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30:罠

 皇宮から帝都へ戻った翌日、分散して事に当たる事となる。テリストとエレクティアはそれぞれ単独で制圧に、アリサ、カーラ、クイン、アウローラは制圧した町の巡回へと出かける事となった。

 人死にシーンを極力アウローラへ見せない為の配慮だ。当然の様にアウローラは嫌がったがエレクティアの説得と、前回の様に何日も留守にはならず毎晩会えることを念押しして、納得させたのだった。


「そろそろ近場の町から帝都を取り戻そうとする動きがあっても良い頃合いだからな。お隣の東を真っ先に潰して来るわ。

 午前と午後で1つずつ潰せればいい方かね」


 前にカーラたちが攻めたのは西方向だ。1つ町を落とせばまた帝都に逆戻りでは効率が悪い。その為に東は攻めなかったが、そこは俺が転移すれば良い話だ。あまりにも早く飛ぶと被害が出るからな。高く飛べば解決する話ではあるが寒いものは寒いのだ、高度を上げれば余計に、ほどほどが良いのだよほどほどが。


「門を守る衛兵を処理する時には気をつけなさいよ。パニックになったら死傷するんだから」


 騎士や衛兵がどうなろうと知った事では無いが、一般市民を巻き添えにすると皇国の評判が落ちる。戦争なので割り切るしかないが、極力配慮する事を忘れない。


「側に寄ったら旗を掲げて接近するさ。そんな訳で行って来るわ」

『それよりもテリスト。皇宮からグリちゃんをこっちに呼ばないと食料調達が大変よ。ただでさえ大量に食べるのよ』


 何人かには肉を持たせていはいるが。言うなれば緊急用だからな。本来なら俺が確保してるのを与えるべきだ。エレクティアの使い魔にする事から連れて来た方が良いか。


「ん~、分かった。夕方行って来るわ。もしかすると帰りが遅くなるかもしれないな」

「遅くなりそうなら迎えに来ればいいでしょ。その時帰って来てるならついて行くわよ」

『それが良いわね』

「了解っす。それじゃ行って来る。俺は大丈夫だが、無理だと判断したら引き上げてくれ」


 ただ。よりにもよって悪天候だ。吹雪では無いが雪の降る量が尋常ではない。これは視界が悪すぎると言わざるを得ない。

 そんな中で飛んで行くのだった。


 見通しが悪くも、外壁が確認出来た事から地上に降り、国旗を取り出して接近するのだ。町から出て行く行商人やらハンターたちとすれちがう。我関せずを貫き、此方を見ようともしない。

 よくよく近寄ってみれば、外壁門の両脇には白旗が掲げられていた。

 無抵抗の者をなで斬り虐殺は戦争の作法として良くないと言っていた。どうしたものかな……。

 

 更に接近し、門入り口直前まで行くと俺が歩みを止めざるを得ない様に、その付近にいた騎士や衛兵であろうか、5列横隊の4列で20名が最敬礼と共に、最前列の者が俺へと降伏して来るのだった。


「皇国アヴァサレスの方とお見受けします。カーリバル伯爵旗下、皇国に対し降伏いたします」


 やっぱり降伏か。身柄拘束したところで身代金支払いすら払う者がいないからな。なで斬りにしたい所ではあるが、将来の資産にはなる。なりはするが住民感情はどうかな。

 散々権力を振りかざして傍若無人な行動してた連中がそのまま政権樹立した旗下におさまれば、配下とした側もその程度かと住人が判断を下すだろう。

 そうならない為に排除したいんだよな、ちと保留しとくか。


「受ける受けないはとりあえず置き、名を名乗ろうか。皇国アヴァサレス所属、副団長のテリスト・ファーラル・アーレアルだ。カーリバルの元まで案内しろ」

「は、はい。此方になります」


 馬車でのご案内だったが断り、歩いて行かせる。対応は可能だが馬車では外が見えない為に後手になりやすい。一般人に紛れ込ませ、馬車ごと殺しに来るかもしれないからだ。ま、死にはしないが良い気分では無いからな。

