャと同様の立場で居た方が良いのか?」
「時と場合によるとしか答えられません」
運営の改革で良い方法があるなら取り入れたい。だが、揉めるようなことは避けたいのでそちらは不要と考えれば良いのかな? 良いとこどりだが、政権担ってる者からすれば当然であるな。俺としては釈然としないが、目線を変えればその考えは非常に良いと言える。
「了解だ。ただこうしよう、今後一切会議には出ない方向で頼む。ただし、報告とか連絡しなければならない時だけ、その事に対してだけ出るとしようか。どうもこちらの貴族と俺とでは考え方に隔たりがあり過ぎるからな。今までがうまく行ってたのなら俺の発言は不要だろ?」
「出席するたびに揉めていますからね。昨日の1人目の反対した者は降格処分するほかありませんでした。これでは運営が危ぶまれます。その案を取り入れましょう。
帝国の占領は順調ですか?」
『降雪が凄くて難航しています。今日も朝から攻略予定でしたが途中引き返しました。成功したのはテリストが攻めた町が1つだけですね』
「そう言う事かな。現時点で大小合わせて4つを解放済みだ。残りは7つほどか。天候が良ければどんなに遅くとも4日で終わる。後は衛兵役として巡回業務に専念するのみだな。
それはそうと彼方で勇者が開発した調味料とかを確保して来た。えーと何蟹だっけ? でっかい蟹を確保できたから茹で蟹にしてあるから楽しみにしてくれ」
「それは料理の幅が広がりますね。
皇国でも海産物として蟹の荷揚げはありますが。大きい蟹は揚がりません。魔物のドロップでしょうか?」
「そうだと思う。流石に2m近い箱に入るような蟹にはお目にかかった事が無いよ」
「2m? も、もしかして陸甲大蟹ですか?」
「どうだったっけ?」
「テリも結構記憶力が無いのね。サルーンさんの指摘の通りに陸甲大蟹です」
「素晴らしいです! 早速食事にしましょう。そうしましょう!」
下級竜の時もそうだったが。何時にも増してテンションが高いな。やっぱり超高級品だったりするのかな?
「まったまった。ヤヨイとリカを迎えに行って来る。流石にのけ者は良く無いからちょっと待ってて。【ゲート】」
迎えに行くと俺たちが帰って来れば直ぐに料理を出せるようにと準備を済ませていたそうだ。今日の夕食は皇宮で食べよう。今日作ってもらったのは明日に頂くよとフォローして転移したのだった。
皇宮の食卓は兎に角広い。席は半分も埋まっていないのだから当然か。早速今日のメイン食材である茹で蟹を歪な鍋を取り出して引き上げるのだった。
『大きいな。これほど大きな蟹を見たのは初めてかも知れん』
「俺もだな。あっちじゃ大きくても3,5kg程度が最大だったし。これ絶対に30kgはオーバーしてそうだ。
さてさて。いつもお世話になってるから今日はこいつを振舞いますか」
その言葉にランランと目を輝かせる一同だった。
食卓の上で切り分けるのは傷が入りそうで怖い。そこで獣王国からかっぱらって来た調理台を取り出してその上で捌くのだ。足を全部切断して、甲羅を下にしてバックリと剥がすと蟹味噌たっぷりで食べ応えがありそうだ。今回は清酒が手に入ったのでこれを注いで加熱し、蟹味噌甲羅酒と行こうじゃないの。
其方は後回しでとりあえずはエラを剥ぎ取り食べやすい大きさにぶった切り大皿の上に積み上げる。
「適当に取って食べてくれ。俺はする事が有るんで取っておいてね。クインとアウローラにも食べさせてくれよ」
その場に居ると邪魔だろとばかりに詰め寄られるので甲羅と共に横にずれ、清酒の入った酒樽を取り出して甲羅の中へと柄杓で投入してかき混ぜる。後は生活魔法の火種を使い、少しずつ加熱して湯気が出るまで温度を上げれば完了だ。
好き嫌いがあるかもと各自のコップに3割ほど入れて配り。好みに合うようなら各自ついて飲んでくれと伝え、俺も蟹にありつくのだった。
その時は誰も言葉を発さずに食べまくっている。クインとアウローラをそっちのけで……。俺は足と蟹味噌の付いた胴体部分を確保して、足の身を取り、味噌を塗りたくって食べさせてあげるのだった。
そしてやっとありつけた。いやぁ肉のうまみと甘さが尋常ではない。塩茹でした事からその甘さが引き立てられており、無言で食べているのも頷ける。これは確保に行かねばならないと心に誓い、堪能するのだった。