 アークサルト王国と隣接し、玄関口にあたるので発展しているようだ。この天候からか生憎と行きかう姿は少ないが、荷馬車や箱馬車に限られるが相当数帝都へ向かっている。

 その中逆走するように、町の中心部に建つ領主館へと案内され、1つの応接間へと案内された。

 そして振舞われたお茶には何も細工はされていなかったのだが。焼き菓子に細工が施されていた。鑑定されても毒物が発見できない様に二重で作られていたのだ。

 主を呼んでまいりますと席を外し、メイドが準備した事から全員グルなのであろう。


 それに気が付かず食した俺に異変が出る前、その罠を指示した者が部屋へとやってきた。


「お待たせして申し訳ありません。サウス・カーリバルと申します。テリスト様、で宜しかったでしょうか」

「そうだ。で、皇国に対して降伏したいと聞いたが本当か?」

「勿論でございます。皇帝が捕らえられた現状では降伏以外、我々のとるべき道はありません。国際的な制約に則り、扱って頂けたらと思います」

「ふむ、良かろう。連合との協議も必要だ、が、それ……き、貴様、な、何を…………」


 麻痺毒を盛りやがったなこいつ。何とか喋れるが体が言う事を聞きそうにないか。さて、こいつは何をするつもりかな。

 さっさと解除も出来るが、何をするつもりなのか興味がある。ほんの少しだけ協力してやろう。


「ふぅ。やっと効いて来ましたか。即効性のマージマタンゴの麻痺毒を盛ったのですが効き目が悪いですね。

 おい! 隷属の首輪と魔封じの腕輪をこやつに嵌めよ!」


 待機していた騎士が、麻痺して動けない俺に首輪と腕輪を装着した。


「命じます。一切の魔術の使用の禁止、スキルの使用の禁止、我々に対する危害を加える行為を禁止します」


 これが悪手だった。スキルの使用禁止を命じた事から魔力操作を封じ込められたのだ。普段は漏れ出ない様にと体内で循環させている。

 そうしなければ体外へ圧を放ってしまうのだ。それでは生活に支障が出る。主に屋敷の破壊という面でだ。

 氷属性の下竜防具は結構な耐久性があるので耐える事が出来たのだが。装着された隷属の首輪と魔封じの腕輪はミシミシと音をたて、耐えきれなくなり弾け飛ぶのだった。

 間髪入れずに【オールキュア】を無詠唱で施して麻痺毒を治療した。同時に魔力操作で体内循環を開始する。

 殺そうとせずに拘束した事から交渉に利用するつもりだったのだろう。俺なら皇帝を解放する交換条件として、相手の重要人物を押さえ。直接取引を持ち掛けるからな。


 拘束具が飛ぶのを見たカリバールとその騎士たち。何が起こったのか理解できずに口をパクパクと金魚の様に何も言葉を発せずにいた。


「なかなかに刺激的な味だったな。で、俺を拘束して何をするんだ? なんなら協力しようか?」

「……、ななぜだ。麻痺し、完全に拘束したはず! 何故拘束できない!」

「なんだ、そんな事も説明しなきゃならんのかよ。単に俺の魔力に耐え切れずにぶっとんだだけだ。ついでに言うが即死でもしない限り毒の治療は慣れてるんでな、あんなもん効果が出た内に入らんな。

 ほら、次の手はなんだ? 武器も持たずに俺は座ってるだけだぞ。側に騎士がいるんだ、殺せと命令したらいいだろ」


 何をして来るのと催促した訳だが、顔が凍り付き冷や汗ダラダラである。暖炉で暖を取っているのに不思議である。


「う……」

「つまらんな、そんな根性で仕掛けて来るとか馬鹿すぎて話にならんが、皇国に降伏するって話だったよな?」


 青白い顔をしてプルプル震えているが、この問いかけにやっとという感じに答えたのだった。


「そ、そうです。皇国に全面降伏致します」

「なるほどなるほど。策が潰えたから改めて降伏致しますてっか。

 ちと確認したいんだが、降伏を餌にして罠を仕掛けられた場合の対処方なんだがな。この場合、俺は如何すべきなの?」


 本来なら速攻処刑だがあえて問いただす。公開処刑すべきだと提案する様な根性の持ち主なら殺さずに利用したい所ではあるな。


「そ、その。身柄を拘束し、賠償金の増額で手を打つべきかと……」


 支払いすら無理な状況になると分かった上でそんな提案か。なら、俺の手駒には必要無いな。


「ふむ。それってここに所属してる騎士も衛兵連中も同じくだよな?」

「も、勿論でございます」

「ならお前の手勢を貸してくれよ。全員この屋敷に集まる様に命令してくれないかね? 俺が動くとさ、手加減が難しくて殺しちゃいそうなのよ」

「も、もも、勿論でございます。ぜ、全員に召集を掛けろ、1時間以内だ」


 伯爵の後ろに控えていた者も含めて慌てて部屋から立ち去り2人っきりとなる。

 1時間近くも暇になる事から、スイーツ製作用の泡だて器をもう一つ作る事にした。以前の品には【エターナルエンチャント/アイスブレードLV1】を付与している為にアイスクリーム専用となっている為だ。

 今回作るのは茶筅の様に下部分が無い品だ。アイスクリーム作る際にも感じていたが、輪になる様に作ると内側に挟まったのが非常に取り難いが、これなら引っかからずにスムーズだからだ。アイスクリーム用もいずれ作り直そうと誓った。





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